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異世界の女の子と異世界の揚げ物-3

今日は冷えたエールやワインでテンションの上がった客達は、飲むペースも早かったようで酔いつぶれた人が目立ってきた。


そりゃ揚げ物と冷えたエールは最強の組み合わせだからな!酒が進むのも当然だな!うんうん!


注文も減ってきたので、俺も何か食べさせて貰おうと、マスターの所へ向かった。

セリーヌは夕食を食べていた。体も小さく少食のようで、あんなちょびっとしか食べていなかったのに家を出た時はお腹はあまり空いていなかった。

だが、それから数時間働いて、かなり腹が減ってきた。

なので料理を注文しようと思ったのだ。


厨房にいるマスターに声をかけて、バイト代と相殺で何か食べさせて欲しいと頼むと、マスターは優しい笑顔で返事をするとすぐに準備をはじめてくれた。


揚げてくれたのはオークの肉だ。

何も付けずにそのまま素揚げした物に塩をかけて食べるのだそうだ。


お酒は飲まないと伝えると、ぶどうのジュースを出してくれた。

このぶどうジュース、めちゃくちゃ濃い!美味いけど、濃すぎて喉が乾きそうな程だった。

アルコール発酵してないだけのワインのようだ。

濃いぶどうジュースをチビチビと飲みながら待っていると、おまたせ!という声と共に、いい匂いの肉の素揚げが届いた。


おお!美味そぉ!


マスターにお礼を言い、いただきます!と、早速食べる。


外はカリッと揚がっており、中からは肉汁がしっかり出てくる。


「うっまぁぁい!!」


これが異世界の揚げ物かー!ジュワッと溢れ出す肉汁、脂も甘く味が濃い。うん、美味いな!味付けが塩だけなのも納得の美味さだ。元々の素材が美味いからどう調理しても美味いんだろうが、揚げ具合が最高だ!


だが、やはり素揚げは素揚げだ、美味い揚げ方を知っているのに素揚げのみでは味気ない。

マスターに直接頼んで、理想の揚げ方をしてもらおうと、出された揚げ物を食べながら目論見中だ。



食べ終わると、マスターに話しかけ、作って欲しい物の説明をすると少し戸惑いながらも了承してくれた。

厨房に何があるかを教えてもらうと、塩も胡椒も小麦粉も卵もパンもあるようだ。ソースは無いが、そのままでも美味いだろう!と思っていると魚醤とワインビネガー、それから元々付け合せに出していたレモンのような柑橘があった!うぉぉぉ!ナイスー!


俺はパンをチーズグレーターという本来はチーズを削る道具でガリガリ削りながらマスターに揚げ方の説明をした。

それにしてもこのパン、めっちゃ硬いな!まさにパン粉にされる為に作られたかのようなパンだ!

いや、日本のパン粉製造所で作られるパンの方が柔らかいかもしれない……と考えていると、うっかり言葉が漏れていたようで、そのパンは3日前のもので余計硬いんだと教えてくれた。

その日に焼いたものならもう少しは柔らかいそうだ。


だが、ガリガリ削るにはちょうどいい硬さなので、うっかり言葉が漏れたのを謝罪すると、マスターは気にしていない様子で笑っていた。

熊みたいだがいい人のようだ。


揚げてくれるのは先日串焼きでも食べたし、さっき素揚げにもしてくれたオークと、レッドボアという赤い毛のイノシシの魔物の肉だそうだ。オークはすげぇ美味かったし、レッドボアも期待大だな!


3cmくらいの厚みで切られた肉に塩と胡椒がまぶされ、その上から小麦粉、卵、パン粉と順につけられた肉が油の中にザブンと入れられるとすぐに、ジュワァァァァァァといい音が鳴り始めた。


あぁ、美味そうな音……


その音を聞きながらご機嫌に魚醤とワインビネガーとレモンのような柑橘を混ぜてタレを作る俺。


大根おろしもあればなぁ……とガサゴソとあちこち探って、店員のお姉さんにも聞いてみたが、それはさすがに出てこなかった。


混ぜたタレをさらに少し入れて、ワクワクしながら肉が揚るのを待っていると、ジュワァァァという音が小さくなりチリチリという音に変わると音が途切れた。

どうやら油の中から引き上げられたようだ。


俺は急いで椅子から飛び降りるとマスターの所へ急いだ。


「どう?どう?上手く揚がった?」


「おう、こんな見た目のもん初めてだから、上手く揚がってるか分からないぞ?」


まな板に乗せられた肉は綺麗な黄金色に揚がっており、パチパチとまだ僅かに油が跳ねている。


うっまそぉぉぉぉ!!!


「最高です!完璧です!それです!それそれ!それが食べたかった!マスターすごい!」


「おぉ、そ、そうか?」


マスターはベタ褒めされて、かなり照れているが、満更でもなさそうに口元がにやけていた。


美味そうに揚がった肉をザクザクザクッと、食べやすいサイズに切って皿に乗せて渡してくれた。

そう、作ってもらっていたのはトンカツだ!いや、オークカツと、ボアカツか?

まぁいいや、素揚げも美味かったが、やっぱり衣がある方が良いよな!


はぁ〜美味そう!


受け取った皿を持っていそいそとタレを準備している席に移動する。


すると後ろでまたジュワァァァと音がしているので同じ物を揚げているのだろう。

それで分けてくれと言われなかったんだなと、なっとくすると、席に着いて、フォークでオークカツを刺した。


ザクッ


うん、いい音!


コレをまずは、タレは付けずにそのまま……


ザクリッ


サクッサクに揚がった衣に歯を立てると、サクサクの後にしっかりした肉質の弾力が。だがその肉は固すぎず歯切れ良く噛み切れる。

そのまま咀嚼すると、衣のサクサク感と肉の弾力、それから肉から溢れ出てくる肉汁が合わさって……ん〜たまらん!美味い!これ、これ!これが食べたかったんだよ!

またこの美味いオークの肉で作ってもらってるから尚更最高だな。

ボアはどうかな?


ん〜!こっちも美味い!何だこれ!本当に美味い!イノシシっていったら臭みが有りそうなもんだが、それが一切無い。少しミルキーな感じもする甘い脂と肉汁が溢れてくる凄い美味い肉だ。

それがカツになっている事で、閉じ込められた肉汁が噛む度口の中に溢れてくる。

だが、その脂は全くしつこさがなく、幾らでも食べられそうだ。

やべぇ、ボアカツにハマりそうだ。

まさかこんなにボアが美味いなんて……


今度は先程作ったタレをつけて……と味わっていると、厨房の方から、「うんめぇぇぇぇぇえ!!!」と大きな声が店中に響き渡った。


ッ……??!


さすがの俺もあの声には身体をビクリと震わせたほどだ。

マジでビビったわ!マスター声でか過ぎ!

その後にも店員の女性の声も響いている。


その声にも驚いていると、マスターはバタバタと俺の方へかけてきた。


「何だこれは?!美味い!美味すぎるぞ!たったアレだけのことで、美味すぎるんだが、何をしたんだ??!」


何をしたって、衣をつけて揚げたのはマスターだ。俺はアレしてコレしてと頼んだだけだ。


「美味いですよね!カツ!」


説明が面倒くさくなった俺は残りのカツを堪能しながら、笑顔で返事をした。


「カツ?」


「そのパン粉つけて揚げるのカツって言うんですよ」


カツはやっぱ嫌いな人いないよなー!異世界でも美味いと認めて貰えてなんか嬉しいぜ!


「うむ、カツか……コレは素晴らしい!これを知ってしまったら元の揚げ方にはもう戻せんな!」


「コレもどうぞ」

そう言って俺はソースの代わりに作っていたポン酢もどきを渡した。

醤油の代わりに魚醤を、酢の代わりにワインビネガーを、すだちやかぼすの代わりにレモンに似た柑橘を使ったが、なかなか美味く出来た自信作だ!


「コレもうっめぇぇぇぇええ!!!」


う、うるせぇ!美味いのはわかったから、声のボリューム下げてくれ……


「美味い!美味すぎる!な、な、なんだこれは?」


「ポン酢です」いや、正確にはポン酢もどきか……?


「ポンズ?コレは素晴らしい……この爽やかな酸味が脂っこさを消してくれ、これをつけると延々と食べていられそうだ……」


そうでしょ!そうでしょ!ポン酢はさっぱり食べたい時にオススメの調味料だからな!

これに大根おろしや大葉があればもっと最高だったんだがなぁ……


マスターはかなり気に入ったようで、どうしてもと言われ、ポン酢の作り方も教えた。さらに、明日からこのパン粉を纏わせたカツを店で提供してもいいかと尋ねられた。


「もちろん!どうぞどうぞ!」


俺は2つ返事で了承した。

これでこの世界でも美味いトンカツ、もとい、オークカツとボアカツが食べられると、ご機嫌だ。

カツも食べ終わり満足したので、食べた分と相殺してもらったバイト代を貰って帰ろうと思っていると、食べた分はマスターがご馳走してくれるそうだ。バイト代も新しいレシピを教えた事でかなり奮発してくれ、結構な額を貰った。

美味いカツとポン酢を教えてくれたお礼だと言っていた。

これでセリーヌもあまり無茶な事をしなくてもしばらく大丈夫だろう!

さらに、弟への手土産にと余分に揚げてくれたカツを持たせてくれた。

このおっちゃん本当に良い人だな!熊みたいだけど。


俺は、お礼を言い、セリーヌの体を家に帰すためにお店を後にするのだった。


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