3、異世界の女の子と異世界の揚げ物-1
あれから1週間ほど経った今日、俺は森に来ている。
しばらく街の図書館に篭って、人が読んでいる後ろから覗き見しながら魔物について調べていたのだ。
いやぁ、大変だった。
なかなか魔物について調べている人がいないんだよな……
誰かの体を借りようかとも思ったのだが、先日体を借りた男の噂が思ったより街中に広がっててな、ちょっとビビったぜ。今じゃ冷えたエールやワインの美味しさを広めた人としてかなりの有名人だ。
あの串屋も胡椒や唐辛子をふりかけた串焼きが大好評のようで、毎日客が溢れかえってる様子だ。
それから、最近は氷魔法が使える人があちこちの飲食店で引っ張りだこのようだ。ちなみにあの体を拝借していた男は氷魔法は使えないみたいだ。何故あの日だけ使えたのか?ってのは七不思議みたいに街中で噂されてるよ……ハハ……ホントすいませんでした……
まぁ、それは見なかったことにしよう!うん!
んで、昼間は皆忙しそうにしているのに体を借りたらその人はやりたいことが出来ないだろうし、図書館に入った人も、入るのにお金がかかるからな、調べものをするのに行ってんのに調べられないなんて事になったら悪いしな……
図書館の受付の人も、受付業務だけでなく、なんか他にも色々やってるみたいで忙しそうで、体を借りられそうな人が見つからなかったのだ。
いやぁ、マジで大変だったわー!
体が無いってこんなに不便なのな……
レグルスからはまだ体は届かないから、まだアマテラス様に怒られてんのかな……?それを思うともう1週間経つのでさすがに可哀想な気もしてくるな。まぁ、考えても何ともしてやれないから、仕方ないんだけど……
さてさて、そんなことより、どこで練習しようかなと、森の奥までやってきた俺。
何かいい的に出来そうなものは無いかとふわふわと歩いていると、大きな岩を発見した。
「お!いいじゃん、これにしよう!」
岩に向かって氷の魔法を飛ばしていく。
うん、氷魔法はなかなか威力が上がってるな。
先日エールを延々と冷やすのに氷魔法を使っていた為か、火や水などの他の魔法に比べ、氷魔法は攻撃にも使えそうな威力の物も出せるようになっていた。
それから風魔法もだ。
これも暇な時に風魔法を練習していたので威力が上がっている。
何故風かって?これが一番目立たないからな!
目に見えるような魔法の練習なんかしようもんなら、怪奇現象と間違われてもおかしくないだろ?
それに比べて風は目に見えないし練習しやすかったんだよな!
せっかく全部の適性があるんだし、全部の属性の魔法を使いこなせるようになりたいところだが、魔物相手に戦えるようになるのが先かな?
その場合、成長している属性をさらにしっかり練習していくのがいいか……?
そんなことを考えながら、しばらく氷魔法の練習をしていると、何処からか悲鳴のような声が聞こえた。
「ん?」
……気のせいか……?
「いや、やっぱり聞こえるな……こっちか!」
悲鳴の聞こえた方へふわふわと走っていくと、声はだんだん大きくはっきり聞こえるようになってきた。
いた!女の子だ
……え?!なんだありゃぁ?!
見つけた女の子を追いかけているのは、デカい……かなりデカいムカデのようだ。
ひぃぇぇ!怖っ!?しかも、気持ち悪っっ!!
いや、俺はそんなに虫苦手な方じゃなかったが、アレはやばいわ、気持ち悪すぎるわ!んで、デカいわ!
そのムカデは長さが10mはありそうな程の大きさだった。口の元に左右から生えている毒ヅメが30~40cm程のナイフのようなサイズだった。
あんなん刺さったら、毒が無くても死んじまうだろ!
あまりの気持ち悪さにかなり躊躇しながらも、俺は巨大ムカデに向かって氷魔法を放った。
名前をつけるなら『アイシクルランス』といったところだろうか。
氷の先を鋭く鋭く極限まで尖らせた氷を次から次へとムカデに向けて放っていく。
巨大ムカデは「ピギャァァァァォ」と、虫らしからぬ鳴き声を上げて、体をくねらせもがいている。
その動きがまた気持ち悪かった。
体をうねうねとくねらせると、体の両脇から無数に生えている足が連動してうねうねと動き回る。まるで無数の虫が絡み合って動き回っているかのようだ。
うっ……オエッ……やべぇ、気持ち悪っっ……何あの動き……
霊体なのに嘔吐くんだなと、余計なことを考えつつも、巨大ムカデが動かなくなるまで氷魔法を打ち込み続けた。
「はぁ、やっと倒したか……?」
巨大ムカデが動かなくなると、女の子は辺りをキョロキョロと見回している。
誰かが助けてくれたと思ったようだ。
だが助けたのは俺だ。誰にも見えることの無い霊体なので、大丈夫だったか?と声を掛けることも出来ない。
ふむ、なかなか可愛い子なのに残念だ。
だが見たところ10代後半か、20代前半……いや20にはなっていなさそうなほど若く見える子だ。
俺はロリコンでは無いからな、好みはもう少し年上の子だ。さすがに10代は若すぎる。
見た所怪我もしていなさそうだし、助けるのが間に合って良かった!
女の子は辺りを随分探していたが誰もいないのが分かると、神様ありがとうございます!と両手を組んで熱心にお祈りしている。
神様が助けてくれたとでも思ったのだろうか?
この世界の神様……ってことは、若干ポンコツのレグルスか!あいつ、人を助けたりなんかするんだろうか?
まぁ考えても分からんしな、まぁいいか。
女の子はお祈りを終えると、巨大ムカデを解体し始めた。
うぉ?!……なかなか……グロいな……
オエップ……
俺、冒険者は出来ねぇかもしれねぇ……
冒険者になったら解体とかしないといけないのか?
このグロいのに慣れる事とかあるんだろうか……?
動物の解体すらする必要のなかった平和な日本で育った俺はこの目の前の凄惨な現場を直視するのもちょっとしんどい……テレビだったらモザイクが入っている事だろう。
グロいけど、女の子がまた何かに襲われても大変なので、傍で見守ること1時間ほど。巨大ムカデは綺麗にバラされてヒモで結ばれ、女の子に担がれた。
そのまま街に戻るのかな?なんとも頼もしい姿だ。
手に持っている籠には草?……いや、薬草とかかな?
薬草を詰みに森に来た所を襲われたのかもしれないな。
結構魔物や動物もいるみたいなのに、こんな若い女の子が1人で来るなんて危ねぇな……
街まで見送って行くかと、着いていく。
街に着くと、迷うこと無くスタスタと進み、入っていったのは薬師ギルドだった。
へぇ、薬師ギルド所属の子かな?
俺は興味本位で女の子のあとを追い、薬師ギルドの中に入った。
へぇ……なんか魔女の家みたいだな……
あちこちに謎の植物がぶら下がっており、カウンターの奥には壁一面に引き出しがある。かと思えば、横の棚には、何かよく分からないものがホルマリン漬けか?というような状態で瓶に入っていたり、大きな壺があったり、とにかく怪しい。怪しいものが所狭しと置かれている。
ここは薬師ギルドだし、全部薬の材料なのだろうか?
おっと、さっきの子は……?
ギルド内を探すと、受付に歩いて行っていた。
薬草の情報が聞けるかもと、女の子の後を追う。
どうやら先程の解体した巨大ムカデも買い取って貰えるようだ。
あの背中の甲羅は防具の材料に使われるらしく、なかなかいい値段で買い取って貰えるようだ。それから口元の毒ヅメ、これがなんと解毒ポーションの材料になるのだとか。そんなもんまで売れるのか……この女の子よく知ってんな!
解体して要らないものは土に埋めていたので知っていて持ち帰って来たのだろう。
若いのにしっかりした子だ!と感心していると査定と買取は終わったようだ。
籠いっぱいに入っていた薬草も、傷用のポーションの材料だったようだ。
にんまり笑顔になるほど、いい金額で取引が出来たようだ。
良かったな!
取引が終わるとルンルンと軽い足取りでギルドを出ていく。
もうすぐ夕方だし、俺も晩飯を食べるのに体を借りられそうな人を探すか!