毒沼と冒険者と異世界のりんご-3
はぁ……あれからもう3日が経った。
ポイズンフロッグは倒しても倒しても次から次から現れる。
ダンジョンみたいにドロップする訳ではなく、沼の中に隠れていたのが出てくるだけなんだろうけど……
一向に減った気がしない。
冒険者も連日連夜の戦闘でかなり疲弊してきている。
このままではジリ貧だ。
だが、3日も頭を悩ませたがいい案は浮かんでこなかった。
いっそ沼の浄化を先にしてみるとか……?
そんな事を考えていると、うわぁーーー!!!と、大きな悲鳴が上がった。
なんだ?なんだ?!
声のした方を見ると、冒険者の男がポイズンフロッグが時々吐き出す毒を浴びてしまったようだ。
みんなだいぶ疲れが出てきていたようなので、集中力が切れていたのか、油断したのか……?
毒を浴びた冒険者の仲間達は、ポイズンフロッグの相手で手が離せず、倒れて呻き声を上げ動けなくなっている男を避難させるのも難しいようだ。
えーっと、えーっと……
俺も、動けない体に入っても動けないし、誰か体!体!
辺りを見ると、ちょうど補給を手伝っていた若い新人だろう冒険者が目に入った。
いい所に!
若い冒険者の体を借りると、急いで毒を浴びた冒険者の元へ駆けつける。
俺にどれくらい毒を消せるかわかんないけど……
初めてのことなので少し緊張しながらも、体から毒が消えるようイメージを膨らませ浄化系の魔法を発動した。
あぁ、すごいな……
治癒魔法を使っていた時のように魔法が勝手にフォローしてくれるんだな……
こうしたいと考えるだけで、魔法が勝手に冒険者の体内から毒を消し去っていく。
しばらくすると、苦しそうに呻いていた荒い息遣いも落ちついてきた。
さらに、毒で爛れてしまっていた皮膚も治そうと治癒魔法もかけると、冒険者は元の元気そうな姿に戻った。
鑑定魔法で冒険者の状態を見てみたが、上手く治せたようだ。
ふぅ……上手くいって良かった。
治した冒険者は毒を浴びたショックで気絶したまま目を覚ましていないので、そのまま安全な場所にズルズルと引きずって行く。
やはり新人冒険者の力では筋肉ムッキムキの男を運ぶのは容易ではない。
くっ、そ、重すぎ、だろ……
ひぃひぃ言いながら引きずって運んでいると、他の補給を手伝っていた冒険者が手伝いに来てくれた。
ふぅ……ふぅ……助かった……
野営のテントの方まで運ぶと、治療で来てくれていた治癒士の人達に任せることにした。
毒を浄化する方法がなんとなくわかったので、沼にも有効かちょっと試してみることにした。
魔物があまりいない場所に行くと、そっと沼に手をかざす。
さっきみたいに毒を消すイメージで……
集中して、しっかり魔力を練り上げ、イメージを固めると、魔法を沼に向けて放った。
ゾワッと体から何かが抜けていく感覚……
これが魔力が抜けている感覚だろうか……?
それと同時に手から柔らかな光が溢れ出し、どんどん沼に降り注ぐ。
紫だった沼の水は、光が当たると紫が弾けるように透明に変わっていく。
すごい……なんて綺麗なんだ……
そう思ったのは俺だけでは無かったようで、少し離れた所でポイズンフロッグと戦っていた冒険者達がザワザワと騒ぎ出している。
あぁ、しまった、体を借りたままだった。それでみんな騒いでるんだな……
だが、中途半端な所で体を返すのもな……と、もう少し借りておくことにした。
の、だが……
やべぇ、これが魔力切れって感覚か……?
フラフラしてきたぜ……
はぁ……はぁ……と息が乱れ、手がブルブルと震え、力が入らない。頭も酸欠のようにクラクラと目眩がする。
毒の浄化魔法が維持できなくなり、魔法は霧散し、その場に座り込んだ。
その様子が見えていたのだろう。
仲間らしき冒険者が、テレンスー!大丈夫かー?と、心配そうに駆け寄ってきた。
仲間がきたなら任せてしまおうと、テレンスと呼ばれた冒険者の体から抜け出した。
うおっ?!
テレンスから抜け出すと、座った体勢を維持できなくなったようで、その場にバタリと倒れてしまった。
うっわぁ……マジでごめん……
テレンス、しっかりしろ!と、心配そうに仲間達が助け起こす。
テレンスはすぅすぅと眠っているようだ。
……良かった……
それにしても、あんな魔力が抜けるような感覚になったのは初めてだ。
今までも人の体に入ったまま魔法を使ったことはある。そう、エールやワインを冷やす時だ……
あの時も体の持ち主の魔力を使っていたのだろうか?
今回は、こんな広範囲の毒を浄化しようとしたからか……?
もし……体が無ければ……霊体のまま魔法を使ったらどうなるんだ……?
4分の1程が透明な水に変わった沼へ向けて、再び毒の浄化魔法を使った。
う、うぉぉぉ???!!!
先程テレンスの体を借りて使った時とは違い、かなり眩しい光を放ち沼の毒が消えていく。
それはもう、風がサァーッと吹き抜けて行くかのように、あっという間だった。
辺り一面が真っ白な光に包まれたかと思うと、光が消えた先には透き通った綺麗な沼と、毒で覆われていたポイズンフロッグの体から毒膜が消え青色に姿を変えたポイズンフロッグがいた。
……え、マジ?!
俺の魔法、かなりレベルが上がってたのか……?
ダンジョンで浄化魔法はよく使っていたが、まさかこれ程とは……
驚きにあまり働かない頭でそんな事をぼんやり考えていた。
みんなも状況が呑み込めず、ポカンと口を開けて呆然としている。
だが、歴戦の猛者だろう冒険者が、いち早く我に返ると、今のうちにポイズンフロッグを討伐しろと声を張り上げた。
綺麗になった沼、いや池と言った方がいいか?
綺麗になった池をまた毒沼に変えては大変と、冒険者達は気合いを入れ直し、ドロドロの毒沼が綺麗になったことに士気も高くポイズンフロッグに向かっていくのだった。
◇◇◇
あれから日が暮れても冒険者達は戦い続けていた。
その甲斐あって、その日の内にポイズンフロッグを全て討伐し終わったようだ。
さすが冒険者!ポイズンフロッグが何処にいるか分かりさえすれば奇襲も容易いようだ。さらに毒に覆われていた皮膚も毒が無ければ攻撃方法も多種多様だ。ここ3日苦戦していたのが信じられないほどの勢いで討伐していく。
再び毒を池に垂らしたポイズンフロッグもいたようだが、量が少しなので大したことは無いそうだ。
水質検査みたいな事をする為に学者の先生のような人が来ていて調べていたので大丈夫なのだろう。
化学はあまり発展してなさそうな世界だったけど、学者みたいな人はいるんだな。
そんな失礼なことを考えながら見学していると、「これで今回の依頼は完了です!お疲れ様でした!」と、ギルドスタッフの男性が声を張り上げた。
やっと終わりかー、長かったな……
あとは冒険者ギルドに戻って報酬を貰うだけのようだ。
俺も報酬を……と、適当に近くにいた人の体を借りて、楽しみにしていたりんごの場所を聞いた。
その場所はここから歩いて5分程の場所のようだ。
なぁ?!!マジでめちゃくちゃ近いじゃねぇか!!
はぁ、俺のりんごが無事で本当に良かったぜ!
いっぱい取って帰って、ライリーとセクリアと一緒にたらふく食うぞー!!
上機嫌にりんごの木が生えていると聞いた場所にふわふわ歩いていくのだった。




