32 求婚
「メオ様。最後の仕上げの段階まで来ましたわよ?」
周囲に人がいないことを確認して、アラマンダは真横で丸まってウトウトしているメオに小声で話かける。
「これを挿して仕上げてほしいにゃ」
メオの肉球の上には、細い糸のような物がのっていた。
「これは……もしや……」
アラマンダは見覚えがあるそれを自分の手の指でそっと摘まみ上げる。
「我のヒゲだにゃ」
(やっぱり……メオ様のおヒゲでしたのね。6本あるということは左右に一体につき左右で一本ずつ使うということですわね)
「加護の力を込めて、自然と抜け落ちたヒゲだから安心して欲しいにゃ」
どうやら無理に切り落としたヒゲではないらしい。
アラマンダは受け取ったメオ様のヒゲを、塑像でできた猫の神様の頬にプスリと挿して仕上げる。
「か、可愛い~~~~」
自画自賛。
メオを横目に見ながら塑像作りをしたけれど、目がクリクリとしたところも再現できたのでとても可愛らしい神様が完成した。
それを見届けたメオは、その三体の塑像の頭をちょこんと前脚で撫でつける。
「よし、起動できたにゃ」
どうやら、今のが猫の神様発動の仕草だったらしい。神々しい光も何も発さないのでアラマンダにはよくわからなかった。
■■■
完成した塑像をナウと一緒に他の部族の集落に持っていくことになった。
ナウの話によると、各部族に一人だけ王国語を話せる人物がいるから会って直接渡した方が喜ばれるとのことだったので、結局、雪道をナウと一緒に猫の神様を抱いた状態で歩いて持って行くところだった。
「今から行く部族は五十人ほどの集落で、我々の部族との見分け方は三角型の帽子を身につけていることだ」
「あちらの部族は、鼻に成人したらピアスをするのが特徴で、ここの女性たちは細かい刺繍を衣類に施して、それを売りに行くことで生計を立てている者が多い」
ナウは、アラマンダが作った猫の神様には多産と子孫繁栄のご利益があるから、必ず祀って置くようにと説明をする。
それから、部族の悩みを聞き取りを行い、またナウの部族が住んでいる洞穴に戻るところだった。
「なぁ。アラマンダ。このままオレたちと一緒に暮らさないか?」
雪道をゆっくり二人で並んで歩きながら、ナウが提案してくれる。二人の後ろには聖獣猫のメオもついてきているけれど、寒くてそれどころではないようだった。
「うふふふ。嬉しいお申し出ですけれど、私には待っている家族がおりますの」
「すまない。遠回しに言い過ぎた。……オレの嫁になっては、くれないだろうか」
アラマンダは、好意を持ってくれたことに感謝してお礼を述べる。
「ナウさんの御言葉、とても嬉しいのですけれど、私は既婚者なんです」
「……そうか。すでに伴侶がおられたか。……しかし、我々の部族は妻となる女性は何人の夫を持っても良いことになっている」
アラマンダは、予想していなかった内容を聞いて少々驚く。
(一妻多夫ということですの? 確かに書物で世界にはそのような国があるとは書いてありましたが、ここに住む部族もそれを取り入れておりますの?)
「ここに住む部族は、必ず子孫を残したいと思っており、女性をとても大事に扱っている。だからこそ、夫を一人に限ることなく、何人と結婚して子を成しても良いことになっているのだ。……もし、アラマンダにすでに伴侶がいるのであれば、どうかその伴侶に相談してもらっても構わないから……オレの妻にもなることを考えてもらえないだろうか」
アラマンダの答えは決まっている。
でも、この閉ざされた地域に住むナウの考えも理解できる。すぐに返事をするよりも、対策を講じてナウだけでなく、みんなが幸せになる方法を見つけてそれを実行していったほうが、長い目でみてここに住む人たちは救われると思われた。
「ナウさん。少しだけ……返事をするお時間を待っていただけますか?」
「……わかった。是非、伴侶と話し合ってもらい前向きに検討してもらえると嬉しい」
返事は決まっているけれど、一度、城に持ち帰ってやるべきことができたのでアラマンダはニコっと微笑んで、その話はお終いにした。




