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被害状況

「思ったよりも人的被害だけは少ないみたいだな」

「……民の避難だけは、最優先で行えたみたいですね」


 王都の道を足早に歩きながら、俺はレーシュと顔を見合わせて、どちらからともなく頷き合う。

 王都の住人と思われる人々の亡骸。確かに点々とあるのだが、王都の人口を考えれば、かなり少ない数しかない。つまりは、民の避難はある程度、上手くいった可能性が高かった。


 思い浮かぶのは、俺が王宮で働いていたときの同僚たちの顔。


 ──彼ら自身も、無事だと良いんだが……ただなあ。みんな、素晴らしい責任感の持ち主だからな……


 望み薄な希望だとはわかっていて、俺は彼らの無事を祈ることしか出来なかった。


 ──あ、危ない危ない。この世界には本当に神が居るらしいからな。下手に祈るとかすると、不味いんだっけ。曲解して願いを叶えて、莫大な代償を求める詐欺みたいな奴も居るらしいし。


 ふるふると首を横に振っていると、何度目かわからないが、再びモンスターと遭遇する。


 王都のなかも、相変わらずモンスターたちの姿が頻繁に現れる。

 俺もすっかり慣れたもので、現れたモンスターを対処しようと安物の指輪を光らせ、コスパの良い魔法を駆使していく。


「水滴」「変質」「踊れ」


 ピカッピカッピカッと三度光る、安物の指輪。


 一つ目は、火種と同じくコスパの良い、水滴を集める魔法。


 二つ目の魔法で、その水滴の成分を変質させる。一種の、モンスター用の神経毒にかえたのだ。


 そして三つ目の魔法。複数の水滴が踊るように舞い、その水滴の躍りに触れたモンスターの皮膚から、毒が吸収されていく。


「カイン様っ。あの、そこ。魔族っ! 魔族ですよっ……あ、倒しちゃいました??」


 どうやら今回はモンスターを率いて下級魔族も出てきたようだった。俺の毒水滴の躍りに、その魔族もたまたま触れてしまったのだろう。


 セシリーの指差す先で、下級魔族がもがき苦しんだあとに、あっという間に毒によって息絶える。

 簡単に魔族を倒してしまったからか、セシリーがポカンとしている。


 ──あれ、セシリーを捕まえてたのも魔族で、俺たち、セシリーの目の前でその魔族を倒したのにな。ああ。そうか。セシリーはあれが魔族だってわかってないのか。そういやあの時、セシリーはコボルドキングばっかり怖がってた風だったしな。


 あの時の魔族は、いま息絶えた下級魔族に比べると結構強かった。それなりに名のある魔族の可能性すらあるぐらい。


 その事をセシリーに教えてあげるか迷っていると、今度は下級魔族が連れだって、何体も現れる。

 その魔族対応をしているうちに、俺はその事をすっかり忘れてしまい、セシリーの誤解は結局そのままになってしまうのだった。







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