18 街の異変
王城を出立して、ちょうど十日目の昼に目的地である北部のライチェという街に到着した。
北側には東西に山脈があり、山脈の頂の白い雪が遠くからでも確認できる。
十日の旅程でも、北上するにつれて、アラマンダの白い頬に冷たい風が当たるようになっていった。
もともとアラマンダは辺境伯の令嬢だが、馬も操られるし剣を履いてもいたから、今回は着慣れている旅装束で外套を纏っている。
どこからどう見ても一国の王太子妃には見えなかった。
ただ、そんな装いであっても、白くてふわふわの猫を片手に抱いていたり、肩に乗せて歩いていたりするので、街に入ってからも周りの人からは親近感を感じてもらえたようで、声をかけてもらうことがしばしばあった。
「ん~。ひとまず、この街を散策して違和感がないか見てみましょうか。それから更に北の村と駐屯地を訪ねてみようかしら」
「はい。かしこまりました」
二人の護衛騎士、アラマンダ、聖獣のメオは昼食を食べに街で人気だという食堂に入って、食事をとる事にした。
名物であるオムレツを注文してから料理が運ばれてくるまでの間、アラマンダは全神経を集中させて周りの会話に意識を飛ばす。
「おい、聞いたか? また倒れたらしいってよ」
「何だか気味が悪いなぁ。寝込んでから次の日にはすでに冷たくなってたらしいじゃないか」
「俺も知り合いも一昨日、倒れてそのままお陀仏だとよ」
(やはり……何かおかしいわね。王都にはまだ入ってきていない情報で、この地域で何か問題が起こっているようだわ)
アラマンダは、足元でミルクをもらって飲んでいるメオ様に視線を向けると、メオ様は「にゃー」と鳴き声を上げる。
(ビンゴね。メオ様は、ここで起きている問題を解決させるために私を連れてきてくださったのだわ)
アラマンダは、メオ様が助言してくれたことに感謝をする。
(さて、食堂を出たら今、会話をしていた男性たちに声をかけて、どこの地域で亡くなっている人がいるのか聞かないといけないわね)
アラマンダは、護衛騎士にも目で合図して、食事を終えると食堂の外で待機をして、不穏な会話をしていた男性たちが道に出てきてから声をかけることに成功した。
「……あの……先ほど、会話が聞こえてしまったのですが、亡くなった方がいらっしゃるのはどこの地域ですか? 実は、私は旅をしているのですがその危険な地域を避けて行こうかと迷っておりまして……」
男性たちの顔の表情が強張るのがよくわかる。
(それほどまでに、恐ろしい何かが起こっているのですね。早く解決しないといけませんわ)
「だいたいの場所だけでも……教えていただけると嬉しいのですが……」
「俺たちはこの先の北の山脈の街道を北から南へ通って、ここまでやってきたんだが、北側に向かう街道には行かない方がいいとしか言えないな」
「ありがとうございます」
男性たちはあまり多くを語りたがらなかった。原因が何かわからないから、どこの地域が問題の発生地点なのかは彼らもわからないのだろう。
(ん~。食堂での会話から察するに、人に感染する病気かしら……。それ以外にありえるのは、食べ物。あとは環境起因の何かかしら)
アラマンダは、本で読んだことのある知識から、十分な飲み水、食料、清潔な布をこの街で買って、それを馬に積めるだけ載せる。
(ここから先は、原因がわからないから現地での飲み水や食べ物は口にしない方がいいわね)
アラマンダは、護衛騎士の二人にも同様の指示を出し、口元も布で覆ってからひとまず街道沿いにある村を目指した。
アラマンダは噂で怖がったりはせずに自分の目で何が起こっているのか確かめて、それから判断したいと思っている。
王太子妃としては、問題のある行動なのは間違いないのだが、きっとメオ様が傍にいる限り加護があるに違いないし、メオ様が行くように助言をしてくれたのだから、それはアラマンダになら解決できる事案なのだと思い、彼女は馬で更に北の地に駆けて行った。
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