14 婚姻後の変化
服毒をして自らの知恵で生き残り王太子妃になったアラマンダは、婚儀の前に『召喚の儀』を執り行った方が良いという創世記に基づき、儀式を執り行ったところ、数百年、王太子妃になる者で成功した例はなかったのにも関わらず、無事、聖獣を召喚することに成功した。
しかも、アラマンダが望んでいた聖獣を召喚し、婚儀を終えた後、初夜を迎えることができ、創世記の記載によれば聖獣召喚による恩恵として加護を授かっているはずなのだが、まだそれが何なのか明らかにはなっていない。いずれ真偽のほどはわかると思われ、ルートロック王太子もアラマンダ王太子妃も気に留めずに新婚生活を楽しみ始めていた。
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「ルートロック王太子殿下。新婚旅行などはいつ行かれますか?」
側近だったサルフは、王太子のルートロックと王太子妃となったアラマンダの二人とも聖獣を持ったことで、強い二人を意見を取り入れて、采配がとれやすくなるように宰相に昇格していた。
シーダム王国の宰相は4人体制で行っているので、国王陛下の元へルートロックの考えを伝える役目も大きかった。巷で賢王になるだろうと囁き始めている息子、ルートロックの意見を聞き、国王陛下がその意見を反映していくことで、将来、自分が退位する時の移行が潤滑に行えるだろうと考えていた。
宰相のサルフは、年間のスケジュール調整が必要なので、どこに仕事を集約させて新婚旅行に行くための時間を作るべきか頭を悩ませていた。仕事人間のルートロック王太子殿下に甘い時間を過ごしてもらいたいという臣下としての想いも込めて、本人に尋ねてみたのだった。
「う~ん。今のところ、行けそうな時間は作れそうにないのだが、旅行はもう少し先でも良いのではないか? そんなに急いで新婚旅行に行かなくとも、すでに婚儀を執り行っただけで、王都だけでなく経済が動き出していると報告を受けてはいるが?」
(そうだった……このお方は……すぐに結びつけるのだから……)
王太子であるルートロックが、すぐに王室の慶弔を経済状況に結びつける癖があるのをサルフは失念していた。
「確かに、王太子妃殿下が身につけられていた、衣装や飾り、似たデザインの宝石類などは飛ぶように売れているとは耳にしておりますが……」
(お二人で甘い新婚時代を送らなくても良いのですかとはさすがに聞けそうにない……)
ルートロックは鼻でクスッと笑って、それだけではないのだと追加情報を宰相のサルフに伝える。
「アラマンダは、辺境伯領から王太子妃候補選びの選考会に王宮にやってきたことがあっただろう? あの時、彼女は単騎で、しかも帯刀までしてここまでやってきたことは知っていたか?」
「え? 存じません……」
サルフは、心の中で今まで会ったことのない令嬢だとは思っていたが、王太子妃選考会にまさか馬車ではなく、馬に跨って来ていたと知る由も無かった。
「ははは。アラマンダに問うてみたら、馬車だと間に合わないから馬で来ましたのよと言っていたな。なかなかやると思わないか?」
「左様でございますね……」
勇ましい女性だという事は服毒をして生き残った時点で思ってはいたのだが、まだまだアラマンダができることは数多くありそうだとサルフは心に留めておく。いつ無茶を言い出すかわからないので、気持ちの準備はいつもしておかないと……寿命が縮まるかもしれない。
「街道を馬で駆けるアラマンダを目撃していた平民や下級貴族は、女性でもやはり乗馬くらいはできたほうが、いざという時に良いだろうと思ったらしく、馬術を習いたいという女性や子供が農村部や主要都市にも声としてあがってきているそうだぞ?」
「左様ですか……」
馬は高価な物だし、平民などは馬に力仕事をさせることはあっても乗りこなす必要はないとサルフは思っているが……このルートロック王太子殿下の口ぶりだと、続きがあるのだろう。
「まぁ、この件に関してはアラマンダに任せて、彼女の考えを尊重したいと思っているから、すでに彼女にどうしたら良いか対応策を検討するように託してある!」
「……相変わらず、仕事が早いですね」
宰相のサルフは、近い将来、この王国で女性が馬に跨って移動する姿を見るのは当たり前になるのだろうなと、青空にポツンと浮かぶ雲を窓の外に確認して、小さくため息をついた。
改革が好きで、前例のないことに取り組みたがる苛烈な二人が夫婦になったのだから……このシーダム王国はどんどん変わっていくのだろう。
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