16 聖獣メオの助言
「ルートロック王太子殿下。お願いがございまして参りました」
王太子のルートロックは、聡いアラマンダからの”お願い”という言葉に心がくすぐられて、どんな事案を持ち出してくるのかと心を躍らせる。
アラマンダからの無理難題に応えることができるのは、夫である自分だけの特権だと思って、顔が自然とにやけてしまう。
アラマンダは両腕に聖獣の猫を抱いた状態で、ルートロックの執務室に入ってきたが執務室に入った途端、アラマンダの腕の中から猫がピョンッと飛び降りて、ルートロックの足元をぐるりと一周して純白でふわふわとした毛をこすりつけて来た。
「ははは。私も少しは猫様に気に入ってもらえているのだろうか」
「ルートロック殿下、お名前が決まりましたの。猫様はメオ様とお呼びすることに致しましたわ」
「へぇ~。良い名だね。猫様、私もメオ様とお呼びしても?」
「にゃ~」
(メオ様は、本当に人間である我々の言葉をよく理解しておられるな)
ルートロックは聖獣である猫に話しかけることで、メオ様が人語を本当に理解しているのか再度確認をしてみる。
メオ様がきちんと返事をしたことで、こちらの話は全て理解しているとルートロックは判断した。
アラマンダにとっても、この国にとっても気高い聖獣であるのだから大切に接しなければいけないなと改めて気を引き締める。
(メオ様は身体は小さいが、私の聖獣であるドラゴンよりも、はるかに上回る能力をお持ちだからな)
ルートロックは、メオ様がレベル9999を遥かに上回り、測定不能となった『召喚の儀』を思い出す。可愛くて愛らしい猫だが底知れない力を持っているようだ。
「それで、アラマンダ。お願いというのは?」
「うふふふ。メオ様からのご助言をいただきましたので、北部の国境近くに視察に行くことを許可していただきたいのです」
ルートロックはしばしの間、硬直する。
王太子妃になったばかりのアラマンダをすぐに視察に出しても良いものか……。
安全面に不安があるが、しかし……
(まぁ。きっとメオ様も一緒に行かれるに違いない。それであれば、問題はないのだろう)
ルートロックは、アラマンダが「メオ様からのご助言」という言葉を発言したことで、メオ様は人語でアラマンダに北部の国境付近に気になる何かがあると伝えたに違いないと推察する。
聖獣が助言したのであれば、それは最重要案件に違いない。許可を出すに決まっている。
「あぁ。許可しよう。もちろん、メオ様にはアラマンダにご同行願いたいのだが、対外的にも女性と猫の組み合わせだけで、しかも王太子妃が外出したとなると、何かと物申してくる連中もいるから、護衛騎士を二名だけ連れて行ってくれないか?」
ルートロックは、アラマンダとメオ様の両方に言葉を投げかける。
「にゃ~」
「かしこまりました。許可を下さりありがとうございます」
やはり、メオ様は翡翠色の綺麗な瞳をルートロックに向けて、目を細めながらきちんと返事をしてくれる。
聖獣のご意向にも沿えた形になったのだとルートロックは胸をなで下ろした。
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