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王女様と異世界の栗-3

ガラガラとトローリーを押しながら、カシアと一緒にまた中庭のガゼボまで戻ってきた。


庭には沢山の花々が咲き乱れており、ふわりと優しい風が吹いている。

風が頬を撫でる度、花々のいい香りも運んでくる。


先程はアナスタシア王女様のギャーギャーと叫ぶ声に気を取られ、あまり景色を見ていなかったが、改めて見ると本当に美しい中庭だ。


素晴らしい景色に感動し、足を止めていると、カシアに早く行きますよ!と声をかけられた。


ガゼボでは先程までギャーギャーと不機嫌に文句を言っていたとはとても思えない程大人しくアナスタシア王女様が待っていた。


お待たせしました。と声をかけると、期待に満ちた目でこちらを見る。


お口に合うか分かりませんが……


そう前置きをしてから、クローシュが乗せられた皿を目の前にコトリと置いた。


早く蓋を取ってくれと言わんばかりの目で見つめられ、クローシュをそっと取ると、「ふわぁ!可愛い!いーい匂い……」と、アナスタシア王女様はホットケーキの乗った皿をキラキラした目で見ている。


ナイフとフォークを渡し、食べ方を説明する。


「生クリームを乗せて食べてもいいですし、蜂蜜をかけて食べてもいいですし、こちらりんごのジャムを乗せて食べてもいいですし、フルーツと一緒に食べてもいいです。ご自由にお楽しみください」


そう伝えると、どうしようかと楽しそうな表情で皿の上をキョロキョロと見回す。


「お悩みでしたら、全部乗せて食べても美味しいですよ」


「ぜ、全部……そ、そんな、そんな事をしても良いの?」


「もちろんです」


アナスタシア王女様は、ゴクリと生唾を飲み込むと、そっとホットケーキにナイフを入れ、1口サイズに切り取ると、蜂蜜、りんごジャム、生クリームと、周りに並べてあったフルーツから柿を1切れ乗せて、大きな口を開けてパクリと食べた。


「んふっ!ん〜〜〜〜〜〜!!!」


言葉がなくとも、なんと言いたいか分かるほど、幸せがにじみでた(とろ)けた表情で、ん〜!ん〜!と唸っている。

小さい頬を小動物のようにパンパンに膨らませ、モグモグと咀嚼する様子は、驚く程可愛らしかった。


ぐっ……これは溺愛されるのも納得の可愛さだな……


メイドさん達は、アナスタシア王女様が何かを食べてこんな幸せそうな表情を見るのは、ケチャップを食べた時以外には初めてだと言っていた。いつもこんなに可愛らしい反応なのかと思ったらどうやら違ったようだ。


おお、ケチャップが好きなのか!


こっそり話を聞くと、最近は何にでもケチャップをかけて食べているのだとか。


それはケチャップにハマりすぎだな!そのままでも美味い食材は多いのに、そんなになんでもかんでもかけなくても……


メイドさんとコソコソ話しながら、そんな事を考えていると、アナスタシア王女はすごい勢いで食べ進め、あっという間にホットケーキを食べ終わったようだ。渋めの紅茶も砂糖とミルクを入れたら口に合ったようで、美味しいと言って飲んでいた。


そして、満足すると俺に向かって、「おやつは毎日これにしてちょうだい!」と、言ってきた。


え……


言われた俺は、一瞬フリーズしたが、「……料理長に伝えておきます」と、頭をフル回転させ言葉を絞り出すのだった。




はぁ……焦った……毎日俺が作るとか無理だしな


体も借り物なうえ、俺は別に王女様のお世話係では無い。

今日はモンブランが食べたくて厨房を借りにふらっと来ただけだ。


だが、相当気に入ったようだったな!あの満足そうな顔……良かった良かった!


そう思いながら食べ終わった食器をトローリーに乗せて厨房に片付けに行くと、厨房の中では先程作ったホットケーキの生地を焼いてみんなで食べていた。


「うっめえ!」「何だこれは!」「なんて美味さだ!」「フワッフワだな!」「こんな美味い菓子があったなんて……」


大きな声で美味い美味いと大騒ぎだ。


そうだろ!そうだろ!ホットケーキはおやつの定番だからな!


だが、俺は1口しか食べてねぇのに、何でこいつらバクバク食ってんだよ!


ゴホンっ!と、入口で咳払いすると、厨房の中はシンっと一瞬で静まり、ギギギッと言いそうな首の動きで、皆こちらを向いた。


「俺……じゃなくて、私の分はちゃんとあるのかな?」


「は、はいー!す、すぐに準備致します!」

そう、顔を青くして、焦った様子で返事をしたのは料理長だ。


先程、さっさと王女様に持っていけと追い出したのに、自分たちだけ食べていたのだから、それも当然だろう。


わたわたと、ホットケーキを焼く準備を始めている。


その様子に他の料理人達も気まずそうな顔をする。


まだホットケーキを食べ終わっていない。だが、この雰囲気の中、続きを食べるのは気まずい……といった様子だ。


チラリとそちらを見ると、皆ビクリと肩を震わせた。


「さっさとそれを食べて、食べ終わったら手伝って欲しい事があるのだけど?」


「はい、お手伝いさせて頂きます!」

声を揃えていい返事が帰ってきた。


別に怒ってはいないんだがな、皆がビビっているのを利用させてもらって悪いが、ついでにモンブラン作りを手伝ってもらおう!フハハハハ




さてさて、用意する物は、薄力粉、砂糖、バター、卵、ベーキングパウダー、牛乳、栗、生クリーム、だ。


まずは、料理人に栗の渋皮を剥いて、茹でて置いてもらう。


別の料理人に、薄力粉、砂糖、バター、卵、ベーキングパウダー、牛乳を混ぜ合わせ、ケーキの焼き型は無いので、鉄のボウルに入れてオーブンで焼いてもらう。


これまた別の料理人に、生クリームに砂糖を入れ、泡立て器が無いので、束ねたマドラーで生クリームを泡だてておいてもらう。


さてさて、そろそろ茹でて貰っていた栗が柔らかくなったかな?


栗は茹でた内の半分は甘露煮にする為、この世界の栗は大きすぎるので適度な大きさに切り、砂糖と水と栗を入れた鍋を火にかけて焦げないように、栗が崩れないように煮ていってもらう。


もう半分は、適当に潰して、さらにザルで裏ごしして、さらに生クリームと砂糖と混ぜ合わせてペースト状にして置いてもらう。


泡立てとか、裏ごしとか、めっちゃ時間かかるし、疲れるからな、やってもらえるのは有難いぜ!


みんなヒィヒィ言いながらも頑張って手は動かしてくれている。さすが料理人だ!


さて、ビニール袋が無いんだよな……なんか絞り袋の代わりに使える物は……お?!コレは……?


ゴムのような袋にすぼまった出口、その出口はコルクで栓がしてあった。

何かと尋ねると水筒だそうだ。


へぇ!水筒はこんな形のもあるのか!


以前街中で見つけた水筒は木で作られたものや、竹のようなもので作られていた。


コレは魔物の胃袋を加工して作られているようだ。


柔らかいし丁度いいな!コレを絞り袋の代わりに使おう!


よしよし、では仕上げていくかな!


まずはオーブンで焼いてもらったスポンジを冷まして、型が無かったので代わりにボウルで焼いたせいでドーム型になっている上を切り落とす。

切り落とし、平になった所へホイップクリームを円錐型になるように絞り、マロンクリームをその周りをぐるりぐるりと囲むように絞っていく。最後に栗の甘露煮を飾ったら『モンブランケーキ』の完成だ。


はぁ……美味そう……久しぶりのケーキだな……


完成したモンブランケーキを早速包丁で1切れ皿に乗せると、フォークで切り分け、いただきます!と1口。


「んー!うっめぇえええええええ!!!」


舌の上でとろっと蕩けるホイップクリーム、その上にこってりとした栗の風味豊かなマロンクリームの香りが口いっぱいに広がってくる。さらに噛むとフワッフワのスポンジが合わさって、最っ高だ!!


あー、美味いな……


料理人達は俺の反応を見てソワソワしている。

きっと食べたいのだろう。ヨダレを垂れそうになっている人もいるしな……

残りはみんなで分けてと伝えると、料理長が作ってくれていたホットケーキと、まだ1口しか食べていないモンブランを持ってゆっくり食べれる場所へ移動する。


「うっまぁぁぁぁい!」

「な、な、なんて美味さだ!」

「信じられん!」

「こんな美味い物があったなんて!」

「栗がこんな美味い物に変わるなんて凄いな」

「だな、茹でるか焼くかしか食べ方を知らなかったが……素晴らしい」


厨房で大騒ぎする料理人の声を聞きながら、そうだろ!そうだろ!栗自体も美味かったからなー!と、みんなに好評な事に満足気に、ホットケーキとモンブランを味わった。


料理人の人数が多く、1口ずつしか食べられなかったので追加で作るようだ。それならついでにと、孤児院の子供用の土産に沢山のモンブランを作ってもらうと、ナターシャに体を返して、意外とバレなかったし、また遊びに来るかな!と、久しぶりのケーキの余韻に浸りながら、ふわふわと城を後にするのだった。




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