19 不審な死
村に到着すると、一つの小さな木造でできた家屋の外に人が群がっているのが見えた。
(何かあったのだわ)
嫌な予感がして急に背筋に寒気が走る。
口元に布を巻いているのは、アラマンダだけではない。寒い地域で雪も舞い降りてきているので、集まった人たちは防寒対策で顔や口元を覆っている人は多かった。
アラマンダは戸口の外から様子を伺う。
(亡くなったのは……二人かしら……。しかも同じ日に?)
「仲の良い夫婦だったのによぉ……」
「昨日までは、元気だったのにどうしてこんなことに……」
亡くなったのは老夫婦のようだ。戸口の外から中をチラッと覗きみる。
(!! ……あれは……)
アラマンダは、一つの可能性に思い至る。
同じ日に亡くなったとしたら、食べ物の可能性が高い。けれど、それで決めつけてしまうと視野が狭くなってしまうことはわかっていたので、まだ断定はしない。
(……でも、あの紫色の顔に、泡を吹いた口元……)
アラマンダは、全ての可能性を考えて、その可能性を全て残しておきながらも、一番、正解に近い考えを自分の知識の中から選びとる。
(……あれは、毒……ね)
辺境伯領で、敵国からこっそりと運びこまれる毒を何度も目にしていたし、その手に入れた毒を用いて、毒の耐性を付けたり、解毒薬を作ったり、いろんな知識を詰め込んでいるアラマンダが導いた答えは「毒」が一番近いように思われた。
「そうね。まだ答えを絞るには早計すぎるわ。もっと情報収集を行って、原因を突き止めることができるまでは、それ以外の可能性は残しておくべきだわ」
アラマンダは、一つ一つの情報という名のパズルを組み合わせてから、原因を突き止めることが一番大事だと思い、慌てずパズルのピースを集めることから始めることにした。
■■■
アラマンダは、室内の老夫婦の紫色で変色した顔色と口から泡を吹いている状態を見て、「毒」による不審死ではないかと予測を立てて、情報を集めることにする。
「すみません……ちょっとお尋ねしたいのですが……」
旅装束に身を包んだアラマンダは、通りがかりの旅人を装って、民家の外にいた村人に声をかけてみた。
まさか、この王国の王太子妃が国境周辺の小さな村にいるなど、誰も気づくはずはない。
「最近、このように急に人がお亡くなりになることが多いのですか?」
すやすやと眠る赤ちゃんを背中におぶった女性は、急に話かけられて肩をビクンッと一瞬震わしたけれど、アラマンダのことを旅人だと思ってくれたようで、ここ最近の出来事を思い出すように会話を始めてくれる。
「実は……五日ほど前からなのですが、この村で毎日のように人が亡くなっているのです……」
「五日くらい前ですか……本当に最近なんですね」
「私も小さな赤ん坊がいるから、流行り病じゃないといいのですが……」
「……そうですね……それは、心配ですわね」
アラマンダは、原因が毒だとは思っているけれど、何の毒かまでは今のところわからない。
(もう少し、情報が欲しいわね)
「ちなみに五日くらい前から、この村で何か変わった変化はありましたか?」
「変わった変化ですか?……特に、記憶に残るような変わったことはないのですが……」
「そうですか。教えていただきありがとうございます」
冷たい木枯らしが顔に突き刺し、その女性が寒さでブルッと身震いをしたので、アラマンダは会話を早々に切り上げる。
アラマンダは、女性にひと言お礼を言うとその場をすぐに離れた。
(長居して根ほり葉ほり旅人が聞いても怪しまれるだけだわ)