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元恋人と朝食を

作者: こに

 昨日の夜、恋人と別れた。

 笑いたい時に一緒に笑ってくれて、泣きたい時に代わりに泣いてくれる人だった。


「……おはよ」

「…………はよ」

 別れはしたものの、同棲しているので一夜でバイバイ、というわけにはいかず、今日も目を覚ますと彼女の艶やかな長い髪が鼻をくすぐった。

 ぎこちなくベッドを抜けて、

「今日、どうする」

と尋ねた。が、彼女は

「パンがいい……」

と的外れな返答をよこした。別れた翌日、どう過ごすかと聞いたつもりだった。

 なぜか熱くなる目頭を無視して、卵は食べるかと聞くと目玉焼きがいいと言うのでキッチンに向かった。

 フライパンを温めながら、オーブントースターに5枚切りの食パンを放り込む。


 彼女は上京すると言い、僕は地元に残ると言った。

 遠距離恋愛という選択肢についても散々話し合ったが、最終的に一緒になれる未来を想像できずに泣きながら別れた。昨日は、そういう夜だった。

 まさか卵を2つ割るとは思わなかった。


 たまごが焼けるのを待ちながら、焼けたトーストにバターを塗る。幸せの香りがした。幸せだった記憶が閉じ込められた、重たい香りがした。

 正直、もう彼女以外の人と付き合う気になれない程、彼女のことが好きだ。愛してる、という言葉を使っても、ちっとも大袈裟じゃない。結婚する気でいた。高校生の頃から、大学4年の今まで、大きな喧嘩もなく順調に付き合ってきたから。


「朝ご飯できるで」

と声をかけるのとほぼ同時に、身支度を整えた彼女がダイニングの席に着いた。

「ありがと、美味しそうな匂い」

「いっつもと同じやん」

 顔を合わせないよう皿をテーブルに並べると、

「いっつも美味しかった」

と震えた声がした。思わず顔を上げる。

 泣いていた。ぽろぽろと流れる涙を拭いもせず、彼女はまっすぐに僕を見ていた。

 動けなくなった。

 やっぱり僕も東京に行く、と喉まで上がってきた。

 ぐっと、ぐっっ、とこらえて席に着き、彼女の涙を袖で拭う。

「ごめんな」

 彼女は何も言わない。

「ほんまに、ごめんな」

 朝食は冷え切ってしまった。

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