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第十話


「武田さん!!見つけました!こいつですよ!」


ほとんどの者が外へ出て行き、舞台上の武田達幹部連中と、客席側に数人しか残っていない公会堂講演室に数人がバタバタと走り込んできた。男が一人、抱えられて引きずられるように連行されている。武田は丁度、「おでき」こと「ラスティ」を捕まえ、バケツに逆さまに置いてもがく様子を見てゲラゲラ笑っていたところだった。バケツの大きさが丁度「おでき」の大きさと同じですっぽりハマり、ひっくり返された虫のようにアームをバタバタさせていた。バケツの中で「助けて!起こして!」と言っている声がくぐもって聞こえる。武田は指さしてずっとゲラゲラ笑っていたが、ガヤガヤと入り込んで来た連中の方へ向き直ると、真面目な顔ですごんで見せた。


「なんだってんだ騒々しいな!」


「タカの車盗んで壊した奴です!こいつですよ!こいつですよ!」


「俺の車もこいつに火炎瓶投げられて滅茶苦茶になったんす!」


「俺も!俺もです!こいつにやられました!危うく死ぬとこでした!こいつに間違いないっす!!」


「おーおー、そうか。おう、タカの奴呼んで来い。」


興奮した仲間達に呼ばれてタカがやって来た。捕らえられた男はスカーフを鼻と口を覆うように巻いていたが、すでに何度か殴られた様子で、スカーフに血がにじんでいた。一人がスカーフをさっと下ろした。タカは男を見て「んー」と考えこむ様子を見せた。


「俺、こいつ顔をしっかり見た訳じゃないんすよ。俺の車壊したのって結局、桑谷とか岩間とかだし。」


「馬鹿野郎!仲間はお前の車を取り返そうとしてくれてたんじゃねえか!おい!他にわかる奴いねえのか!?」


武田に怒鳴られてタカは黙ってしまった。鉄パイプで自分の車をうれしそうにぶっ叩いてたのはその仲間達だったのだが。


「あ、俺・・・わかるっす。」


片手を上げた男がおずおずと前に進み出た。


「んー、なんだっけお前?」


男を覚えてない武田に、横の藤田が答えた。


「こいつは『根本』ですね。いつも酔っ払ってて使えない奴です。確か、バイクを無くしたとか言ってヒッチハイクで追いついて来たんだよなお前。」


「いや違います!そいつに盗まれたんすよ!そいつ、俺に蹴り入れてバイク盗んでったんすよ!すぐ近くで顔見たんで覚えてます!そいつっすよ!間違いないっす!」


「バイク?バイクも盗まれたのか?初耳だぞ?」


「あの時まず、そこの『おでき』がタカの車を盗んで走り出します。そんで俺らのほとんどがそれを追いかけてる時に、こいつが根本のバイクを盗んで、こいつは俺らを追い抜いて逃げる『おでき』に追いつき救出してそのまま逃げ去った。というところでしょう。」


藤田が落ち着いて事の経緯を解説した。武田はふんふんと頷きながら聞いていた。やっと納得したようだ。


「つまり、こいつは俺達『アース天狗党』に仇なす不届き者、という訳だ。死刑確定だな。縛り首か、死ぬまで車で引きずりまわすか・・・・・」


「八つ裂きにしましょう!車で首と手足を引っ張って!」


根本がうれしそうに言った。武田もニヤリと笑った。それを見て周囲の者達も「ひひ」「へへ」と笑い始めた。


「おー、八つ裂きはまだやったことないよな。」


「そうですね。」


「俺も見たことないっす!」


「やれやれ、また残酷な事思いついたもんだな。」


藤田はそう言ったが、止める気配は無かった。ザワザワとその場が不気味に高揚した気分に包まれた。その時、「おでき」はなんとかバケツから脱出しようと、アームを4本伸ばし、揃えて左右に振っていた。真下に伸ばして自身を押しても抜けないため、転がろうとしていた。何度目かでバランスを崩し、バケツがグランと揺れた。とどめに大きくアームを振り、ついにガラン!と倒れることができた。その衝撃と同時に真上に伸ばしたアームでバケツの底を強く叩き、ポンっとバケツから抜け出す事が出来た。コロコロと転がり、パッと起き上がった。またすぐ何かされるのではないかと周囲をキョロキョロ見渡したが、自分を見ている者はいなかった。


「あ!ハチロクさん!!」


男を見てすぐ気づいたが、ハチロクの様子がいつもと違うことに気づいた。こちらをチラっと見ただけで何も反応しない。


「ハチロクさん?どうしたんです?」


「あれ?ハチロクさん・・・?」


「ほら、やっぱり。」


藤田が得意げに言った。


「こいつら、グルですよ。示し合わせて俺達を襲ったんだ。おい、お前の目的はなんなんだ?」


問われたハチロクは、興味無さそうに答えた。


「俺がこいつとグルだなんてとんでもない。俺もこのチビにタブレット盗まれたんで追いかけてただけだ。」


「え?ハチロクさん?」


「じゃ、なんで俺達に火炎瓶投げたりしたんだ?」


「こいつを狙ってたんだよ。下手くそですまなかったな。」


「嘘っすよ!藤田サン!こいつ俺達を狙って襲って来たんだ!」


藤田・・・・・?ハチロクは尋ねた。


「あんた、藤田サンっていうのか?他にも藤田っていないか?」


「それは俺の弟だ。」


藤田が答えた。なるほど、兄弟でこんな迷惑パレードチームに入ってるのか。ハチロクは思ったが黙っていた。


「あー!!うっせえうっせえ!!!」


武田が叫んだ。その場の全員が押し黙った。


「いーんだよ細けえ事は!なりゆきはどうあれ、こいつは俺達の車に火炎瓶投げつけたり鉄パイプで攻撃してきたんだよな?!それで充分だジューブン!!処刑だ処刑!!そいつは明日の夜19時に処刑!はい決定!!!」


「いや鉄パイプは・・・・」


藤田が言いかけて止めた。面倒臭くなったのだろう。またノートPCに向かって何事か入力を始めた。


「そいつは鎖で繋いで駐車場にでも転がしとけ!!おい!おでき!おら!」


言って「おでき」をガンガン蹴り転がしながら武田は舞台上から消えて行った。「おでき」の「きゃ~」と、か細い悲鳴を残して。


「あれえ?なんでこいつここにいんの?」


ズカズカと8人組が入って来た。先だってハチロクに絡んで来た連中だった。


「兄貴、商店街でいくらか保安料分捕って来たぜ。おい、出せ。」


「おうご苦労さん。」


「こいつ、俺らが散々ビビらせて土下座させた奴じゃん。なんかあったのか?」


「この前、俺らの車盗んで火炎瓶投げて来たバカがいただろう。」


「あー、あったなあ。それが?」


「そいつだよ。」


「え?」


「そいつが犯人だ。」


「えっマジか?!」


「お前らそんだけ人数いて誰一人わからなかったのか?どこに目えつけてんだ?まったく?」


「あ、あー、・・・すまねえ。」


「すんません・・・・。」


「それで、処刑だ処刑だって騒いでたのか。」


「そうだ。こいつの処刑が明日夜19時に決定したんだ。さっきな。」


「処刑かあ。久しぶりだなあ、おい。」


「確かに。」


「処刑かあ!」


「お前、鹿之戸200人処刑の時一緒だったっけ?」


「ああ、いや俺はその後ぐらいから合流したんすよ。けど凄かったって話は聞いてます。動画も見たし、なあ?」


「そうそう。動画ヤバかったっす。激ヤバ。俺らはあの動画見てしびれて、仲間にしてもらったんす。」


「そうかそうか、いやあ、あん時は凄かったなあ!」


うつむいていたハチロクが顔を上げた。


「鹿之戸・・・・・・。久しぶり?・・・・・?」


何人かが呟いたハチロクの方を振り向いた。


「なんだこいつ。俺達『アース天狗党』の事何にも知らないんだな。」


「あ、ああ。知らない。どういうことだ?」


「俺達はなあ、『ルナリアン討伐』で名を上げたんだ。」


「テロリストや組織犯罪集団になったあいつら『ルナリアン』たちを民間の俺達が組織だって軍や警察に協力して大変な成果を上げたんだ。俺達の方が警察の奴らより活躍したよな。1か所に追い込んで一網打尽にしたんだ。何度も成功した。」


「けどあん時は凄かったなあ。鹿之戸の時。こっちは自動小銃いっぱい持っててなあ、あれ、ほらなんだっけあの凄い武器。あれで何人も殺してよう。あっちはショットガンが3丁とかじゃなかったっけ?」


「ああ、時空断裁砲な。軍から盗んで来たんじゃなかったっけ?当たると細切れになって吹っ飛んでな。防ぎようが無くて凄かったな。あればビビったぜ。あの後すぐ壊れちまって、だれも直せねえから手放したけど、あれは惜しい事したな。」


「バーカ。俺達がルナリアン討伐に役に立ったからお咎めなしになったけどな、俺達だって本来死刑になっててもおかしくなかったんだぞ。」


「うえー、おっかねえ。」


「あん時、カツヤの奴なんか糞もしょんべんも漏らしてな。がはは。泣き喚きながら逃げてたな。」


「がははは!いや、俺もそうだったよ。後でわかったんだ。盛大にしょんべん洩らしてたぜ。」


「ぎゃっはっはっは!!」


「あれはよう、あいつらの『アジト』に踏み込んだからな。向こうも迎え撃つ準備してたんだよ。あんな所に突っ込んでく方がどうかしてたぜ。無謀過ぎたんだよ。移動させて追い詰めた方が効率的なんだよやっぱり。その方がこっちの犠牲も少ないし。」



突然ハチロクは酷い頭痛に襲われた。眩暈も強く、気分が悪くなりたまらず目を閉じた。





その日は晴れて空気がきれいだった。秋晴れの日、空は高く風が季節の色どりをいたる所へ運んでいた。川近くのその集落は、ハチロク達「月帰り」にとって、仲間が集まり肩寄せ合って暮らす貴重な場所だった。貧しかったが笑顔に溢れていた。



頭に衝撃を受けて倒れ込んだ。


血煙であたり一面霞んでいる。


あちこちから断末魔の叫び声が聞こえる。



自分の上に何人もが折り重なって倒れているのがわかった。


目を開いても物が良く見えなかった。頭痛が酷かった。





目から涙が溢れ出た。止まらなかった。顔をグシャグシャにして、ハチロクは泣いていた。




END






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