3 毒入りの盃
ルートロックは広間をぐるっと見回してから、覚悟の確認をどうやって示すのか説明を始めた。
「別室に来ていただいた者には毒を飲んでもらう。様々な毒を用意している。お腹を下すだけの毒、生涯子を産めなくなる毒、嘔吐してしまう毒、身体に痺れが残る毒、あとは死に至る毒……以上の五種類だ」
そこまで、ルートロックが説明をすると、悲鳴と共にその場で気を失う者、顔色を真っ青にする者、滑稽な提案を冗談だと受け取る者、三者三様の表情が飛び交い、なかなか収拾がつかない。
服毒させるという前代未聞の王太子妃の選考方法に、会場にいる全ての人間、当人であるルートロック以外は困惑している。
「どの毒を飲むかはわからないようになっているから、ご自分の直感で盃を選び取っていただき、判断してくれ。何が起こったとしても、私は責任はとれないからな。死に至る毒を手にする確率は五分の一だ」
そこまでのルートロック王太子殿下の言葉を聞くと、この人物が本気なのだとわかり誰もが口をつぐむ。そもそも王家の人間は、自分の発言に責任を持つように教育されている。冗談を言っているわけではないのだ。
「恐れながら、殿下……もちろん、この場で辞退しても宜しいのですよね?」
側近のサルフは、気を失っている女性を横目に見ながら、辞退しても良いのだと殿下の意志を確認する。
「あぁ。もちろんだ。無理に危険を冒してまで服毒をしなくても構わない。辞退したい者は辞退して、ゆっくり庭園に用意した飲み物を飲んで帰られると良い。……あぁ、安心してくれたまえ。庭園の飲み物には毒は入っていないから、ゆっくり味わってくれたまえ」
(何てとんでもない発言をしているんだ!!)
側近であるサルフも、ルートロック殿下の真意がわからずにあたふたしている。
辞退を申し出る令嬢が次々と現れ、会場にいた妃候補となる女性の数が瞬く間に減っていく……。
(こんな条件にしてしまったら、誰一人としてご令嬢が残るわけないじゃないか……何の為の王太子妃選びだ! めかし込んでこの広間までお越しいただいたというのに!)
サルフは、王太子妃が決まることは数年遠のいたなと心の中で悪態をつく。
(全く、この変わり者のルートロック殿下には本当に困ったものだ……)
そう思いながら、綺麗に着飾っていたのに意気消沈して足元もおぼつかない状態で出口の扉に向かう令嬢たちの姿を見ると、申し訳ない気持ちにすらなってくる。
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