25 戻ってきたアラマンダ
「ん? あの人だかりの中心にいるのは、愛しいアラマンダに見えるのだが……」
王太子のルートロックは、アラマンダが不審死の原因を突き止めて、薪を処分しているというところまで報告が届いていたため、自分の目でも確認しようと数刻前に王都を出立して、アラマンダのいる村に向かっていた。
「あれ? 彼女、人の家に自ら飛び込んで行ったぞ。よし、急いで下降してくれ」
ルートロックは、自分の聖獣であるドラゴンに乗りアラマンダと合流する為に、王都から出立していた。ドラゴンが空を飛んでいるのを目撃されると、国中が騒ぎになるため、ドラゴンは人には見えないように目くらましの隠ぺい魔法を施してもらっていた。
目くらましできる隠ぺい魔法の原理はわからないが、ドラゴンの力の一つなのかもしれない。そのおかげで、村人のすぐ近くまでドラゴンが近寄って行っても、誰にも気づかれることはなかった。
ドラゴンから飛び降り、アラマンダの走っていった家の前の人だかりの先頭に向かう。ドラゴンは、すぐにルートロックの指にはめている指輪の中に戻ってしまった。
ルートロック王太子の姿を見つけた、護衛騎士の一人が状況をルートロックに説明する。
すると、ルートロックの顔が真っ青になり、村人の目から見ても、まだ室内から出てこない王太子妃を案じているのがひしひしと伝わってくる。
「なぜ、アラマンダはすぐに出てこないのだ!!」
ルートロックは、自らも飛び込みそうな勢いで護衛騎士に行く手を阻まれる。
それを見ていたメオはルートロックの足元に纏わりつき、ひと言だけ短く鳴き声をあげた。
「にゃ」
「メオ様……心配無用ということですか? でも、中に入ってから出てくるまで時間がかかりすぎております」
「にゃ」
メオは、本当に大丈夫だから安心しろと言っているかのように、もう一度、小さく声を発した。
「あ! 見えました!」
様子を伺っていた村人の声で、皆の視線が戸口に集中する。
アラマンダは、赤ちゃんを背中に括り付けて、ほふく前進で戸口の外まで這い出てきた。
どこからどう見ても、王太子妃には見えない。
王太子妃は安全を確認してから立ち上がり、ルートロックの姿を見つけて苦笑いをする。
(見られてしまいましたか……。少し無謀でしたでしょうか……)
そんなアラマンダの姿を見て、ルートロックは人目も気にせずアラマンダの元に駆け寄り、強く抱きしめた。
「はぁーーーーーーーーーー。良かったーーーーーーー」
ルートロックは、小さな声で安堵を漏らす。
(さすがに心配をかけすぎてしまったようですわね)
「ご心配をおかけして、申し訳ございません。ルートロック王太子殿下……」
アラマンダが小さな声で謝罪をすると、ルートロックは抱擁していた手を緩めて、アラマンダの両肩に手をのせ、翡翠色の瞳を覗き込んだ。
「……どこも、怪我はしていないんだな?」
「はい」
その一言を確認すると、ルートロックはすぐに気持ちを切り替える。
一瞬のうちに為政者の顔つきに変わる。
アラマンダは、この切り替わる瞬間のルートロック王太子殿下に魅力を感じていた。
(私情を切り替える瞬間の眼差し。さすがですわ、殿下……)
アラマンダの元に駆け寄ってきたのは、ルートロックだけでは無かった。
赤ちゃんの母親も赤ちゃんが無事か心配で、すぐに抱きしめたかったに違いないのに王太子であるルートロックが王太子妃のアラマンダから離れるまで静かに待っていてくれた。
「お待たせいたしました。赤ちゃんも……無事ですわよ!」
「あ、あ、あ、ありがとうございます!! 何とお礼を申し上げたら良いのか……」
女性は赤ちゃんの目がぱちくりと開いて、母親の顔を見てニッコリ微笑む姿を見ると安心して座り込んで泣き崩れてしまった。
アラマンダは、母親の背中を優しく落ち着くまでさすり
「赤ちゃんが無事なら、それだけで私も幸せです」
とだけ、伝えてその場を後にした。




