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アレス神の預言者

「何でも、その預言者ってやつの言うことはことごとく当たるらしいよ」

「えー。アレス神の信徒ってことでしょ? 危なくない?」

「でも、興味あるだろ」


 そんな会話が後ろのテーブルから聞こえてきた。

 俺は、アレス神というフレーズに、思わず耳をすませてします。

 話の内容としては、噂話の類いのようだった。このツインリバーの街角で、アレス神の預言者を名乗る人物が現れては、辻説法のようなことをしているらしい。


 その辻説法の中で告げた預言が、これまでのところ的中していて、噂になっているという内容だった。


 そんな俺の様子に気がついたのか、レーシュとセシリーもいつの間にか俺と同じ様にしていた。


 そんな二人の様子をみて、アルマは食事の手を止めるどころか、慌ててテーブルの上の食べ物を急いで口に詰め込み始めていた。

 厄介ごとだと、本能的に感じているのだろう。


 そんな後ろのテーブルの噂話もすぐに終わって、話をしていた人たちもそのまま店から出ていってしまった。


「いまの、みんなも聞こえてた、よな」

「はい、カイン様」「興味深いですねーっ」「ん」


 三人からの肯定の返事。


「どう、思う?」


 三人が顔を見合わせて、代表するようにレーシュが口を開く。


「まだ、噂話段階ですから、真偽のほども確かではありませんし、私は静観でよいかと思います。これまでも何度かアレス神の預言者を名乗る人物というのは現れていますが、そのほとんどは勘違いか詐欺でした。まあ、もちろん人心が乱れるのは同じなのですけれど」


 しごく真っ当なレーシュの意見。

 次に、セシリーが、皆の顔色を伺うようにして口を開く。


「僕は、せめて本当か嘘か、確かめたい、かも……その、理由は上手く言えない、けど……」


 そう告げたセシリーに、続いて、アルマはパーティーの決定に従うとだけ意思を表明する。

 その三者三様の意見に頷いて、俺も口を開く開く。


「俺は、調査するか、ここから離れるかのどちらかが良いかと思うんだが……」


 それは半ば、理解力スキルの判断だった。

 理解力スキルが放置はしないほうが良いというのはこれまでもあったが、離脱をすすめるのは実はとても珍しい。俺が転移してきて初めてかもしれない。


「え、カイン様。ギルド長よりツインリバー内に留まるようにと」

「そう。なんだよねー。だから俺は調べてみる方に一票、って感じになる」


 そして皆の視線がレーシュへと集まる。

 俺たち「始まりの火種」のリーダーとしてのレーシュの決定を、待つ。


「仕方ありませんね。とりあえず情報収集をしましょうか。どうにも報酬にならない厄介事に関わるのが、私たちパーティーの宿命みたいですね」


 そう、冗談めかして告げるレーシュに、こんなときだが、俺たちも思わず笑ってしまった。



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