15 聖獣の名は
その頃、アラマンダは自室に籠って聖獣の猫様との会話を楽しんでいた。
「猫様……その……お名前をお伺いしていなかったので、お名前をお伺いしても?」
「? 名前などない。そなたが好きに名付けて呼べば良いにゃ」
「そうなのですね……それではメオ様とお呼びしても宜しいですか?」
「我の鳴き声がそのまま名前になった感じだが……響きは良いにぁ。よし、我の名はメオにしよう」
うふふふふと笑いながら、膝の上に座るメオの白い毛並みを優しくなでてアラマンダは顔をほころばしている。
「メオ様が人語を話されるとは思いませんでした。私の話す内容を理解していらっしゃるなとは思っていたのですが……」
「あぁ、召喚された時はまだ人語は話せなんだ。そなたとルートロック王太子が婚儀を終えて、初夜を迎えただろう? 恩恵の加護を与えはしたが、そなただけでなく、恩恵を与えた我にも恩恵が返ってくるのにゃ。それで、人語が話せるようになった」
「あら……そうなのですね。では、私にも恩恵による加護が授けられているのですね?」
アラマンダは、自分の手をこすり合わせて触ってみるけれど、以前と何も変わっていないので自分では何も感じとることができない。
「そなたへの加護は、そのうちわかるだろう。我が人語を話せるようになったことは、他言無用ぞ? 気味悪がられるからにゃ」
(時々、発音しにくいのか無意識なのか猫語が混ざっているところが、何ともお可愛らしいですわ~)
アラマンダは、人語に猫語が混ざっていることは敢えて指摘しない。
(お気づきになられて、直されてしまったら……私、楽しめませんもの……)
アラマンダは、メオとの独特な会話も気に入っていた。
「それはそうと……ルートロック王太子殿下にも秘密にしたほうが良いでしょうか?」
「ん~。あやつは気味悪がったりしない人物だろうにゃ。あやつには話しても構わないにゃ」
「ありがとうございます」
(では、機会を見てルートロック殿下にはメオ様が人語を話せることをお話しておきましょう)
アラマンダは、聖獣の猫に名づけしたことと合わせて伝える事にした。
「そういえば、北部の国境沿いの気が乱れておるにゃ」
「えっと、メオ様。それは、何か問題が発生していそうだということでしょうか?」
「そうだと思うにゃ」
「まぁ、それはいけませんね」
アラマンダは、顎に手を当てて、しばし考え込む。
(そういえば、平民と下級貴族の女性の方が馬術に興味を示されているから、何か良い方法はないか考えてみてくれともルートロック殿下はおっしゃっていましたわよね)
アラマンダは急ぎ、ルートロック殿下に聖獣のメオ様が助言してくれた北部国境沿いの気の乱れを報告するべく、取り次ぎをお願いする文をしたためた。
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