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アレス

「あれが、あまねく命の調停を司るとされるアレス神──あ、体が動く」


 ピクリとも動かなかった体が、急に動く。俺は確かめるように手を持ち上げる。


「セシリー! それに皆も、大丈夫か」


 はっとなって、俺は慌てて振り向く。

 俺の方をみて、セシリーが自らの唇に人差し指を当てている。


 それを見て、俺はピタリと動きを止めて、口も閉じる。


 手を下ろしたセシリーが、そっと両手を打ち合わせる。


 二度。

 そして間を置いて、次は三度。


 静寂に五回のパンパンという音が響き、消えていく。


 ──これは? ああ。アレス神が本当に去っているかの確認か。


 要はドアのノックのようなものなのだろう。まだ近くにアレス神がいるかの確認。


「ふぅ、去られたようですー」


 いつも元気なセシリーが、今回ばかりは相当疲れたのだろう。

 そのままへたり込むように地面に腰を下ろしてしまう。


「体に、異変はないか?」


 俺と、アルマとレーシュも心配そうにセシリーの元へと駆けよる。


「──大丈夫ですっ。えへへ。聖女ですって。僕、そんな柄じゃ無いんだけどな……」


 自らの唇に触れて、途中から力なく笑うセシリー。


「──せ、(聖女って、凄いんですよね?)」

「ああ、同時代に数人しか現れないと言われている。魔素の網の管理者の一人に、セシリーはなったってこと、だよな?」


 俺は言葉を選びながらアルマの質問に答える。


「管理者だなんてー。とりあえずまだ、魔素の網をお預かりしているだけなのでー」

「神の(じゅ)は?」


 レーシュが端的に質問する。真剣な眼差しだ。そしてセシリーへの心配と労りに満ちている。

 それは俺たち皆が言葉にするのをためらっていたフレーズ。

 それを率先して口に出来るレーシュはぶっちゃけ、かなり格好よかった。


「──大丈夫、大丈夫ですよー。」


 目を閉じ、自らの内面を探るように集中していたセシリーが目を開けて元気に告げる。

 神の呪というのは、神に接触したものが負う諸々の総称だった。それはさまざまなものがあるそうだが、一概にろくでもない、らしい。


「みなさん、そんな心配そうにしないでくださいよっ! あ、なんかスキルが増えたみたいですっ。聖女になった特典ですかね?」


 当然、本人は認識できない神の呪もある。とはいえ、必死に場を盛り上げようとしているセシリーに合わせるように俺たちも笑顔を作って話を合わせる。


「スキルか? どんなものなんだ?」

「うーんと、『裏祝詞(うらのりと)』ですって?」

「聞いたこと無いな」

「あー。どうも誰かを呪えるスキル、みたいですね……。えへへ……」


 そこで、我慢していたものが決壊するかのように、セシリーの瞳から、涙が溢れる。

 ポタポタと、垂れた滴が大地を濡らしていた。

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