2 王太子妃になる覚悟
王太子妃選考会の当日。
今日は、王太子妃候補に載っていた爵位を持つ女性総勢38名が王宮の広間に集まっている。こんなにも女性が押し寄せてしまっているのは、子爵、男爵を含む妙齢の令嬢を王太子の名の下でお招きしたからだ。
王宮が送った招待状には「王太子妃を選ぶために、王宮にお越しください」というような旨が記載されていたため、広間に集まる女性は妃になろうと躍起になっていた。
誰もがみな、自分が一番ルートロック王太子殿下のお傍にいるのが相応しいと思っているので、ドレス、宝石、髪型、爪先の至る所まで入念に着飾っている。
気合の入った令嬢たちは、広間に王太子殿下が入場してくるのを今か今かと心待ちにして、気分も高揚していた。
そこに、賢王の頭角を現しているルートロック王太子殿下が入場してくると、一気に会場は華やかになり色めき立つ。
広間に通されているのは、王太子妃候補ばかりで各家の護衛や付き添いの男性は別室にて待機しているため、女性の歓喜の黄色い悲鳴が上がる。
「まぁ! 何て素敵なの!」
「お顔立ちだけでなく、体格もとても素晴らしいですわね!!」
「美しすぎて、言葉で言い表せませんわ……」
ルートロックの王族としての一挙手一投足の所作が美しく、場内から感嘆の声が漏れている。
そんな中、ルートロック殿下の着席を確認したサルフは、王太子妃選考会開始の合図をする。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。只今より、王太子妃候補者の選考会を行います。恐れ入りますが、お一人ずつ別室にご案内致しますので、お名前を呼ばれましたご令嬢から順次お連れいたします。お名前が呼ばれますまでは、こちらでどうぞご歓談くださいませ」
サルフはこの時まで、ルートロック殿下とご令嬢を別室に通して少し会話をしてもらえれば、ある程度妃候補が絞りこめるだろうと安易な気持ちでいた。
サルフが順番に案内をしようと令嬢の名前を呼ぼうとした時。
急に王太子であるルートロックがサルフの次なる言葉を制して立ち上がり、広間にいる令嬢に声をかける。
サルフの考えが、ルートロック殿下のそれに及ばないことは今まで何度もあったのだが、今回は大人しく令嬢と数分お話をして直感で王太子妃をご自分で決めてくれるのだろうと、サルフは安心しきっていた。
ルートロックの考えを見誤っていたのだ。
「いや。別室に案内する前に、本当に別室に行く意志があるのか、尋ねたい」
サルフを含め、会場にいた綺麗に着飾った王太子妃候補の女性たちの頭の中に疑問符が浮かぶ。
ルートロック殿下の発言内容が脳内でうまく処理できなかったからだ。
それに気が付いたルートロックが補足説明を自ら行う。
「王太子妃の候補としてここにいるそなたたちは、それなりの覚悟をしてここまで足を運んだと推察される」
ルートロックの横に立っているサルフは、ふむふむと軽く頷く。
将来、王国の国母となるのだから、この場にいる女性はそれを覚悟をしてこの場に集っているに違いない。
「私は、そなたたちの覚悟を確認させていただきたい」
サルフを含め、会場にいる全ての者が頷きながらルートロック殿下がどうやって覚悟を確認するつもりなのだろうと疑問に感じて、次の言葉を静かに待つ。
ルートロックの提案した覚悟の確認方法とは、誰も想像したのことがない驚きの方法だった。