13、毒沼と冒険者と異世界のりんご-1
今日は朝からルンルンとした気分で孤児院に来ている。
先日仕留めたブラッドボア、それが解体され肉が届く予定だからだ。
今日の朝届けてくれると聞いていたが、もう届いているだろうか?
孤児院に着くとすぐにライリーとセクリアを探す。
お!いたいた!
2人は院長先生や他の子供達と一緒に食堂にいた。
みんなで集まって何かを話しているようだ。
もう食べてるのか?
ふわふわと浮いてみんなが囲んで見ている中心を覗くと、大きな大きな肉塊がドン、ドン、ドンと
置いてあった。
ちょうどギルドスタッフのおじさんが持ってきてくれた所だったようで、この肉はどこの部位でと説明を受けている。
おー!部位も色々届けてくれたのか!あんだけあれば俺も少し分けて貰っても大丈夫そうだな!!
キョロキョロとライリーとセクリアを探すと、美味そぉ……と目をキラキラさせて大きな肉塊をガン見している。
今日はセクリアの体を借りて、ライリーに話しかけた。
「ライリーおはよう」
「ん?何言ってんだ?さっき挨拶……あ、コウヘー?」
「おう、肉美味そうだな」
「コウヘー待ってたんだよ!あれ調理してくれよ!」
「え、お、おう、院長先生が焼いてくれるんじゃないのか?」
「コウヘーが来るって言ってたから、やらせてって頼んである!」気が利くだろうとでも言いたげにふふんと胸を張っている。
「え、そ、そうか……」
俺は料理人じゃないんだが……まぁいいけど……
バラもいいがロースも美味そうだな……
どんな味付けでもいいって言ってたし、アレにするかな!
ロースの塊を受け取ると厨房に向かう。
まずは、味が分からないと料理できないよなーなんて、ブラッドボアの肉を少し切って塩コショウで焼いて味見をしてみる。
んん!!うっめぇぇえ!!!
なんて旨味の強い肉だ!噛めば噛むほど旨みが溢れだしてくる。レッドボアをさらに濃厚にしたような肉の旨味だな……
これ、塩コショウだけで充分美味いぞ!
そう、ライリーに伝えたのだが、それなら院長先生に焼いてもらっても一緒じゃん!と、ライリーは口を尖らせていた。
どうやら違う味付けの物が食べたかったようだ。
トンカツにしても美味いんだろうな……
だが、油は高価だと言っていたからな、また再現できるように、今日はさっき思いついた料理にする事にした。
準備する物は、ブラッドボアのロース、醤油、砂糖、玉ねぎ、生姜、料理酒だ。
まずは、ライリーに玉ねぎの皮を剥いてすりおろしてもらう。
その間にブラッドボアのロースを薄切りにしていく。
濃いピンク色の綺麗な肉だ、艶々と輝いている。
そっと包丁を当てようとして、手が止まる。
んー……せっかく塊で届いているからな、今回は少し厚めに切るか!と、1cmくらいの厚さに切った。
そして、肉と脂の間にある筋を切っていく。
薄ければ筋も気にならないだろうが、厚く切ると焼いた時に縮むからな。
よし、これにライリーがすりおろしてくれた玉ねぎをかけて揉みこんでいく。
ライリーにこれもすりおろしてくれと、生姜を渡すと、まだすりおろすのかよ……と、嫌そうな顔で言われた。
えーって嫌そうに言いながらもちゃんとやってくれるんだよな、本当にいい子だ。
さて、一緒に炒める用の玉ねぎも薄切りに切っていく。炒めた玉ねぎは甘くて美味いんだよなー!
玉ねぎを入れないレシピもあるけど俺は断然入れる派だ。
では、炒めて行くぞ!
フライパンに油……今日はラードがいっぱいあるのでこれを使おうと、ブラッドボアの脂身をフライパンに乗せる。
フライパン全体に油を馴染ませて、玉ねぎから。
全体を混ぜながら玉ねぎが透き通って甘い香りがしてくるまで炒めていく。
火が通ったら一旦避けて、すりおろした玉ねぎに漬けていた肉を焼いていく。
ジュワァァァァァ……
うぉぉぉ、いい音!
両面をしっかり焼いて、少し焼き目がつくくらい焼いたのが好きだな。
きつね色の焼き目が少しつくくらい焼いたら、砂糖を肉に振りかけ、全体に混ざるようにサッと炒め、次に料理酒をふりかける。
酒をかけると肉の臭みも消してくれるので少しでいいので入れるのがオススメだ。
そして、醤油を回しかける。
んー、醤油のいい香り……
ここに先程避けていた、炒めた玉ねぎを戻して、最後にライリーが頑張ってすりおろしてくれた生姜を入れる。
全体をサッと混ぜ合わせたら、『ブラッドボアの生姜焼き』の完成だ。
はぁ……生姜の爽やかな香りと醤油の香ばしい香り……最高だな。
これを、次々と作り皿に盛り付けて食堂へ持っていくと、いただきますとみんなで食べ始めた。
熱々だと知らしめるように立ち上る湯気から、食欲をそそるいい香りが立ち上る。
その香りに期待感を高まらせながら、フーフーと息をふきかけ少し冷ましてからパクリと1口。
口に入れた瞬間、口全体に広がり鼻から抜けていく生姜の爽やかな香り、その後醤油の香ばしい香りと、肉の甘い脂、肉の旨味が口いっぱいに溢れてきた。
「うっまぁぁぁぁぁい!!!」
塩コショウでも美味かった肉が、醤油と生姜でその味を更に際立たせている。
ブラッドボアの旨味を、ブラッドボアの脂の甘味を、最大限に引き出す味付けだ。
歯切れのよく柔らかな肉。
それが噛めば噛むほど、今度は全ての味が調和していく。
最高だ……
生姜で後口がサッパリしていくらでも食べられそうだ。
いつもなら朝食を食べ終わっている頃だろうが、今日はブラッドボアが届くのを待っていたようで、少し遅めの朝食だ。
みんなもお腹をグーグー鳴らしながら、待ってましたと肉を口に運ぶ。
うまーい!美味しいー!の合唱だ。ひと口食べるとパクパクと食べる手が止まらない。
ギルドスタッフのおじさんも、あまりにいい匂いがするので、食べてから帰ることにしたようで待っていた。
1口食べると、目をウルウルとうるませている。
「美味い!美味すぎる!こんな、こんな、こんな美味い物があったなんて……私はコレを知らずに生きていたのか……」
どうやら感動して涙ぐんでいるようだ。
日本では定番の豚のしょうが焼きだ、今回はブラッドボアの肉で作ったが、みんなの口にあって良かったよ!
みんなの様子を満足気に見ていると、ギルドスタッフのおじさんに話しかけられた。
「君達がブラッドボアを倒したんだったかな?」
どうやらブラッドボアがいつもの生息域から外れて王都の東の森に出た原因をギルドで調査してくれていたようだ。
高ランクの冒険者に依頼を出して調査した結果、元々のブラッドボアの生息域が食物不足になっていたそうだ。
食物不足の原因、それは、ブラッドボアの生息域でもある山を1つ超えた先、そこに大きな毒の沼ができていた事。
その沼の範囲はかなり広く、沼の周りは木々は倒れ、草花も枯れてしまっているかなり悲惨な状態になっていたそうだ。
その為、草を食べる動物や魔物がいなくなり、草食獣をエサにしていた魔物も食べるものを求めて住処を移動していたようだ。
今回仕留めたブラッドボアもその住処を移動した内の1匹のようだ。
へぇ……そんなことが……
他にもランクの高い魔物が近くの森にも紛れ込んでいるかもしれないので注意するようにとギルドスタッフに言われた。
なぜ急に毒の沼など出来てしまったのか調査した結果、ポイズンフロッグという体から毒の粘液を出すカエルの魔物が大量発生したせいのようだ。
今、ポイズンフロッグという魔物の討伐をするメンバーを集めている途中らしい。
早く討伐して、毒に犯されてしまった沼を何とかしなければ、被害はさらに拡大してしまう。
だが、魔物の討伐は終わっても、毒の沼の撤去は容易ではない。
毒を浄化して貰えないか教皇様に掛け合ったが、かなりの広範囲の為、今浄化魔法を使える人全員でしてもどれだけの期間かかるか分からないそうだ。
だが、時間がかかればかかるほど、毒が周りの土地にもどんどん侵食していってしまう。
あまり広がるとりんごの木が植わっている場所も毒に犯されてしまうという。
「な、なんだってー!!???」
りんごが取れる場所まで?!!そんな場所まで侵されては大変だ!
俺も手伝いに行こう!そんな事を考えていると、ライリーが俺も行きたいとコソッと声をかけてきた。
は?ダメに決まってんだろ!
コウヘーも行くんだろ?なら俺も行く!と、言うでは無いか。
ブラッドボアでもビビってパニックになってたやつが、何を言い出すんだと呆れ顔の俺。
び、ビビってなんかねぇし!怖くなかったし!と強がるライリー。
このまま口論していても拉致があかない。
俺はライリーが話している時にセクリアに体を返した。
俺に言っているつもりが、セクリアに聞かれていた。セクリアに体が返されていたと気づいた時にはもう遅い。
ライリー、何を考えてんの!と、ライリーはしっかり者のセクリアにめちゃくちゃ怒られるのだった。
女の子は精神年齢高いって言うけど、こいつらの場合、見るからに違うよな、同い年とは思えねぇぜ、ハハハ……




