逃げる大根と異世界の秋刀魚-3
王都の街に帰る途中の森の中、ライリーとセクリアが昼食が美味すぎたって話を延々としながら歩いている横をふわふわと歩いていると、遠くから悲鳴が聞こえた気がした。
ん……?
立ち止まって耳を澄ます。
ライリーとセクリアも聞こえたようで、止まって、悲鳴聞こえなかった?と話している。
冒険者だろうか?まさか非戦闘員?
あまり強い魔物は出ないと聞いているが絶対では無い。
それにもし非戦闘員なら弱いと言われている魔物相手でも死の危険がある。
何処から声が聞こえたのか耳を澄ませていると、悲鳴はだんだん大きくなっている……?
……こっちか?
と、声が聞こえて来ているように感じた左の方を見ると。
「なぁーー?!」
ギャーっと言う叫び声と共に、デカいイノシシに追いかけられた冒険者が2人、こちらへ走ってくるではないか。
ヤバいヤバい!ライリーとセクリアを安全な所へ……えっと……えっと……
どこか避難できる所は無いかと、キョロキョロと辺りを見回すが、森の中だ、木はそこら中に生えているが避難できそうな場所は見当たらない。
そうこうしているうちに、ライリーとセクリアも追われる冒険者と追うデカいイノシシに気づいたようで、青い顔でギャーっ!と叫んでいる。
あー、パニックになったら更に大変だ……
とりあえず、ライリーの体を借りて、セクリアを落ち着ける。
「コウヘー、ど、ど、ど、どうしよう」
「俺から離れるなよ!」
「うん!」
冒険者が、逃げろー!逃げるんだー!と叫びながらこちらへ走ってくる。
まだ若そうな男の子が2人だ。汗をダラダラ流しながら必死の形相で走っている。
逃げろと言われても、今から逃げるにも限界がある。
ライリーとセクリアはまだ9歳だ。あのデカいイノシシから逃げ切れるほど早く走れるとは思えないし、体力にも限界がある。
仕方ない、やるか……
俺は、目の前に結界を作り始めた。
強度を硬く堅く作っていく。
イノシシのデカさにビビって作った結界は8重だ。
はい、日和りました……だって怖ぇもんは怖ぇんだよ!
それから攻撃魔法の準備をする。
まだまだレベルの低い俺の魔法の中で1番レベルが高い氷魔法。
それをすぐに放てるように、鋭く尖らせ幾本も構える。
逃げろー!と叫びながら走ってきた冒険者2人が、俺と俺の後ろに隠れるセクリアの横を左右に分かれて走り抜けた。
その数秒後
ドォォォォォォォォォンッッッ
辺りに響き渡る大きな音と共に、俺が作っていた結界にデカいイノシシがぶつかった。
直接ぶつかった1枚目の結界にはピシピシッと少しヒビが入っている。
ヒェッ……(ドキドキドキドキ……)
イノシシは結界にぶつかり、フラフラ、ヨタヨタと足元が覚束ない様子だ。
かなりのスピードでぶつかったので脳震盪を起こしているのかもしれない。
よ、よし、今のうちに……
俺はビビりながらも、正面に作っていた結界の横から飛び出すと、準備していた氷魔法をデカいイノシシに向けて放つ。
怖ぇ……
5mはありそうな、デカいイノシシだ。近くで見ると鋭い牙が何本も口の両脇から生えており、体中に赤黒い針金のような硬そうな毛も生えている。
バシバシと先を尖らせた氷魔法がイノシシに当たるが、硬い皮膚、硬い毛、硬い牙に阻まれ、かすり傷程度しか負わせられない。
ギュォォォォォォォォッ
俺が放つ攻撃をうっとおしそうに首を振り弾き飛ばすと、機嫌が悪そうに咆哮を上げた。
ぎゃぁぁぁぁ!!!
と、心の中で叫ぶが、声を出すのは我慢して、ビビりながらも攻撃が通りそうな場所を探す。
俺の氷魔法が刺さるとしたら……目か関節の裏、他には……
デカいイノシシのデカい鼻は、鼻の穴もデカい。
ちょうど真正面だ、あの穴を狙って……
ピィギャァァァァァァァァ……
上手く鼻の中へ何本もの氷魔法が飛び込んで行った。
鼻の中に刺さったのだろう、デカいイノシシは苦悶の叫び声を上げながら、地面を転がっている。
前足で鼻に刺さった物を取ろうと、鼻を擦っているが、刺さっているのは中だ、あの前足では取れないようだ。
よし、今だ!
今度は、特大の水球を出すと、水球でイノシシの口と鼻をすっぽり覆った。
よし、このまま……
バタバタと暴れ回るデカいイノシシ。
地面が抉れ、近くにあった木はなぎ倒されていく。
ヒェッ……
結界の後ろに隠れながらも、しっかり水球は操作して、鼻と口の位置からズレないように細心の注意を払う。暴れる度、水球の中には空気がゴポゴポと泡を作っている。
数分後、苦しさにもがき苦しんでいたイノシシもやっと息絶えたようだ。
もっと攻撃魔法の威力が強ければ、苦しませず倒せたんだろうが、仕方ないな……
とりあえず、危機は去ったと、ふぅ……と、安堵のため息を漏らす。
体を確認したが、ライリーの体には傷は無さそうだ。借りた体を傷物にしたなんて事にならなくて本当に良かった。
セクリアも大丈夫か?と声をかけると、大丈夫なようだ。
怖かった!と、少し涙目だ。
ヨシヨシと抱きしめて頭を撫でていると、先程俺たちの横を駆け抜けて行った冒険者が戻ってきた。
「あ、あの……」
「すみませんでした」
気まずそうに声をかけてくる冒険者2人。
「ホントにな……」
と、ジト目を向ける俺。
「う"っ……」
「こんな所でブラッドボアに会うなんて思わなかったんだ……」
ジト目で見られ、焦った様子で1人が目をそらすと、もう1人が言い訳をし始めた。
「ブラッドボア?」
「そのイノシシの魔物だよ」
このデカいイノシシの魔物はDランクの位置付けにされているブラッドボアと言う魔物のようだ。
Eランクのレッドボアと毛色は似ているが、赤茶色のレッドボアに比べ、ブラッドボアの方が赤黒い毛色で牙の数が多く、皮膚や毛の硬さが頑丈で気性が荒いそうだ。
本来ならこの森に出てくる魔物では無いようで、2人はレッドボアだと勘違いして攻撃を仕掛けてしまったそうだ。
だが、いつも倒せている攻撃が全く通じず、よく見るとレッドボアではなくブラッドボアだった。
ヤバいと一目散に退散したが、怒ったブラッドボアに追われ、俺達と会ったようだ。
「本当にごめん」
「なすりつけをするつもりも無かったんだ……」
「なすりつけ?」
先程のように、魔物の攻撃対象を他の人に移してしまうような行為は、冒険者ギルドから固く禁止されているようだ。
今回は誰も怪我をしなかったし、許してあげることにした。
次はちゃんとなんの魔物かしっかり確認してから、倒せる魔物にだけ攻撃を仕掛けるようにと口酸っぱく何度も言い聞かせておいた。
それにしても、この辺には出てくることの無いような魔物が出るなんて……
このようなイレギュラーな事は冒険者ギルドに報告しなければならないようだ。
先程のお詫びに、ギルドに解体を頼む時の解体費用を払って貰うことになった。
「それにしても、めちゃくちゃ強ぇな!」
「だよな!ブラッドボアを倒しちまうなんて!」
「お前らも頑張れ」
「うっ……おう……」
「は、はい……」
先程こんこんと叱り倒したので、年下だと馬鹿にすることも無く、素直に返事をしている。
この2人、名前をアルヴィンとエリアスと言うそうで、幼なじみの同い年で15歳になった所のようだ。
冒険者ギルドに春に登録して今までは順調だったそうだ。
夏にはEランクの魔物も安定して狩れるようになっていたので、最近は少し天狗になっていたようだ。
死ぬ前に気づけて良かったなと二ヤリ顔で言ってやると、もうちゃんと反省したからこれ以上虐めないでくれと泣きそうな顔で嘆願された。
そんなに虐めたつもりは無かったが、少しからかいすぎたようだ。
今回のことはかなり堪えているようだ。
この様子なら、次からは大丈夫そうだな。
さて、それじゃぁブラッドボアを持って街に帰るか!
さて、どうやって持っていくか……
冒険者2人に持ち上げれるかと尋ねると「無理に決まってんだろ!!!」と、驚愕の表情で叫ばれた。
なら仕方ない。
「セクリア、そっち持って!」
「え、う、うん……」
「は……??!!」と、目を見開いて固まる冒険者2人の目の前で、ブラッドボアの前と後ろを2人で持ち上げる。
これは、ライリーとセクリアが怪力だから……ではなく、重力魔法で、重さを軽くしたからだ。
次元収納に入れても良かったのだが、そちらの方が騒がれそうだと思ったからだ。
なんでかって、そんな魔法を使っている人をまだ見かけていないからだ。
なので、さすがに次元収納に入れるのは不味いよなと自重したつもりだったが、こちらも大概だったようだ。
冒険者2人はなんだそれは?どうなってるんだ?と大騒ぎだ
こういう魔法もあるんだと、伝えるが、そんなの見た事も聞いたこともないと反論してくる
お前達はまだ人生経験が少ないからこういった魔法に出会って無かっただけだと、大人っぽく言ってみるが、お前も子供だろ、何言ってんだ?と白けた目で見られた。
あー、俺今ライリーの体借りてるんだったわ……
威厳も何もあったもんじゃないな……
だが、目の前で起きているのだ、信じざるを得ない。
つべこべ言わずにさっさと手伝えと、有無を言わせず手伝わせ、ブラッドボアを4人で街まで運ぶのだった。
◇◇◇
いやー、大変だったわ!
門で止められ、ギルドで質問攻めにあって……
途中で、めんどくさくなってきたライリーに体を返した程だ。
え?ライリーが大変だったんじゃないかって?
あぁ、それはもう、ライリーに後でめちゃくちゃ怒られたよ……
大丈夫だったか?と、こっそり聞くと、「コウヘー、大丈夫だったと思うのか?」ってジト目でさ……いやぁ、怖かったな、俺が悪いんだけどな。ハハハ……
まぁ、無事に話は終わったようだし、ブラッドボアはちゃんと解体して貰えるようだし、良かったけどな!
皮や牙、魔石なんかの素材は全部買い取ってくれるようだし、肉は孤児院4箇所に届けてくれるそうだ。
取りに来なくていいなんてラッキーだぜ!
今は炉端焼きの店、火鉢に炭を貰いに行く所だ。
秋刀魚といえば、やっぱ炭で塩焼きだよなー!
ここへ来るのはライリーとセクリアと出会った時以来だ。
あの時は店内は入れ替わり立ち代りぼちぼち人は入っていたが、全席埋まるほどではなかった。
だが、なんという事だろう。
店の近くまで来ると何やら長蛇の列が……俺らが向かっている方向と同じ方に伸びていると思っていたら……
路地に入る広い道にまでズラーーーーっと並んでいる行列は、行こうとしていた火鉢まで続いていた……
マジか……これ、店主と話せるか……?
少し不安が募りつつも、店まで行くと店主に話しかけた。
「おう!あん時の子供達か!お父さんは元気か?」
「え、うん……」
どうやら体を借りて、ラーメンを教えた男が、ライリー達の親だと思っているようだ。……まぁいいか。
それより炭を少し分けて貰えないかと頼むと、良いよ良いよ持っていきな!と二つ返事で分けてくれた。お金もいらないそうだ。お父さんのおかげでうちは行列ができる大人気店になったからな!と嬉しそうに話してくれた。
そういうことなら、有難く貰って帰ろう!
セクリアと炭を抱え、お礼を言って火鉢を後にするのだった。




