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第六話


「ふおおおおお!!これはこれは!」


ラスティは念願のシラス丼を前に興奮していた。釜揚げシラス丼である。


「いったい、何体分の生命が私のために犠牲となっているのでしょう!?汚れ無き真っ白な魂達よ!なんと儚い命なのか!わはははは!」


「どんぶり一杯におよそ3000匹入ってるらしいぞ。」


「3000!!もはや虐殺レベルの数ですね!これ、毎日食べれば秦の始皇帝なみの虐殺者になれますね!ふははははは!!」


「まあまあ、騒いでないで食べようぜ。いただきまーす。」


「我が名はラスティ!有機生命体をも凌駕する機械生命体!さあ!いざ有機生命体達よ!我が糧となれ!ふはははは!いただきます!!」


ラスティは操作用アームに子供用スプーンを握り、器用に開口部へシラスと米をせっせと運んでいる。ハチロクはそれを、ロボットが丼を食っている・・・・、と不思議な気持ちで眺めながら自分もバクバクとシラス丼を食べた。


「うまいな、これは・・・・。」


「脊椎動物が・・・・むぐむぐ」


「生物の進化が・・・・むしゃむしゃ」


と、ラスティは何事か色々とつぶやきながら食べていた。


「ところでラスティ、お前それ全部食えるのか?」


「全部は無理ですね。」


「え?」


「私のボディに内蔵されている消化分解器官は、そろそろ一杯です。」


「おい、だったら最初に言ってくれよー。四分の一ぐらいしか食えねえんじゃねえか。なんだ、だったら大盛り頼んで二人で分けりゃ良かった。」


「何をみみっちい事言ってるんですか。これは重要な経験なんです。それを、ちまちまおすそ分けされて与えられるのでは意味が無いでしょう?ドンと丼が目の前に来て、一杯3000体の生命が横たわっている事が大事なんです。それを私が供される、これが大事なんですよ!」


「はいはい。わかったよしょうがねえな。残りは俺が食うよ。」


「すみません。もう摂取できません。残りはおまかせします。ごちそう様でした!ねえねえ、ハチロクさん、外見て回ってていいですか?」


「ああ、いいよ。気を付けてな。あんまり遠く行くなよ。」


「はーーい!」


ハチロクはラスティの分も受け取り丼を二つならべると、自分の丼からわさわさとかっこみ始めた。ラスティはピョン、と椅子から飛び降りるとご機嫌な様子で出入口へ向かった。自動ドアのセンサーを探してピョンピョン飛んでいたが、やがて自動ドアは開いて、「ヒャッホーー!!」と叫びながら出て行った。ハチロクは自分の丼に向き直り、左手で持ち上げると、右手の箸を忙しく動かし、わさわさと食べた。


「うまい!これはうまい!いくらでも食べられそうだ!」


柔らかくふわっとしたしたシラスの食感と上品な魚の香りとうま味を噛みしめながら、ハチロクは丼飯をかきこんだ。シソの葉と海苔の細く刻んだ物が、またいい香りだった。ハチロクは久しぶりに食事を楽しんだ。



「愛国救星」の旗をなびかせ、アース天狗党の一団が街へ乗り込んできた。駅前の巨大なバスロータリーまで一気に進んだ。大きなロータリーを三週した頃、全ての車両が追いついた。駅前の広いスペースにズラっと整列して車やバイクが次々と止まった。丁度真ん中あたりに巨大4WDが割り込んだ。高く設置された座席から、リーダー武田はガチャガチャと甲冑を鳴らしながら立ち上がり拡声器を手にし準備した。二三度、ピューイ!ピー!とハウリングした。部下が一人、荷台に上がってスマホを構える。


「OKっすよ、武田さん。」


リーダー武田は頷くと、甲冑をガチャつかせながら立ち上がり、スマホに向かって話を始めた。


「さて、愛国心に燃える5万フォロワー諸君!我々アース天狗党は今日、浜夏市に来ている!今日からはしばらくこの街の治安を守り、愛国救星運動を広めたいと思う!見ろ!市長達が我々を出迎えてくれている!」


さっと手を挙げ駅前へ向けると、それに合わせて部下もスマホを向けた。スーツ姿の男女が15名ほど、かしこまって立っている。左右に並んだ部下達も、手に手にスマホやカメラ、タブレットを構え市長達や自分達を撮影している。武田は拡声器を構えた。


「あー!我々はアース天狗党である!市長!お出迎えご苦労!我々はこの美しい浜夏市を守るためにやって来た!我々がやって来たからにはこの街の治安はしっかり守る!安心してもらいたい!善良な我が国の市民を守り!この国を守りこの星を守る!これが『アース天狗党』の理念である!」


「おおおーーー!!!!」


天狗党一団が鬨の声を上げる。

市長他、街の代表者が駅前に並んで気を付けの姿勢で出迎えをしていた。車上の武田に向かってペコペコと礼をしている。


「このように!浜夏市あげて我々を歓迎してくれている!我々の活動は徐々に身を結んでいるという結果である!そうだろ!市長さんよ!」


話を振られた市長は、明らかに困った様子で愛想笑いをしていた。その様子を察知した部下はすぐさま武田へカメラを向け、締めの合図をした。武田は頷いた。


「では、ここでの活動はまた順次アップしていく!どうやら、この街にも不逞の輩が入り込んでいるようだ!我々は秩序を乱す者を許さない!不逞の輩は徹底的に懲らしめて行く!また、そういった活動を皆に報告できるだろう!楽しみにして待て!諸君、応援視聴と拡散、またよろしく!」


武田がスマホに向かって軽い上官敬礼ポーズをとると、部下はスマホの録画を一端止めた。


「はい!OKです!最高です!」


部下に言われ武田は「ふふん」と一人悦に入った。場を支配するというのは気分が良いものだ。この街でまた視聴数が稼げるだろう。実はフォロワー数は一万弱なのだが、いつも実数より多く吹聴することで、他のメディアにも大勢フォロワーがいると思わせる狙いがある。武田は拡声器をしまうと、ゆっくりと車を降りた。武田の左右をアース天狗党の十六地将、八天将、四天王が並ぶ。まあ、無理矢理名付けて任命しているので、武田から見ても名前負けしている者が多いが、特攻服や軍服を着こんでいる彼らが並ぶとそれなりに迫力はある。どうせ武田への上納金額でつけられた順位だ。武田は市長達へ近づくと声のトーンを落として言った。


「市長さん、出迎えどうもごくろうさん。悪かったなあ急に。そんで、約束の物はちゃんと揃ってますかねえ?」


「はい、いえ、あの・・・・。駐車場とホテルはご用意いたしました。お食事も各ホテルで提供いたしますよう手配しております。・・・・ただ・・・。」


「ん?保安料は?」


「は、はい・・・。その、5千万というのはちょっと・・・・申し訳ございません、市の予算からですとどうしても治安維持のためとしても200万が限度でして・・・。」


「おいおい話にならんぞ、それじゃ。いいのか?部下共が略奪始めるぞ?破壊行為とか。店のショーウィンドウ全部割っちゃうよ?くくくくっ。」


おかしそうに武田は笑った。市長は青くなった。ますます声が小さくなる。必死に言いつのった。


「それは困ります!お願いですから!穏便にお願いします!どうか!どうか乱暴はやめて下さい!」


「うっっるせえ!!!」


武田は目を剥いて大声を出した。この市長はチョロい。暴力的で高圧的に出れば折れるだろう。


「勘違いすんなよ!!我々がこの街を守ってやるっつってんだ!それ相応の報酬は当然だろうが!!どうせ任期中に利権で私腹肥やしてやろう、ぐらいしか考えずに市長やってんだろ!?ため込んだてめえの汚え金から出せよ!でないと次の選挙待たずに辞職するはめになるぞ?今まで通り私腹こやせるんだ、五千万ぐらい安いもんだろ?!あるだろそれぐらい!!ああっ!?」


「そ、そ、そんな・・・私腹肥やすなんて・・・・。私は浜夏町のために・・・・。」


「簡単なんだぞ?てめえを失脚させて人生終了させるのは!いいのか?」


「そ、そんな・・・・・。」


「今から一緒に銀行行くぞ。何銀行だ?おら、行くぞ!おい、お前とお前、ちょっと来い!市長さんと銀行行くぞ!市長さんが転ばねえように手ぇ貸してやれ!」


指さされた二人、四天王の中でもひときわ身体のでかい二人が、ニヤニヤしながら前へ出てきて市長を両脇から抱え上げた。


「ひいっ・・・・」


市長は短く悲鳴を上げた。足が地面から離れてブラブラしている。そのまま武田と市長達は銀行へ歩いて行った。



ラスティは一部始終を見ていた。


「なんという下衆。なんという非道。カスナスボケイモゲロゲロカブトムシ。」


ラスティの作業用アームは怒りでブルブル震えていた。


「あのゲロカブトは許せん!」


くるっと向きを変えるとダッシュで走り出した。


「ハチロクさーーーーーん!!!」




END

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