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異世界恋愛短編

予知夢を見る少女は自分が幸せになる夢を見るのか? 〜婚約破棄から幸せを掴むまで〜

細かいことは気にせずに読んでいただけると幸いです


「エリーナ、君との婚約を破棄する」


 そこは大広間。

 (きら)びやかなシャンデリアがスポットライトのように目の前にいるダニエルを照らしている。


「婚約……破棄……?」


 突然のダニエルの宣言に頭が真っ白になってしまう。


「君の予知夢は使い物にならない。今日からは、ここにいるルシアの占いを信じることにした」


 スッと一人の女性が現れた。

 真っ赤なドレスを着た女性はダニエルの腕に自身の腕を絡ませて、こちらを見下し嘲笑(あざわら)っている。

 

「エリーナさん、今までご苦労様。……ああ、何も役には立っていないんでしたっけ。目障りだから、さっさとここから出ていってくださらない?」

「全く、とんだ穀潰しだったよ」


 二人の笑い声が大広間に響き渡る。


「ダニエル侯爵……どうして……」

「まだそんなところにいるのか。さっさと消えてしまえ」


 彼が指を鳴らしたと同時に自分が立っている場所にだけ穴が空いて、そのまま一直線に奈落の底へと誘われるよう落下していった─────。




「──────いやあああぁぁぁ!!」


 叫び声と共に上半身を勢いよく起こす。反射的に全身をくまなく触った。


「…………夢……」

 

 いつものベッドの中。

 額には汗が滲んでいて上手く呼吸ができない。


「違う……。きっと違う……。予知夢なんかじゃ……」


 気がついたら涙が溢れていた。

 こんな悪夢が現実になんて……、なるはすがない……。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 この日の夜、お披露目があると城館の大広間にたくさんの貴族が集められていた。なんのお披露目なのかは聞かされていない。

 華美な装飾に食欲をそそる料理の匂い。皆楽しんでいるように見える。

 きっと、ここにいる人たちの中で自分一人だけが浮かない顔をしていると思う。どうやっても、今朝の夢が脳裏から離れてくれない……。


「皆、本日はよく集まってくれた」


 純白の貴族衣装を着たダニエルが壇の上にいた。

 夢と一緒の衣装……。心臓の鼓動が大きくなる。


「今日は皆に知らせがある。新しい婚約者についてだ」


 ……嫌な予感。


「その前にエリーナ。まず君との関係についてだが」


 その先は、たぶん知っている……。

 大広間に集められた人たちの視線が痛い。


「君との婚約を破棄する」


 ……ああ、やっぱり予知夢だったんだ。


「君の予知夢は使い物にならない。今日からは、ここにいるルシアの占いを……」


 夢の先なんて聞きたくもない、見たくもない、知りたくもない。

 その場から逃げ出した。



 逃げ出したものの、城館を出た庭園のすみでうずくまって泣くことしかできずにいる。

 戻る場所もない。行く宛もない。これからどうしたら……。

 いつもそう、肝心なところは予知夢で見られない。


「君、こんなところで何してるの?」


 ……男性の声。

 ふと顔を上げる。見たことがないほど豪華絢爛(ごうかけんらん)な貴族衣装を(まと)った男性は、心配そうな顔をしてくれていた。

 歳は自分より少し上そうに見える。赤褐色の髪と色素の薄い茶色い瞳が印象的な人。

 

 この惨状をこの人に言ったところで何も変わらない。なら、話してしまった方がまだ気持ちが楽になる。どうせ、ここにいる人たちはもう聞かされているんだ。

 

「つい先ほど、ダニエル侯爵に婚約破棄を言い渡されました……。必要な時に予知夢が見れないから、もういならい、と。行く場所も戻る場所もなくて……」

「へえ! 君、予知夢なんて見れるの!」


 すごい明るい声と笑顔。

 ちょっと涙が止まった気がする。


「いつも見れるわけではないですし、見ようと思って見れるものでもないんです。……必要な時に見れなくては意味がありません」

「なんで? 意味なんてなくていいじゃん。俺も予知夢見てみたいなあ」


 夜なのにこの人はお日様みたいに明るい。

 よくある言葉だが、実際に遭遇(そうぐう)するとそう表現する以外見当たらないなと実感した。


「うん! 決めた! 君、うちに来なよ」

「……はい?」

「行く場所戻る場所がないんでしょ? 俺、君に興味沸いちゃった」


 なんて猪突猛進な人。でもなぜか嫌いになれない。とても綺麗でまっすぐな瞳。


「ね。名前、教えて?」

「エリーナ……」

「エリーナ! 今日からよろしく! 俺はアレックスね」


 ニコッと笑った顔が少年のように純粋無垢なものだったので、思わずじっと見つめてしまった。


「アレックス……さんはどうしてここに? お披露目にはいなかったんですか?」

「お披露目とかなんか退屈そうじゃん。酒も料理も堪能したから夜風に当たりに来てたらエリーナがいたんだよ」


 本当に少年のように思ったことを言う人だ。なんだかおかしい……。


「あ、エリーナが笑った。やっぱ笑った方が可愛いって」


 本当に……。

 不覚にも思いっきり照れてしまった。


「外に迎えの馬車を呼んである。さ、行こう」


 そう言ってアレックスが手を差し出してくれた。

 あれこれと深く考えるよりも先に、その手のひらにそっと手を重ねていた。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 アレックスの城館に来て半年が経った。

 ダニエルの城館よりも広くて最初は驚いたりもした。でもそれよりも驚いたのが、アレックスが皇太子であったことだった。

 皇太子が何故たかだか貴族の集会にいたのか聞いたら


「え、美味しいもの食べられるなら行くでしょ? 一応招待はもらってるんだし」


 と、あっけらかんとして答えくれた。それがまたおかしかったのを鮮明に覚えている。



 

 ここでの生活は楽しいものだった。

 タダで住ませてもらうわけにはいかなかったので、こちらからお願いして使用人として雑務をこなしている。それがまた生きていると実感させてくれた。

 

 と言うのも、ダニエル家にいた時は必要時以外はあまり部屋から出してもらえなかったからだ。

 常に予知夢を見れる状況を作り上げたかったのか、予知夢を見れる女の存在を隠したかったのかは今では知る術もないが、ダニエル家にいた時は籠の中の鳥のようで窮屈で仕方なかった。

  ……たぶん洗脳に近かったんだと思う。婚約者という形式を作って逃げられないようにしたのかもしれない。

 

 それと、あの日以降予知夢は見ていない。でも誰も(とが)めてこない。

 嬉しかった。一人の人間として、ここでは生きているような気がした。


 

「エリーナ! 一旦休憩してよ! 一緒に紅茶でも飲もう」


 アレックスが笑って手を振っている。その笑顔に密かに惹かれていた……。


 すでに庭園の中にあるガゼボに紅茶を用意してくれていたようだ。

 

「エリーナはよく働くね。もっと楽していいのに」

「とんでもないです。こんな立派な城館に住ませてもらって、何もしないわけにはいきません。それに、ダニエル侯爵のところにいた時よりもずっと楽しいんです。身体を動かすのってやっぱりいいですね」

「エリーナ、君は関係者だったから一応言うけど……」


 アレックスが神妙な面持ちになる。


「そのダニエル一家が夜逃げをしたみたいなんだ。なんでも、新しい婚約者に騙された、と」


 ……まさか、そんなことが。


「占いで未来を知ってダニエル家をもっと大きくしたかったようだが……、実際は婚約者は占いなんてできなかったそうだ。ただ金で買った情報を、いかにもそれっぽく言っていたらしい。だが、すっかりそれを信じてしまったダニエル家は『未来への投資』だの『占いの質が上がる』だのと言葉巧みに騙されて、金品をかなり貢いでしまった、と」

「婚約者……ルシアはどうなっているんですか? なんとかして取り戻せたりは……」


 アレックスは首を横に振った。


「たぶんバックに何かしらの存在があると思う。相手が小さい貴族とはいえ、そこから金を巻き上げるなんて一人でどうこうできる規模を超えてるからね」


 ……自業自得。そう言ってしまいたい。

 でも、元婚約者として同情はする。どうか、命だけはありますように……。


 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 今日は天気が良い。南風も心地よくて洗濯物がよく乾きそうだ。


「エリーナ、少し散歩しよう!」


 アレックスはまた少年のように瞳を輝かせている。

 この瞳を好きになっていた。瞳だけじゃない、きっと……。


 

「この丘の上、気持ち良いでしょ。天気が良い日に来ると最高なんだよ」

「本当ですね。自然を感じられて心からリラックスできます」

 

 アレックスと一緒に芝生に寝転んでいる。


「もうここでの生活も慣れた?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございます」

「ならよかった」

「……どうしてあの日、私に手を差し伸べてくれたんですか?」


 アレックスがにこりと笑う。いつもの少年のような笑みではなくて、大人の、優しい顔。

 空を見上げながらアレックスがゆっくりと話す。


「一目惚れ。……って言っても信じられないよね。あの城館に行った時、可愛い人がいるなって見てたんだけど、侯爵の婚約者って聞いてがっかりしてさ。でも夜に泣いているエリーナと出会った。運命だと思ったんだ。エリーナは辛かったと思うんだけど、ここで行動しなかったら二度と会うこともないと思ったら、つい」

「……私が予知夢を見れない、ただの普通の女でもそう言ってくれますか?」

「言うよ。当たり前じゃん」


 こちらを見て、満面な笑みで応えてくれた。


「エリーナを利用したくて連れてきたんじゃない。そばにいてほしいから連れてきたんだ」

「……ありがとうございます」


 涙が頬を伝う。嬉し泣きなんていつぶりだろう……。

 その涙をアレックスが優しく拭ってくれた。


「……よし! じゃあ、ここで一緒に昼寝しよう!」

「昼寝……ですか?」

「俺けっこうここで寝てるよ。邪魔も入らないし、エリーナも言っていたけど心からリラックスできて気持ちいいんだよね」


 口を大きく開けて笑っている。また少年アレックスが姿を現したみたいだ。


「エリーナ、手を。嫌じゃなきゃ繋いで寝よう」


 あの日のように手を差し出してくれたアレックス。

 もちろん、あの日のように手を取った─────。



 

「起きた? 寝顔も可愛いくて、なかなか起こせなかったよ」


 アレックスが隣で微笑んでいる。ずっと手を繋いでくれていたみたいだ。


「そろそろ戻ろうか」

「はい。でも、本当に気持ちよかったです。寝てたの十分くらいですよね、すごい良い目覚めです」

「でしょ。この場所は二人だけの秘密ね」


 手を解き、お互いゆっくりと起き上がった。


「エリーナの気持ちも知らずにこんなこと言うと迷惑かもしれないけど……。俺はエリーナが好きだ。一目惚れして、この城館で懸命に働いている姿を見てますます好きになっていった。だから……」


 真剣な目。茶色の瞳が太陽のように燦々と輝いている。


「俺と、結婚してください」




「─────はい……」


 そう呟きながら目を覚ました。

 目の前では一緒に寝転んだままのアレックスが微笑んでいる。

 

「あ、起きた? 寝顔も可愛いからなかなか起こせなくて。寝言言ってたけど、どんな夢見てたの?」


 それはきっと、近い未来の夢。

 私は、とびきりの笑顔で言った。

 

「幸せになる夢です」


お読みいただきありがとうございました

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連載中の王道異世界ファンタジー、【聖女ですが悪魔と契約を交わしました】もよろしくお願いします。

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聖女と悪魔、対照的な二人が織りなす王道ファンタジー 【 聖女ですが悪魔と契約を交わしました】

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