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セシリア=セシリア

「あの、助けて頂きありがとうございましたっ!」


 ダンジョンの最奥で捕らわれていた少女から、御礼を言われる。


「僕は、セシリア=セシリアと言います。あの、長いのでセシリーと呼んでくださいっ。それにしても、カイン様、お強いんですね! 僕、憧れちゃいます……」

「ああ、どうも……」


 なかなか押しの強い感じの娘だった。

 強い云々は、ここでセシリーを捕らえていた魔族を倒したことを言っているのだろう。


「ただ、あの、魔族を倒せたのは、レーシュとアルマが上手く撹乱してくれたから。二人ともありがとう。……それと少し近くない?」

「これがいつもの距離ですよ、カイン様」

「そ、(そうです。油断ならないのでこれぐらいは必要かと)」


 俺はそれ以上の抗弁は諦める。


 そうしているうちに、楽しげにセシリーとアルマとレーシュが話し始める。

 ただ、俺はその三人の会話をどこか上の空で聞いていた。


 というのも、先程倒した魔族のことで、少し気になることがあったのだ。


 それが戦闘前に魔族が話していた内容。

 魔族語で話されていたそれを、俺は「理解力」スキルのお陰で理解していた。


 その内容と、ここまでの状況を合わせて考えると、一つの結論が導かれる。


「──レーシュ、一ついい?」

「もちろんです」


 俺が尋ねると、それまで楽しげに話していた三人がぴたりと会話をやめ、レーシュが満面の笑みを浮かべて俺のほうを見てくる。


 アルマは完全に無表情だ。


 セシリーは何かを考え込んでいる雰囲気がある。


「魔素奉納式って、明後日だよな」

「そうですね。正確には明後日の早朝ですね。何か気になることがございました?」

「いや、ちょっと古巣のことでね」

「ああ。確かにビヨンド王国の奉納式は、うまくはいかない可能性はあるかと……」


 俺とレーシュがともに働いていた古巣の国。魔素奉納式という国事でも最重要なイベントの直前にレーシュを追放したリヒテンシュタインが王の国。


 追放される前にレーシュのことだから出来る限りの準備はしていただろうが、それも限界があったのだろう。

 国の中枢近くにいたレーシュがうまくいかない可能性を示唆するぐらいだ。よほどまずい状況なのだろう。


「とはいえ、よほどのことが無ければすぐには被害は出ないのも、よく知られてはいますが……カイン様、よほどのことがあると?」

「その可能性がある。万が一があった場合、ことは周辺国へも当然飛び火しうるしな。少なくとも確認には行こうと思っている」

「わかりました。セシリーさんを冒険者ギルドまで送ったら、ですよね」

「そうだな」

「では、お供します」

「わ、(私も、行きます!)」


 俺とレーシュの会話に割り込むようにして体を乗り出してくるアルマ。


「いいのか? 冒険者ギルドの依頼じゃないから報酬はないけど」

「もちっ(もちろんです! どこまでもついていきますよ!)」


 確かにアルマがついてきてくれるのはとてもありがたい。前衛として得難い人材だった。実際に魔族と戦ったときも、いつもよりアルマのお陰で疲れずに倒せたといえる。


「あのっ……」

「ああ、セシリーさん。すまない、こちらで話し込んでしまって。そう言う訳で冒険者ギルドまで送っていくが、歩けそうかな」

「はい。それは問題ないですっ」


 長い時間捕らわれていたはずだが、セシリーは口調だけでなく、仕草も元気そうだった。

 問題なく、歩けそうだと判断すると、俺たちは一度ツインリバーの冒険者ギルドまで戻ろうと出発するのだった。



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