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毒沼と冒険者と異世界のりんご-4


「ぎゃーーーー!!!」

「うわぁーーー!!!」


聞いた場所に近づくとギャーギャーと賑やかにりんご狩りをしている人達がいた。


お!あの辺か!


赤い実が成る木が見えてきたので、りんご狩りを楽しんでいるのだと思っていたのだが、近づいていくとりんご狩りをしていると思っていた人達はりんごに追いかけられていた。


……は?


その予想外な様子に一瞬思考が停止したが、大根が走って逃げていた事を思い出した。


あぁ、りんごも動くのか……さすが異世界……


異世界だからなと、無理やり自分を納得させると、木から離れた場所で荒い息を吐きながら休んでいる人達の所へ向かった。


りんごの取り方を聞くためだ。


3人いるうちの1人にすうっと入り込み、話を聞く。


どうやらダンジョンでは無く地表に成っているりんごは、取ろうと実に触れると中心部から上下にクワッと割れ口が現れるようだ。

ギザギザの歯が並んでいるように見える口に噛まれるとかなり痛いようだ。

肉を食いちぎられるまではいかないが、ギザギザの歯は肉にくい込み血は流れる。毒は無いが噛まれた所から血を吸われ、なかなか危険なようだ。

さらにその大きさがかなり大きい。その大きさはメロンかバレーボールかという程のサイズだった。


あのデカさで噛まれるとか……痛そうだな……


そして口が開いてしまったら、木から外れ、そのギザギザの歯を剥き出しにして追いかけて来るそうだ。

さらにその追いかけてくる時に使うエネルギーはりんごの実を消費するようで、追いかけられれば追いかけられるほど実はどんどん甘みが失われ、甘みが無くなるとハリが失われ、最後にはシオシオの茶色く干からびたような状態になるのだとか……


なのでりんごの口が開かないように取るのが1番いいが、開いてしまってもできるだけ追いかけられないように、りんごを走らせないように収穫する必要があるようだ。


いや、大変とかの前に怖ぇわ!


実に触れずに木から切り離すと口が現れることは無いそうだ。

口が開いてしまっても電気を浴びせると動かなくなるのだそうだ。


へぇ……


だが、雷魔法を使える人はかなり少なく、電気を浴びせて動きを止める事は難しい。

その為、みんなギャーギャーと叫び声を上げながらあの大きなりんごから逃げ回っていたようだ。

雷魔法以外で動きを止めるにはもう実を半分に切ってしまうしかない。

売るなら価値がかなり下がるが、りんごに噛みつかれるよりはマシだろう。


あー……楽しそうに騒いでいた訳ではなかったのか……


まぁ、俺にはりんごの噛みつきなど問題ではない!

なんせ、噛みつかれる体が無いからな!


お礼を言って、借りていた体を返すと、ふわふわと木に近づいて行き、風魔法でスパッとりんごの花梗(かこう)部分を切り離す。

木から離れたりんごの実はすかさず次元収納(ストレージ)に収納する。


うん、大丈夫そうだな!


よし、いっぱい取るぞー!気合を入れて、木の高い位置に成るりんごを中心にどんどんと収穫していくのだった。


◇◇◇


という事で、沢山とってきたぜ!


俺は今孤児院にいる。


ライリーとセクリアと一緒に食べようとやってきた所だ。

2人とも昼食も食べ終わり、焼肉のタレをせっせと製造している所だった。

ちょっと忙しそうだな……と思いつつもセクリアの体を借りて話しかける。


「は!?コウヘー!!帰ってくんの遅せぇよ!」


「いや、ポイズンフロッグがなかなか強くてな」


「……コウヘー、ギルドから報酬とか貰えないのに行く意味あったのか?」


「何言ってんだ!俺のりんごがピンチだったんだぞ!」


「コウヘーのじゃねぇけどな……」


「ぐっ……い、いや、俺が取ってきたのはもう俺のだ!」


「いっぱい取れたのか?」


「そりゃぁもう、山盛りよ!どの木も半分より上は取りきって来たぜ!」


「……は?」


「みんな木の下の方しか取れないだろ?だから上はいいかなーと思ってな」


「どうやってとったんだ?」


「え?俺は飛べるからな」


「はぁー??!!マジかよ!!いいなぁ!」


「フハハ、そうだろ!そうだろ!」


「で?りんごは?」


「あぁ、これだ!見てくれこの大きさ、色、美味そうだろー!ライリーやセクリアと一緒に食べようと思っていっぱい取って来たんだよ!」


メロン程もある赤くツヤツヤの大きなりんごを自慢げに取り出した。


「え……それ……」


「ん?」


「めっちゃ高級な噛みつきりんごじゃん!」


「あー、噛み付いては来てたが……高級なのか?」


「焼肉のタレに使ってるりんごはダンジョン産で、安定して手に入る。それに比べて噛みつきりんごは秋の時期にしか取れないし、取るのは大変。だけどその分甘くて美味しいって……話だけは聞いたことがある」


まず、ダンジョン産の物とは大きさが違うが、もう1つ特徴があって、パカリと口が開く場所にうっすらと黄色ギザギザの模様が入っているそうだ。

言われてみたら、なんかWの文字みたいなのがあるな……


「へぇ……ライリーも食べたことは無いのか!」


「ん……」


「なら、早速食べてみようぜ!」


「いいのか?」


「おう、言ったろ?一緒に食べようと思っていっぱい取ってきたって!」


厨房へ行くと水で洗って、早速1つ切ってみる。


パンッと張った実を、シャクっと半分に切ると、果汁が滴り落ちて来た。凄い果汁の量だ。さらに、中には蜜が詰まっていた。


「すげぇ、蜜たっぷりじゃねぇか!」


「甘い、いい匂い……」


りんごの甘い香りに、ライリーはうっとりした顔でヨダレを垂れそうになっている。


そのまま8つに切り分け、中心の芯を取り除くと、皮がついたまま、2人でりんごを齧った。


シャリッシャクっ


「ん〜!!!うっめぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」


なんて瑞々しいんだ。果汁が口いっぱいに溢れだしてくる。

甘く甘く、ほのかに酸味のある味、りんごの良い香り、シャクシャクと小気味いい食感。

皮も薄く、皮ごと食べても全く気にならない。

なんて美味いりんごだ。


ライリーと美味い!美味い!と食べていると、食堂の方で焼肉のタレを作る作業をしていた子供達も声を聞きつけ厨房へやってきた。


あー、そりゃこんだけ騒いでたら見つかるわな……


他の子供達の分も噛みつきりんごを切って振る舞うと、みんな蕩けそうな顔で美味しい!うまーい!とシャリシャリ、シャクシャクと小気味いい音を響かせて噛みつきりんごを味わうのだった。



このまま食べてもかなり美味い噛みつきりんご。

特に調理の必要性は感じていなかったのだが、ライリーはそうでは無かった。


「コウヘーが料理するとなんでももっと美味くなるから、なんかしてくれ!」


いや、なんかって何よ……


そうだな……りんごを使った料理っていうと、一番最初に思いつくのはアップルパイだが、パイ生地を作るのはかなり面倒だ。りんごもコンポートにしないといけないし、カスタードクリームもいる。

簡単に出来て美味いもの……


あ、アレにしよう!


準備するものは、りんご、バター、砂糖、レモン汁だ。


さて、1つ目は、オーブンを温めておく。

その間に、りんごの芯の部分をくり抜く。そこへ砂糖を詰めてレモン汁をポタポタと垂らし、上にバターを乗せて、オーブンで焼いていく。今回はりんごがデカいので、半分に切ってから、芯をくり抜きそこへ詰めた。


皮がしなっとなり、実がとろっとなったら『焼きリンゴ』の完成だ。

シナモンをふりかけても美味いんだが、シナモンがないので、今日はこれで。


それから、もう1つ。

りんごを細かく角切りに切った物とすりおろした物を用意する。

それを鍋に入れて、砂糖とレモン汁を入れて弱火で焦げないように気をつけながら弱火でコトコト煮ていく。

とろーっと、とろみがつくくらい煮れば『りんごジャム』の完成だ。


……みんなまだ作業中だな。

では、ひと足お先に、失礼して、いただきます!と、焼きリンゴの方からパクッと1口。


とろーっじゅわぁーっ……


柔らかく、とろっとろに火の入ったりんごは口に入れると砂糖の甘さ、バターのコク、それからりんごの爽やかな甘さと酸味を口いっぱいに広げて溶けて消えた。


「ふぉぉぉ、うっめぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」


甘い……

良い、良い甘さだ。くどくなく、しつこくなく、いくらでも食べられる。

シャキシャキのりんごも良いが、このとろっと蕩けるりんごもまたいいなぁ……


よし、今度はジャムの方を……

食パンを軽くバターでカリッと焼いて、その上にポテッとたっぷりジャムを乗せて……パクリッ。


「うっまぁぁぁぁぁ!!」


ん〜!最っ高だ!カリッと焼いた食パンに溶けたバター、これだけでも美味いのに、そこへりんごの甘い香り。

半分は角切りにしたからとろっと蕩ける甘さと、少しジャクジャクと食感の残った甘さが口と中でとても楽しい。

レモン汁の酸味も効いていて、砂糖の甘さをさっぱりと、しかしまたその甘さを味わいたいと思わせる後を引く味に仕立ててくれている。

日本にいた時はイチゴジャムをよく食べていたが、りんごジャムも最高だな……


あー幸せだ……


1人で味わっていると、あまーい匂いに誘われてか、うまーいという声に誘われてか、子供達のじっと見つめる視線を感じた。

パッと見ると、じーっとジト目を向けてくる子供達。

自分だけ美味しいものを食べてズルい!と、顔にデカデカと書かれている。


「あー……えっと、みんなも食べるか?」


そんな顔で見られては、苦笑いでそう言うしか無かった。


みんな美味しい!幸せ!あまーい!と、満面の笑みだ。

幸せそうな顔でパクパク食べるので止められなかった。

体を返したセクリアもだ。俺が先に少し食べていたとは思えない食欲だ。


もうすぐ晩御飯の時間に、みんなで焼きリンゴとりんごジャムのたっぷり塗ったトーストをたらふく食べた子供達が晩御飯を食べられなかったのは言うまでもない。


全員もれなく、院長先生とリリーという職員にこってり絞られるのだった……


晩御飯に出してもらったら良かったな……悪ぃ悪ぃ……アハハ……


院長先生とリリーは晩御飯の時に食べていた。凄い美味しい!なんて美味しさなの!と、2人ともどハマりしたようだ。

その後、りんごジャムは常備されるようになったとか。


まぁ、トーストにジャムはセットみたいなもんだしな!気に入って貰えたなら作った甲斐が有るな!

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