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魔素の網

「ふぅ。これで終わったか……ん?」


 リヒテンシュタインを逝かせてあげた俺は、そこでわずかな違和感を覚える。


「どうされたのですか、カイン様」


 俺は理解力スキルが奏でる、違和感の正体について、目をつむり、考えを巡らしてゆく。


「──レーシュ、俺は護国の儀の正規手順を踏んだ場合しか知らないんだが、この場合はどうなるんだ?」


 俺は国主たる国王が変更するときの、儀式についてレーシュに尋ねる。

 護国の儀というのは、魔素の網の起点の引き継ぎの儀式。俺は前王が御罷り、リヒテンシュタインが王位を継いだときに手配した、諸々を思い返す。


 ──とはいえ、俺の手配したのはどれも裏方の雑事ばっかりだからな。儀式自体にも参加してないし。詳しい事はさっぱりだ……


「この場合は、神の介入があるとされています」

「げっ」


 レーシュの言葉に、俺は思わず顔をひきつらせてしまう。

 俺はこれでも転移者なのだが、転移するときには神とやらには遭遇していない。ただ、ここの世界の人々から折に触れてその存在について、聞いていた。

 一言でいえば、理不尽。

 それが俺の神への印象だった。


「まったく、酷いなー」


 聞いたことの無い声が、突如として俺の背後からする。

 ぎょっとして振り返る。


 そこはつい先程までは誰もいなかったはずの場所。


 一人の人影が、あった。


「やっほーやっほー。神だよ?」


 やけに気さくな風でそう声をかけてくるのは妙齢の美女。

 金髪碧眼に、緩やかなローブをまとった姿をしている。


 その女性を前にして、レーシュもアルマもセシリーも無言だ。ただ、三人とも視線を合わせないように目を伏せている。


 俺はそれをみて、思わず声をだしかけた自分の口を手で塞ぐと、慌てて三人の真似をする。


 ──危なかった……。下手な願いを口にしてはいけない、だったよな。最悪の形で叶うかもしれないから、だったか。それに目線も合わせるな、魅入られるから──


 俺は何度も聞いた注意事項を思い出す。


「みんな、もっとフレンドリーにしてくれていいのにー」


 俺たちの間を軽快に歩きながら、そんなことを言っている神。

 麗しい見た目なのに、その動作はどこか人の神経を逆撫でし、不安にするものだった。


「カインだっけ。スキルはよく育ってるみたいだね。よしよし。良い子だね」


 急に俺の前に移動してきた神に突然髪を撫でられる。

 その柔らかく滑らかな感触が、逆に恐ろしい。


「さーて、網ちゃんがぼっちになったんだっけ。次の網ちゃんの面倒を見る子がいないんだよね? あっ」


 俺の目の前から急に消える神。


「君、聖女の因子あんじゃん。次の面倒見る子が決まるまで、君の聖女の管理下に置いとくよー」


 セシリーの前に現れた神が、セシリーの顎をそっと片手で持ち上げると、そんなことを言う。

 そのまま、セシリーの了承も取らないで空いている方の片手を空中でくるくると回し始める。


 俺の理解力スキルによると、どうやら魔素の網の端をあの手で巻き取っているようだ。

 その巻き取った手を持ち上げたセシリーの唇に近づけていく神。


 俺はとっさに動こうとするも、なぜか体が動かない。それは他の三人も同じようだった。


 そこから先、何が起きたのか、理解力スキルでもわからなかった。

 ただ、俺が気がついたときには、神の姿は消えていたのだった。

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