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レーシュがきた

「すいませーん。依頼の清算をお願いします」

「ます(お願いします)」


 俺とアルマは冒険者ギルドへと戻って来ていた。

 俺は取り出した依頼票を受付嬢に差し出す。


「あ、カイン様、おかえりなさい。お早いお帰りでしたね。それで、結果はいかがでしたか」


 それはたまたま、アルマと最初にトラブっていた受付嬢だった。

 俺は帰りながら準備していた報告書を彼女に提出する。魔法を併用しての、ながら事務は王宮の事務員をしていた時に獲得した俺の特技だった。


「原因は、プラント系モンスターの繁殖拠点でした」

「なっ! そ、それはっ。繁殖拠点の主は観測できましたかっ!?」


 驚愕の表情を浮かべて椅子から立ち上がる受付嬢。


「エンシェントイビルプラントです」

「ひっ! た、大変……いま、ギルド長を」


 顔を真っ青にした受付嬢を、なだめるように俺は告げる。


「落ち着いてください。討伐済みです。これ、エンシェントイビルプラントの討伐証明の魔石です。あと、他のプラント系のも」


 俺は黒々とした大きな魔石を取り出すと、受付嬢の前のカウンターにごとりと置く。


 なぜか俺の背後でニコニコしていたアルマ。アルマも、俺の動きにあわせて背負っていた袋を下ろすと、今回討伐したプラント系モンスターの魔石を次々取り出してカウンターに積んでいく。


 大量だ。

 さすがに大変そうなので、俺も後ろを向いて魔石を積むアルマの手伝いを始める。


「……ふふ(ふふ。あの受付嬢、びっくりしてますよ)」


 一緒に魔石を積みながら、俺の耳元でアルマがそんなことを呟く。

 吐息がくすぐったい。


 ──そりゃあ、こんだけあるとびっくりもするさ。査定するのも大変だろうし。


 魔石の査定に関する事務作業を思って、俺が他人事ながら同情しているときだった。


 聞きなれた声が、俺の名を呼んでいた。


「カイン様っ! ……カイン様、そちらの美しい女性は、どなたですか?」

「──え、侍従長? どうして、ここにっ?」


 俺はアルマと一緒に覗きこんでいた袋から顔をあげ、驚きの声をもらす。


「もう、侍従長ではありません。ただのレーシュですよ、カイン様」


 笑顔を浮かべたレーシュが俺の目の前、すぐそばまでくると、両手を広げる。

 そのまま、じっとなにかを待っているレーシュ。

 残念ながら理解力スキルは仕事をしてくれない。そのため、俺は一瞬戸惑うも、なんとなく同じようにレーシュに向かって両手を広げてみる。


 レーシュが満面の笑みを浮かべると、俺の腕の中へ飛び込んでくる。そのまま、ぎゅっと抱きつかれてしまう。


 そこでようやく、理解力スキルが働く。


 ──レーシュ、リヒテンシュタイン王に爵位を剥奪されて王宮から追放されてしまったのか。なんて愚かなことを。彼女ほど優秀な人材を……。そうか、それでレーシュは顔見知りの俺を頼ってきたのか。心細かったんだな。


「カイン、その、どな?(カイン、その可愛らしい方は、いったいどなたですか?)」


 抱きついてきたレーシュを安心させるように軽く背中に手を添えた俺の服の裾が、強めに引っ張られる。

 短く告げられたアルマの言葉。そんなはずはないのだが、なぜか聞いていると、背筋が少し寒く感じる気がする。


「あの、調査依頼について詳しくお話を聞きたいとギルド長が……それと精算作業を進めたいのですが」


 そこへさらに、ギルドの受付嬢からの催促の声。


「カイン様?」「カ?(カイン?)」「カイン様……」


 俺は目をつむり、軽く集中する。理解力スキルが何とかしてくれないかという僅かな希望にかける。

 しかし、今のこの状況を無難に切り抜ける良い算段は、残念ながら理解力スキルでも手に余るのか、すっかり沈黙している。まったく、役に立たない。


 ──はあ、仕方ない。何せ、外れスキルだしな


 俺は目を開けると、自力で何とかしようと決意をかためる。転移して以来最大の難関とも言える今の現状へと、気合いをふりしぼり、立ち向かうのだった。

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