12 手の中の聖獣
ルートロックがアラマンダに声をかけようと歩みよった、その時。
アラマンダが、ルートロックの足音に気が付いたのかガバッと亜麻色の髪をなびかせて、後ろに勢いよく振り返る。
アラマンダは満面の笑みで、ある聖獣を腕の中に抱いていた。
「ルートロック殿下! やりましたわ!!」
その場にいた誰もが、アラマンダの聖獣召喚は失敗したと思い込んでいたため、聖獣が召喚されたことをいまだ信じられないようだった。
側近のサルフを始め、他の者たちは王太子であり、夫となるルートロックが初めに述べる言葉を聞くべきだと判断して静かに待つ。
「おぉ! 素晴らしいじゃないか! おめでとう!! アラマンダ!!!」
「「「「 おめでとうございます!! 」」」」
ルートロックのその言葉を聞き終えてから、同席していたサルフや王宮魔術師長、近衛騎士団長、王宮騎士団長が口々に祝福の言葉をアラマンダとルートロックに贈った。
ルートロックはアラマンダの腕の中にいるフサフサモフモフとした姿を見て、その聖獣が何か判断しようとするがけれど、その聖獣が丸まっていて全体像がわからない。
一方アラマンダは、感極まり、我を忘れて何やら叫んでいる。
(くっ、彼女の可愛い表情が見られただけで、今日は満足だ)
ルートロックは、聖獣の存在も気になるが初めて見せてくれるアラマンダの表情の方が気になってしまう。
「はわわわわ~。最高ですわね~。あら、いけない。 殿下!! どうぞ、ご覧下さい!」
喜びの声を上げて、聖獣を手の上に乗せて両腕を前に差し出すアラマンダを、その場にいた全員が刮目して見る。
「こ……これは……」
正体がわかって驚いたルートロックの言葉に、アラマンダが決定的な言葉を投げかける。
「猫ですわ!!!」
その場にいた全ての者が予想していなかった聖獣を見て、間の抜けた顔をしている。
「ポカンとする」とは、こういう時に使うのだろう。
「ね、ねこ?」
サルフも、召喚されないよりか召喚された方が断然良いと思っていたが……まさか聖獣として猫が召喚されるとは予想していなかった。
猫を凝視していたルートロックはアラマンダに一つの質問をする。
「この猫は、そなたが召喚を希望していた聖獣なのか」
「えぇ! そうですの!! 希望通りの聖獣を呼び出すことに成功しましたわ!!」
喜びを隠せないアラマンダを見て、ルートロックの表情も柔らかくなり笑みがこぼれる。
ルートロックには、わかったことがある。
アラマンダはこの儀式で証明してくれた。
まずは、希望した聖獣を召喚できることがあるということ。
そして、聡い彼女が悩み、考えて選んだ聖獣なのだから、この可愛らしい猫は……誰もが考えつかないような能力を秘めている可能性が高いということを。
(まぁ、彼女の真意に気づいているのは私だけで十分だ。 なぜなら、私が彼女の夫となるのだから)
アラマンダを理解できるのは、夫だけの特権だと思うとルートロックは更に彼女が愛おしい存在に感じられてくる。
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