表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

殲滅と慈悲

「見つけました。撃ち込みます」


 反転の起点となる、リヒテンシュタインを含む、モンスターの集団。それを、いちはやく発見したレーシュが、矢を撃ち込む。


 俺たちは、「探査」の余波で発見していたモンスターの集団に何とか追い付いたところだった。

 王城跡地からここまで、小走りとはいえ、ほぼ駆け通しだった。なのに、レーシュもアルマも、セシリーですらも息がほとんどあがっていない。


 ──若さと、日々の鍛練の差、だろうな……。レーシュなんてあんなに忙しい仕事の合間にどうやって鍛えてたのか謎過ぎるが……ふう、年を、感じる……


 息を荒げながら、無言で肩を落とす俺を、そっとセシリーが回復させてくれる。

 セシリーの職種たる回復師には、スタミナを回復させる祝詞もあるのだ。


 祝詞の効果で、俺の荒かった息が落ち着き、スッと呼吸が楽になる。さらには、膝に腰に来ていた疲労感もあっという間に消え去っていく。


 ここまで走ってくる間にも、何度も同じ祝詞を唱えてくれたセシリーに、俺は今回も小声で感謝を告げる。

 すると、セシリーは毎回、優しげに微笑みながら頷き返してくれるのだ。俺はセシリーが一緒に来てくれて本当にありがたいと思いながらも、アルマとレーシュが先に始めていた戦闘に遅れ馳せながら参加するのだった。


 ◇◆


「こ、(これが、反転の起点、ですか?)」


 大きなトランクサイズまで折り畳まれた肉の塊を見下ろしながら、アルマがちょっとひきつった顔できいてくる。

 その周囲には俺たちが殲滅したゴブリン系のモンスターの無数の亡骸と、あと下級魔族のものも一つ、転がっていた。


「そうだね。リヒテンシュタインだ」

「リヒテンシュタイン新王……」


 複雑な表情のレーシュ。


「ど、(どうするのですか? この人? 助かるの?)」

「いや、もう……」


 アルマの質問に俺は思わず言葉を濁してしまう。

 その後を続けてくれたのは回復師のセシリーだった。


「はい。これは魔族のポーションを大量に摂取させられています。すでにモンスター化の徴候も見てとれます。人には戻れません」

「ああ。もうこのまま、少しでも早く逝かせてあげるしかない」


 俺は年長者として、セシリーにそのまま結論を言わせ無いように、割り込むと会話の主導権を取り戻す。そして、安物の指輪をした手を、その肉の塊へむけてかざす。

 俺が何をするのか、皆、わかったのだろう。それでも誰一人として顔を背けない。


 ──みな、強いな。


 俺の手のひらの向こう、リヒテンシュタインの唯一残された片方の瞳がこちらを向く。そして、リヒテンシュタインは何かを話そうとしたのだろう。

 しかし舌も失い喉も潰されているようで、意味をなさない、声とも言えない微かな音がするだけだった。


 俺は、その音が聞こえなくなるまで待つ。


 音が消え、次の瞬間、残された瞳からすっと涙と血が混じりあったものが垂れると、目が閉じられる。


「水滴」「変質」


 色々と思うところのあった相手ではあった。しかし、最後くらいはせめて苦しまないように一瞬で済まそうと、俺は魔法を選択する。

 魔法で神経を犯す毒に変えた水滴。それを、リヒテンシュタインの肉の隙間へと潜り込ませたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ