逃げる大根と異世界の秋刀魚-4
いつも子供達が走り回って遊んでいる庭、そこで今、煙がもくもくと立ち込めている。
火事では無い。
炭火から昇る煙だ。
建物の中で焼くと大変な事になりそうだったので、秋刀魚は庭で焼くことにしたのだ。
炭を貰ってきたが、良く考えると七輪がなかった。
仕方ないので、花壇を囲っていた石を借りて、かまどを組み、上に網を乗せて焼いている。
チリチリパチパチと赤くひかる炭。
ジュッ…ジュワッ……
秋刀魚からプクプクと溢れ出す脂が、炭の上に落ちると、いい音といい香りを纏った煙が上る。
はぁ……焼けるのが待ち遠しいぜ……
孤児院の子供達もセクリアもその様子をキラキラした目で眺めている。
近づきすぎて、煙が目にしみると、目をウルウルさせている子もいた。
まずは秋刀魚の食べ比べをしようと、黒っぽい秋刀魚、青い秋刀魚、銀の秋刀魚、白金の秋刀魚を数匹づつ焼いている。
こうして並べて見ると、大きさもかなり違うな。
成長すると色が変わると聞いていたが、色が変わる毎に、大きさも倍、いや、3倍ずつ程は大きくなっているように見える。
身からプクプクと溢れる脂の量も随分違うようだ。
辺りを覆うほどの煙の原因は銀の秋刀魚と白金の秋刀魚だろう。
そのツヤツヤと光っていた秋刀魚の体に茶色の焦げ目が着いてきた。
皮がプクプクと膨らみ、膨らんだ箇所は少し焦げてて芳ばしい香りを充満させる。
ふぉぉぉ……いい、いい感じだ!
火も通ったようなので、皿に移動させ、身を解していく。
少しづつ食べ比べて美味かった物を人数分焼く予定なのだ。
数は余裕だ!何回オカワリしても良いほどの量を買い占めてきたからな!フハハハハ!
おお、身が骨から外れやすいのは、日本で食べていた秋刀魚と同じだな……
頭からしっぽまで繋がった背骨がすっぽり外れた。
身だけを盛った皿を4枚並べると、今日取ってきた大根をすりおろした物、醤油、すだちも準備して、食べ方を説明した。
「あとは好みで、食べてみてくれ!」
そう言うが早いか、待ちきれないとフォークを構えていた子供達は一斉に秋刀魚に手を伸ばす。
少しづつ4種類を味見してみてくれと伝えていたが、まだ覚えているだろうか……?
うっめぇぇ!と、あちこちから声が上がり、取り合いになっている。
味見だって言ったのに……味見ってか、本気食いだな……
俺はこっそり自分の分は避けていたので、それを食べる。
まずは1番あっさりだと聞いていたまだ黒っぽい色をしていた秋刀魚から。
いただきます!と、パクリと1口。
「んー!うっめぇぇ!」
確かにあっさりとしている。
だが、ふっくらと炭火で焼き上げられた身は、口に入れるとホロホロと解れ、秋刀魚の旨味を口いっぱいに広げていく。
脂が無い分、ぎゅっと詰まった秋刀魚の旨みがダイレクトに味わえるようだ。
うん、美味いな……
次は青い色をしていた秋刀魚を……パクリ。
うん!うん!美味い!!
黒っぽい秋刀魚より脂が乗っている。噛むとジュワッと滲み出てくる脂が甘い。
やっぱり、脂が乗ってる方が美味いな。
なら、更に脂が乗った銀の秋刀魚はどうだろうか……パクリ。
ん、んん〜!!!
なんて旨味、噛めば噛むほど甘い脂や旨みが溢れだしてくる。
身も脂と合わさり蕩けるようだ。
……それなら、白金の秋刀魚は……更に脂が乗っている……ゴクリッ……
ツヤツヤと身の表面で光る脂。他の物とは比べ物にならない程、脂が乗っていそうだ。
期待に胸躍らせながらパクリ。
あぁ……なんと、なんという美味さだ……
口に入れた瞬間もう美味い。
下に触れると口内の温度で蕩けていくような柔らかい身、噛むと溢れ出す甘い脂は他のものの比では無い。
旨みの余韻だけを残し蕩けていった秋刀魚の脂は、少しもしつこくなく、また次が食べたいという欲求のみが溢れてくる。
無限に食べられそうだ。
ハッ!せっかく準備していた大根おろしやすだちや醤油を使っていなかった。
塩焼きだけでこの美味さ……もし、これを大根おろしやすだちでさっぱりさせたら……
醤油の風味がプラスされたら……
一体どうなってしまうのか……ゴクリッ……
俺ははやる気持を落ち着け、白金の秋刀魚に大根おろしを乗せ、すだちをピュッと少し搾り、醤油をぽたぽたっとかけた。
身の上にぷくりと乗る醤油。その醤油の上には秋刀魚の脂が光っている。
あぁ、なんて美味そうな……
そっと口に運ぶと、フワッと香るすだちの爽やかな香り、醤油の芳ばしい香り。
口に入れると秋刀魚の旨み、甘い脂と、爽やかな甘さの大根おろしが合わさり、えもいわれぬ美味しさだ。
あぁ、幸せだ……
こんな美味いものがあったなんて……
全員分焼くのは白金の秋刀魚が良さそうだな!
そう思いつつも子供達にも意見を聞いてみたが、皆同じ意見だった。
1口しか食べられなかったからもっと食べたいと、ヨダレを溢れさせている。
相当美味かったようだな、少し待ってろ、最高の焼き加減に仕上げてやるからな!
網の上に白金の大きな秋刀魚を並べていく。
みんなフォークを握りしめて、かまどの周りを囲っている。
焼けるのを待っていると、院長先生が「パンもありますよ」と、スライスした食パンを持ってきてくれた。
あー、パンかぁ……米があったらなぁ……
そう、秋刀魚の塩焼きには米が合う。だが、まだ米を見つけることはできていない。
焼きたての脂の乗った秋刀魚に醤油、大根おろし、すだちをかけ、その身を炊きたて熱々のご飯にバウンドさせ口に頬張る。そこへすかさず米をかっ込む……ゴクリッ……いい……
はぁ……パンもいいが、やっぱり日本人としては米が必要だよな……死ぬ前にもっと食っとけばよかったぜ
秋刀魚が焼き上がり、皿にのせて、食堂に持って行って食べることになった。
だが、秋刀魚の塩焼きと食パンは組み合わせ的にあまり合わないようで、子供達はみんなパンは食べずに秋刀魚ばかり食べている。
……まぁ、そうだよな……
……そうだ!アレを作ってやろう!
食パンを見ていて思い出した。食パンにも合う秋刀魚料理を。
まずは、秋刀魚を3枚におろし、醤油、生姜、みりん、酒、ニンニクに漬け、味を染み込ませる。
それを片栗粉をつけてオリーブオイルでカラッと揚げる。
食パンにバターを塗り、カラッと揚がった秋刀魚、トマトケチャップ、チーズを食パンに挟んで、秋刀魚サンドイッチの完成だ。
秋刀魚は意外とトマトとの相性が良い。それにチーズも加わると、間違いないだろう!
俺がサンドイッチを作っている間に、子供達は秋刀魚の塩焼きを食べ終わったようで、今度は何を作ってるんだと、厨房の方を覗きに来た。
いいタイミングで来るな……
コレならパンと秋刀魚の相性はバッチリだから食ってみてくれと、サンドイッチを差し出すと、みんな嬉しそうにサンドイッチを取っていく。
食堂に戻るまで待ちきれなかった子供が歩きながら食べ、うわぁぁぁあい!!と叫んだのを皮切りに、みんな歩きながら美味い!美味しい!最高!と食べ始めてしまい、院長先生に「行儀が悪いですよ!」と怒られていた。
俺も厨房で秋刀魚を揚げながら、こっそり味見した。
「んー!うっまぁぁ!!!」
いい、いいわぁ、カリッと揚がった秋刀魚にトマトの酸味とチーズのコクがプラスされ、後味がサッパリしていくらでも食べられそうだ。
やっぱ、パンに挟むなら揚げ物だよな〜!
おっと、あんまり食いすぎると腹いっぱいになって、ライリーが味わえないな!
秋刀魚のサンドイッチを作り終わるとライリーに体を返すのだった。
その後、ライリーは秋刀魚の塩焼きもサンドイッチも腹がはち切れそうな程パンパンになるまで美味い!美味すぎっ!と幸せそうに食べていた。
やっぱり秋には秋刀魚を食わないとな!
子供達の満足そうな幸せそうな顔を見ながら、また何か美味いものが手に入ったら差し入れしに来ようと、ほっこりした気持ちになるのだった。




