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一緒に戦ってみた

【side 侍従長レーシュ】


「おい、これはどうなっているっ!」


 広間に響くキンキンとした耳障りな声。


「……どう、とは。何についてでしょうか?」


 今回の事態の責任を負って、侍従長レーシュが率先して新王の問いに形ばかり慇懃に応じる。


「舞踏会だっ! 今日だろう! 楽隊に、食事はどうなっているのだっ、トリエト侯爵!」

「予算計上の書類が通っておりませんので、楽隊も特別な食事も、手配はなされておりません」


 冷静に事実を告げる侍従長レーシュ。国の予算によって運営される舞踏会として、予算の使用許可の書類が裁可されてない以上、それは至極当然のことだった。

 そんなことも理解出来ないたった一人の人物を除いては。


「書類だとっ! そんなものなくても、料理人と楽師に命じるだけだろう! お前は馬鹿かっ!」

「……では、そのように」

「それと、来賓はどこだっ」

「来賓は招いておりません。招待状の送付リストがございませんので」

「なぜだっ」

「王が、リストを破られたから、ですが」

「ぐっ──ふ、ふんっ! 貴族たちを緊急招集せよっ! それで形がつくだろう」

「……仰せのままに」


 崩れそうになる冷静な表情を何とか維持したまま頭を下げるレーシュ侍従長。

 隣に立つ宰相たちもまるで能面のように冷たい表情だ。

 そうして新王と僅かな護衛の兵だけを残して、それ以外の人々は形ばかりの舞踏会の準備を進めるべく散っていく。


「全く使えない連中だ。これが終わったら即刻解雇だ。実家の家令の方が何倍も使える。いっそ呼び寄せるか」


 広間にポツンと残された新王リヒテンシュタインの声は想像以上に大きく、広場に響くのだった。


 ◇◆


「アルマ、前方の草むら、三体!」


 探査魔法で敵の潜む位置を突き止めた俺が叫ぶ。


「りょ(了解しました、カイン)」


 明らかにアルマが発話を手抜きしながら、駆け寄り大剣を振るう。全身のバネを使って振るわれた大剣。さすがの身体操作だ。動きに一切の力みも、淀みもない。

 剣を振るっているだけで、芸術品のような美しさがその動きにはあった。


 その一振りによって、植物型のモンスターであるイビルプラント数体が草むらごと薙ぎ払われ、魔石だけ残して消滅していく。


 ともに行動したこの短い間に、アルマは最小限の言葉で俺が理解出来ることに気づいてしまったようだ。

 まあ、効率的ではある。俺もすっかりアルマの名前は呼び捨てだ。


 そして、アルマ自身は今の状況が、とても楽しそうなのだった。ただ、一つ、懸念はあった。

 この最小限の声でコミュニケーションが取れる状態に慣れてしまうと、アルマがずっと俺に着いてくる、と言い出しかねないという心配だった。


「うっ(カイン、後ろっ)」


 ──戦闘中に考え事なんて、するもんじゃないな


 俺は落ち着いて振り向きながら指にはめた安物の指輪を光らせる。


 ──レッドイビルプラントが一体か。前の草むらに隠れていたのは、おとりね。


 棘の無数に生えた真っ赤な触手をうねうねと動かしながら、俺に抱きつくように迫る敵。通常のイビルプラントの数倍はある大きさ。

 俺は、冷静にそれを観察して、最小限の魔力でこの場を切り抜ける算段を理解力スキルによってつける。


 光らせた宝石により発したのは、火の魔法。


 まず、俺が生み出したのは種火だった。

 ロウソクの炎程度の小さな炎を宙に浮かせる。初級魔法の中でも、本当に基礎となる魔法だ。当然、使用する魔力も最小限のもの。


 それを魔法で「複製」していく。いつも書類をコピーするのに使う魔法だったが、これもコスパの良い魔法だった。それで今回は種火の魔法自体を、倍々にコピーしていく。

 種火の数が、一瞬で数十を超えたところで、仕上げだ。


 もう目の前にまで迫りきたレッドイビルプラントの、特に燃えやすい部分にくるように種火を配置する。


 そこへレッドイビルプラントが突っ込んできた。その体に種火が触れた瞬間、風魔法で一気に酸素を種火へ送り込んでみる。


「ふう、タイミングばっちり……熱い」


 燃え盛り、あっという間に炭と化したレッドイビルプラントから距離を取りながら呟く。すぐに真っ赤な魔石を残して炭となったレッドイビルプラントの残骸が消える。


 一応、俺だって、これぐらいは戦えるのだ。


「理解力」スキルのおかげで、全ての魔法の使い方を、俺は理解はしていた。つまり、理解力スキルの代償という定額コストはあるものの、ある意味、どの魔法でも使い放題なのだ。


 ただ、問題は俺の保有する魔素が人並みしか無い、という一点。

 つまり、高ランクの魔法なんて使おうものなら、すぐにガス欠になってしまうのだ。


 そのため、理解力スキルを併用しながら、出来るだけこういったコスパの良い戦いをしていた。

 もちろん問題も多い。この戦い方の一番の難点。それは、疲れるのだった。


「うーん。森で獲物が減ってるので調査してくださいって依頼だから、プラント系のモンスターの増加が原因って事で、これで終わりにしても良いんだけど……」


 俺は冒険者ギルドで受注した今回の依頼の依頼票を取り出す。


「かい、けつ(このまま放置すると、被害が出る可能性がありませんか? カインと私なら十分に解決できると思いますが?)」


 近づいてきたアルマが俺の服の裾を掴みながら、また発話を省略してそんなことを言ってくる。


 ──なぜ俺の服の裾を掴むかな。近いって!


 距離の近さに思わずのけぞりかけながらも、俺は何とか冷静を装う。決してアルマの方が背がほんの少し高いから、近いと、のけ反らないとアルマの顔が見えない、という訳ではない。


 ──いや、確かにかなりの被害は出る可能性はあるよ。レッドイビルプラントまで出てきたんだ。おおもとには、エンシェントイビルプラントぐらいは居てもおかしくないし。


 俺は王宮の事務をしていたときに見かけた報告書を思い出す。プラント系のモンスターは、繁殖拠点を築くのだ。


 その報告書でも、繁殖拠点の周囲で複数のレッドイビルプラントが観測され、繁殖拠点の中央にはエンシェントイビルプラントが居たとされていた。

 結局その時は対応が遅れた事で、一番近くの地方都市は壊滅の瀬戸際にまで追い込まれていた。


「わかったよ。アルマは、まだ戦えるんだな」

「もち!(もちろんです!)」


 俺の服の裾を掴んだまま、嬉しそうに返事をするアルマ。

 俺たちは理解力スキルの告げる、プラントモンスターたちの繁殖拠点へと向かうのだった。


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