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痛みと恍惚の狭間で

 幻想的なきらめきに、俺の頭がふわふわとした多幸感で満たされていく。

 炎のきらめきが俺の頭を埋めつくし、その中でも最も輝かしい場所を求めて、自然と視線がさ迷う。


 そして、俺はそれを見つけた。


 どこよりも深く、美しい輝き。そこを見つめた時に訪れる多幸感は、他の場所の非ではなかった。


 自分でもそのあまりの喜びに、顔が緩みきるのがわかる。

 思わず、もっともっとその幸福に触れたくて手を伸ばすと、一歩、また一歩と俺の足はそこへと近づき始める。


 そんな俺の周囲。すぐ近くでは、何かうるさい雑音がなっていた。音としては耳に入ってくるが、その意味は全く理解出来ない。


 ただただ耳を騒がす雑音だった。


「(セシリーさんっ! カイン様が敵の本体を発見されました! そちらの建物に燃え移った炎のうち、正面の壁の右下ですっ)」


 その雑音の元が、声をあげる。すると、それを受けて美しい炎たちを潰している存在がその指示に従って最も美しい輝きの場所へと移動し始めていく。

 美しい炎が減る度に、悲しさが訪れるようになっていた俺はそれをみて最大級の悲哀に襲われる。

 思わずこれから起きるであろう悲しい出来事を止めようとした時だった。


 突然、腹部に強烈な痛みが生じる。

 俺の感じていた多幸感も、それをもたらす美しい炎が減る悲哀も貫く、激烈な痛み。


 その痛みが、俺の正気を取り戻してくれる。


「──げはっ! ぐ、ぐぅ……」


 思わず膝をつくと、俺の腹に拳をめり込ませたままのアルマと目が合う。

 申し訳無さそうな、しかし僅かに頬を上気させたアルマ。そのとろんと潤んだ瞳が、俺と目があったことで、はっとした風に元に戻る。


 そして気がつけば周囲を囲んでいたあれほど大量の火の玉と炎はすっかり消えていた。


「カイン、大丈夫っ!?」

「はぁ、はぁ、ぐ──。せ、セシリー。お手柄だっ、たね。魔族の討伐、おめでとう」


 魔族を無事に討伐したセシリーが駆け戻ってくる。


「無理にしゃべらないでっ! ──これは酷い。今、回復の祝詞をっ」

「──アルマも、いいパンチだった」

「うっ(う、うん)」


 俺が隣にたつアルマに声をかけると、なぜかもじもじととても恥ずかしそうにしている。

 その間にも、俺の殴られた腹部の痛みは、セシリーのお陰でかなり楽になってきていた。


「レーシュも、的確な指示だし、だったね」

「恐れ入ります、カイン様。ただですね、あまり無茶ばかり、しないでいただけると良いのですが──」


 優しい口調で言われたレーシュからの苦言。その整った顔は微笑んでいるが、その目は全く笑っていない。


 ──あ、あー。これは、まじの説教だ……。


 このあと行われるであろう、レーシュからの論理的かつ、優しさに満ち溢れた容赦のない「オハナシ」を思って、俺はこっそりと身震いするのだった。


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