第38話
第38話「温泉とお隣さん⑨」
それから僕らは一言も話すこと無く僕らの町の駅に着いた。仲が悪くなったわけでも喧嘩したわけでもない。ただ少し気不味さがあるだけだ。そのまま黙って歩いてマンションまで帰ってきた。
私は文也くんになんて話しかけていいか分からなかった。でもマンションの玄関まで来てしまった。ここで言わなかったら後悔する気がした。私も文也くんもドアに手をかけたところで私は言った。
「さっき言ったこと嘘じゃないから」
「さっき言ったことってなんですか?」
「あ、あ〜ううんなんでもない」
「そうですか」
聞こえてなかったみたいだ。確かに鐘を鳴らすのと同時に言ったから聞こえてなくても不思議ではない。聞こえてなかったからといってそこでさっき「好きだ」と言ったなんて言う勇気までは出なかった。
「じゃあね、楽しかったよ」
そう言って部屋に戻る千乃さんはなんだか少し残念そうだった。でも夕食を作りに来てくれた。今はさっき以上に残念そうではない。だがいつも通りでもない。
私は文也くんと別れて自分の部屋に入った。緊張の糸が切れたようにパタンと倒れた。はぁ~、最後勇気出したんだけどな〜。最後の最後は勇気が出なかった〜、私ったら情けない。言えないままでいいの?そう自分に聞いてみた。言いたい。でも言えない。それにやっぱり今好きって言われたら文也くんも困るよな。だから勇気が出なくて良かったんだ。そうやって自分にいいきかせた。でもいつかは絶対に………
あっ、もうこんな時間だ。夕食作りに行かないと。いつも通りに振る舞おう。頑張れ私!
「文也くん来たよ〜」
「今日の夕食なんですか?」
「今日はパスタ」
「了解です。ちょっと今日発売の漫画買いに行って来るんですけどなんか買ってきたほうが良い物ありますか?」
「ん〜、特にないかな。あったらまた連絡する」
「分かりました。いってきまーす」
彼が出ていって大きくため息をついた。
「はぁ~」
やっぱり一緒にいるだけで緊張する。特に頼むものもなく料理していると文也くんが帰ってきた。
「ただいまでーす」
「おかえり〜、もうすぐできるからお皿の準備して〜」
机に並べた。
「いただきまーす」
「いただきます」
「やっぱり、旅館の高そうなものもいいですけど僕の舌には千乃さんの味が一番あうみたいです」
無自覚にそんな事を言うのはやめて欲しい。
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