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第十三話

どういう状況か、一目瞭然だが、それでも言わずにはいられなかった。


「なっ、何やってんですか!?」


非難がましく叫んだ。


「おうヒサ!そいつ抑えろ!5回も俺の顔に落書きしやがったのに、こっちは3回しかやり返してないんだ!

このオデキ野郎!✖✖✖マーク描いてから粉々にぶっ壊してやる!」


武田がちらっと振り向き久司に命令した。まあ、そんな事だろうと思った、と久司はため息をついた。


「ラスティ!私の名前は「ラスティ」です!もう嫌です!こんな所にいるぐらいなら破壊された方がマシです!それでも最後まで全力で抵抗します!このクソ馬鹿低能ブタ野郎!」


小さなロボットのくせにまだプライドらしきものが残っているようだ。久司は少し感心した。が、とにかくこの場を収めねば。


「武田さん、少し抑えててください。ここは俺にまかせてください。」


「ん?」


武田は怪訝そうな顔をした(少なくとも落書きの下で片眉を上げていた)が、構えていた両手を少し下ろした。久司の声で少し落ち着きを取り戻したようだ。


「ラスティ、おいラスティ。」


低く力を込めて語りかけた。


「悪かったな、ラスティ。ひどい扱いだったな、我々も反省するよ。とにかくお前も落ち着いてくれないか。ほら、ペンを下ろして」


「どうせ破壊されるんです!そうでしょう!だったら最後の半導体の一つ、ネジのカケラまで抵抗します!破壊されたら化けて出てやりますからね!!」


「ラスティ、お前ほどのスーパーロボットに失礼だったと今、つくづく反省してるんだ。さっき会議でも、話し合ったところだ。おま・・・君をこの天狗党の正式マスコットとして任命して、高待遇で迎えるべきだって。」


「なにぃ?ホントかそれは!何言ってんだヒサ!」


「武田さん、黙ってて下さい。ここは任せてください。さあラスティ、ペン置いてくれ。

あ、そうだほら、鰻重弁当があるんだ、お前のために特別に注文して用意したんだぞ」


「ウナジュウ?」


武田とラスティが同時に聞き返した。ラスティの掲げた両手、マニュピレーターが少し下がった。ラスティと武田が顔を見合わせた。「今だ」久司は素早く動いてラスティをガン!と踏んづけた。


「動くなラスティ!!」


「あああああ!!!クソッ!騙しましたね?!」


ジタバタ暴れるラスティがらペンを取り上げ、ジャケットを脱ぐとそれでラスティをくるみ、袖を縛った。これでもう身動きでない。


「武田さん、こんな事してる場合じゃないっすよ。この後忙しいんすから。」


「お、おう。そうだな、よし、うん。」


丸めたジャケットの中でモガモガ暴れるラスティと、あわてて取り繕う武田を見て久司は、軽くため息をついた。が、悪い気分ではない。自分はこの集団で役に立つ人間だ。ほら見ろ、リーダーですら自分がいないと何もできない。自分は重要人物だ。ここにいなければならない人間だ。



街から人々が続々と集まって来る。アース天狗党の強制的な招集だった。皆一様に怯えた表情で、徒歩でやって来る。会場にはアース天狗党の出店、屋台が軒を並べており、威勢のよい掛け声が響いている。必ず一人二品は購入するよう強制されていた。飲み物一つ、食べ物一つである。これもアース天狗党の貴重な財源となるのだ。人々を迎えるアース天狗党の強面の面々が睨みをきかせているため、皆嫌々ながら屋台でたこ焼きやお好み焼きを購入して箸でつついていた。缶の飲み物、アルコールもノンアルコールも定価の十倍の値段で販売されていた。


「さあさあいらっしゃい!いらっしゃい!タコ焼き美味しいよー!」

「アース党名物タイ焼だよー!あったかくって美味しいよー!」


呼び込みの声は賑やかだったが、無理に集められた人々は一向に気分が上がらない様子で屋台の間をゾロゾロと歩いて行った。お祭りの雰囲気に子供達ははしゃいでいる。が、タコ焼きはろくにタコが入っていない、タイ焼のアンコも少しだけ、しかもバカ高い値段である。作り置きをしているので温かくもなかった。子供達は屋台で買い物をしたくない大人達に手を引かれて行く。


タカも焼そばの屋台を一つ任されていた。肉や野菜はあまり入れないようにする事。肉も野菜も自分の小指の爪ぐらいの大きさに切り、一つのパックに一つずつ入れること、と厳しく言われていた。くれぐれもサービスしすぎないように、と。呼び込みの声掛けをするのは面倒だったので、タカはひたすら真面目に焼そばを作り続けた。

街の人々は脅されて出店の商品を嫌々買っているのだが、それでもそこそこ忙しかった。恐らく他の出店の者達に比べて、タカが少し優しげな見た目だからだろう。出店の中では繁盛しているほうで、作り置きをするヒマは無かった。


あのおっさん、ハチロクは「合図をする」と言っていた。「合図をするから気がついたら逃げろ」、と。

すでに自分の荷物はまとめてバックパックにいれ、いつでも逃げられるように準備はしていた。


あの時、階段で、ハチロクは気を失っている根本から上着をはぎ取り、自分の上着をテキパキと着せながら言った。


「俺がこいつと入れ替わった事は黙ってろ。」


「ああ、わかった。」


「じゃ、このあとは、逃げる準備だけして普通にしてろ。」


「実は・・・、」


「焼そば?屋台?ああ、いいな。普段どおりに振る舞ってろ。暗くなってしばらくしたら適当なところで合図を出すから、合図に気がついたらとっとと逃げろ。」


「ああ、・・・え?それだけ?」


「そうだ。あとは俺がやる。」


「いや、待ってくれよ。合図って・・・どんな合図だよ?あんたと離れてたら合図されても気がつかねえだろ?」


ハチロクはニッと笑った。なんだ?このおっさん、楽しんでるのか?


「どこにいてもわかるように派手な合図出してやるよ。」


ハチロクの腕に巻かれていた鎖を根本の腕に巻きつけ、根本の頭にコンビニ袋を被せると、首のところで縛った。根本のナイフでコンビニ袋に小さな空気穴をあけた。これでハチロクの身代わりの完成だ。


「どこにいてもわかるんだな?何かでかい音でも出す気か?」


「まあ、そんなとこだ。」


「ああ。なんか不安が残るけど・・・、わかったよ。」


「よし!頼んだぞ!」


俺が裏切るとは思わないのか?タカは不思議に思いながらハチロクのペースに巻き込まれてしまった。

根本が着ていたジャケットをバサバサはたきながらハチロクは顔をしかめた。


「うへえー、こいつのジャケットは臭すぎる。酒か?日本酒とウイスキーが染み込んで腐ったような臭いだな。おい、なんか適当な上着余ってないか?」


「あ、ああ。探してみる。多分、地下にいろいろ街から接収した物が集められているはずだから、ジャケットぐらいなんとかなると思う。」


とりあえず、ハチロクは根本のジャケットを羽織り、スカーフで顔を隠すと、根本の両脇に手を入れ抱えあげた。


「うっ、こいつ頭も臭いな。おい、足のほう頼む。」


「あ、ああ。」


2人でぐったりとしたままの根本を抱えて運んだ。持ち上げた時、根本の左足の感触がおかしかった。膝から下がブラブラしている。タカが踏んずけた時に骨折したのだろう。タカは「すまん」とつぶやいた。ハチロクはその様子を見ていた。

階段を慎重におり、地下駐車場に入っていった。


笑い声とうめき声が聞こえて来た。何かを殴っている音もする。明らかにリンチが行われている。

地下駐車場全体を見渡せる場所に出た。駐車スペースに縛られて転がされている男女が30人ほどいた。皆ぐったりしている。ハチロクとタカはそのそばに根本を横たえた。


5人のアース天狗党員が輪になって、ニヤニヤしながら1人の男を殴ったり蹴ったりしていた。その輪の外に2人、うめきながら転がっている。


「おらあっ!」


「ひゃっはっは!」


殴る音と下卑た叫びがセットで聞こえる。

タカはそっとハチロクの方をうかがった。スカーフで目しか見えないが、ハチロクは憤怒で声が出ない、という表情で彼らを睨みつけていた。


「だから!」


殴られている男が踏ん張ってその場に踏み止まると、血を撒き散らしながら叫び始めた。


「だから違うって言ってんだろ!俺達はルナリアンじゃねえって!!」


取り囲んでいる男達はさも面白い見せ物でも見るように男を眺めている。真面目に彼の主張を聞く気など無い事はアリアリとわかる表情だ。


「なんかの間違いなんだよ!俺たちはたまたま逃亡中のルナリアンから物資を買っただけで、もともとあれは俺達の物じゃねえ!俺達はルナリアンじゃねえ!!」


「うるせえ!」


不意を突かれてまた殴られた男は、バランスを崩して吹っ飛び転がった。うつ伏せになると、そのまま立ち上がれずうめいた。身体に力が入らないのだろう。両腕を地面についたまま、身体が持ち上がらないようだ。顔や頭からの出血が激しい。バタタッと音を立てて床に血が落ちた。


「あれは『光崩壊銃』か、『負電荷分解銃』だろう!大量破壊兵器だ!あんな物持ってる時点でお前はルナリアン決定!仲間も同罪だ!」


「死刑だ!死刑だ!」


周りの者達が一斉に叫んだ。

倒れたまま男は頭を振った。呆れと怒りと混乱、さらに殴られ続けて彼は疲労困憊だった。こんな奴ら相手に説明をしなくてはならないのか。こんな徒労が明らかな事があるだろうか。


「武器なんか持ってないって!何言ってんだ!?まさか、電子クリーナーの事言ってんのか?あれは人を殺す威力なんか無いぞ?ソウジキだぞ?掃除をする・・・お前ら・・・何言ってんだ?」


「うーるせえっ!!だーまれ!!」


倒れた状態のまま殴られ、男は「ぐぐっ」とうめくと黙ってしまった。最初から釈明を求めていない者に、いくら釈明したところで無駄だ、という事を痛感した。こいつらは生贄が欲しいだけだ。そして、その生贄になる者は、ルナリアンでも、ルナリアンじゃなくても、どうでもいいんだ。本当はどうでもいいんだ。

悔しくて悔しくて、血まみれの床に涙が落ちた。




END





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