逃げる大根と異世界の秋刀魚-2
「疲れたー」
「凄い数だったね!」
いやぁ、悪い悪い!ついつい葉を切り落としすぎたな……
「ちょっと喉乾いてきたな」
「水は?」
「もう飲んじゃった……」
「早いよ!」
お、飲み物なら俺がいっぱい持ってきてるぜ!
ライリーとセクリアの会話を聞きながら、2人には聞こえないだろうが声をかける。
セクリアの体を借りて、次元収納からサッと飲み物を取り出し、ライリーに預けて体を返す。
「ありがとう!」と、渡した水を2人とも美味しそうに飲んでいる。
ライリーとセクリアに入ったり出たりしているおかげで、憑依するのが上手くなったな。
走っている時はまだ無理だが、歩いているくらいのスピードなら動いていてもサッと入れるようになってきた。
動いている人にも憑依できるのはなかなか使えそうだ!
2人が水を飲んで休んでいる間に、土から引っこ抜いてくれた大根を回収していく。
途中で折れたりせず、全部綺麗に掘り出してくれている。
ありがたい!
2人が掘り出してくれた大根は、根の先は二股に分かれてはいなかった。
日本で食べていたあの青首大根の根の先のように1つだった。
動き出す時に2つに分かれるのだろうか?
なんとも不思議な生態だ。
それにしても大きく立派な大根だ。
水で土を落とすと、根の上から下まで真っ白だった。
長さは根の部分だけで40cm程はありそうだ。太さもかなり太く、直径で20cmはありそうな程だった。
日本で食ってた物より一回りほど大きそうだ。
頼んどいてなんだが、2人で良く掘り起こせたなと感心する程のサイズだった。
全部回収し終わった頃にはもうお昼だ。
お昼は持ってきたのかと聞くと、食パンとケチャップを持ってきたそうだ。
なんだその組み合わせ……と思ったら、最近食パンにケチャップを塗って食べるのが孤児院で流行っているそうだ。
その上に何か乗せたりもしないのか?とも尋ねたが、これが美味しいんだとか。
まぁ今日はせっかく採れたての大根があるので、コレを早速食べてみよう!味見だ味見!
ライリーの体を借りて、料理する前に、魔法で出した水で洗った大根を皮を剥いて1cm程の厚みにスライスした。
それを生のまま、いただきます!とシャクリと齧る。
「ん〜〜〜!!!??あっまぁぁぁ!!!」
何だこれ!本当に大根か?!美味い、なんて美味さだ!
瑞々しく溢れてくる汁はまるで梨の果汁のように爽やかで甘い。シャクシャクと心地よい音を立て咀嚼すると、後に繊維が残ることも無く甘さの余韻だけを残して消えていく。
こんなに美味い大根は初めて食べた。
セクリアも頬を両手で押さえて、満面の笑みだ。
生でこんなに美味いなら、料理しても絶対美味いな!!
石でかまどを作っていく。
その上に網を乗せて、鍋とフライパンも乗せると、火を起こしていく。
鍋には食べやすい大きさに乱切りにした大根と水を入れ茹でていく。その間に、輪切りにして表面に切れ目を入れた大根をバターを熱したフライパンに入れ焼いていく。
蓋をして、両面に焼き色が付くまで、時々ひっくり返しながら焼く。
んー、バターのいい匂いだ。
いい感じに焼き色がついたら、醤油とみりんを入れ、遠火になる場所に移動させて、蓋をしたまま味が染み込むまで焼いていく。
おっと、そろそろ鍋もいいかな。
グツグツと煮える鍋の中で踊る大根にフォークを刺してみるともうだいぶ柔らかくなっていた。
グツグツなっている所に、以前買って次元収納に仕舞っていたホーンラビットの肉を食べやすい大きさに切り入れていく。
綺麗なピンク色の肉の表面がお湯で白く色が変わると、醤油、料理酒、みりん、生姜を入れ煮ていく。
んー、醤油と生姜のいい匂い……
このまま味が染み込むまで煮たら『大根とホーンラビットのこっくり煮』の完成だ。
フライパンの方も良さそうだ。
大根の表面が醤油とみりんでツヤツヤと飴色に輝いている。
『大根ステーキ』の完成だ。
出来た?出来た?と、セクリアが目を輝かせて聞いてきた。
皿に盛り付け、大きな石をテーブル代わりに並べていく。
よし、では早速、いただきます!と、大根ステーキを1口。
「うっめぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」
かぶりつくとジュワッと溢れる大根の汁。
その汁、いやもうスープと言っても良いほどの水分が溢れてくる。甘く爽やかな大根の味と、醤油やみりんやバターで足されたコクや旨味。口に入れるとトロトロと蕩けていく身、美味い……美味すぎる……
隣でセクリアも眉がふにゃりと下がって幸せそうな顔で美味しい……と味の余韻に浸っている。
次は、こっくり煮の方を、少し熱そうなのでフー、フー、と軽く息を吹きかけ冷ましてから、大根をぱくり。
ん!んん〜!!!こっちも美味い!
柔らかく柔らかく煮込まれた大根は、優しい味を口いっぱいに広げると溶けて消えた。
凄い……なんて柔らかさだ。
舌に触れるとジュワッと口内に広がり消えていく。
あ〜染みてる……
しかも、こんなに柔らかくなるなんて……
後には大根の甘さと醤油のしょっぱさ、生姜の風味が広がり心地よい。あっさりしていて、いくらでも食べられそうだ。
ホーンラビットの肉もパクリ。
うん!うん!こちらも美味い!ムギュっとしっかりした弾力がありつつ、歯切れは良い。噛めば噛むほど後味のあっさりとした脂が溢れてくる。
ああ……幸せだ……
隣を見るとセクリアもその美味しさに悶えている。
「ん〜!ん〜!おいっしい〜!!」と満面の笑みだ。
それから食パンにケチャップを塗り始めた。
あー、やっぱそうやって食べるのな……あ、ちょっと待てよ!
「なぁなぁ、セクリア」
「ん?どうしたの?」
「それ、もっと美味くなるって言ったらどうする?」
「それって……これ?」
表面にケチャップをたーっぷり塗った食パンを指さした。
「そう!」
「……これが最高だよ?これ以上なんてある訳ないじゃん!」
「そう……か?」
「でも……」
「ん?」
「本当に出来るなら、やって!」
「はいよ!」
そう言って、セクリアはおずおずとケチャップがたっぷり塗られた食パンをこちらに差し出してきた。
俺はそれを受け取ると、フライパンに乗せ、チーズをかけると蓋を閉めた。
あとは、チーズが蕩けるのを待つだけだ。
ウインナーや玉ねぎ、ピーマンがあればもっと良かったんだが、今手持ちに無いからな、仕方ない。
また市場で見つけたら仕入れとくかな!
そろそろいいかな?と蓋を開ける。
フワッと湯気が立ち上り、それと一緒にケチャップとチーズ、パンの焼けるいい匂いが辺りに広がった。
「ふわぁぁぁぁ!いい匂い……」
セクリアはその匂いに目を輝かせている。
皿に取り出すと、セクリアに渡した。
はぁ…はぁ…と、息を荒らげ、ヨダレを垂らしそうになりながら、食べていいの?と聞いてきた。
もちろん!どうぞと言うと、フゥー、フゥーっと、蕩けてトロトロになったチーズに息をふきかける。ふるふると息をかけられ波打つチーズを期待の籠った目で眺め、ゴクリと生唾を飲み込んでから、大きな口でパクッと齧った。
サクッと、いい音をさせてパンが噛み切られる音が響くと同時に、おいっしぃぃぃ!!!とセクリアがうっとりしながら叫んでいた。
「なんで?なんで?ケチャップを塗っただけでも最高だったのに!カリカリ、サクサクになったパン、このトロトロのチーズ、凄い、凄いよ!コウヘー!!こんな、こんなに、美味しくなるなんてー!!!知らなかった、美味しいものが更に美味しくなるなんて、信じられないよ……」
美味しい!美味しいよー!と言いながら幸せそうな顔で食パンに齧り付いている。
おっと!忘れてた!ライリーも美味い飯を味わいたいよな!
セクリアが食べているチーズトーストをもう1つ作ると、ライリーに体を返した。
ライリーは大根ステーキも大根とホーンラビットのこっくり煮もチーズトーストも1口食べるとカッと目を見開いて、その後はもう無我夢中で頬張っていた。
美味い美味い!と言いながらも、バクバクと口へ運ぶ手が止まらない。
あっという間に全部食べ切り、あー……もう無くなっちまった……と残念そうな顔で空になった皿を見つめていた。
こんなに喜んで貰えると食わせがいがあるな!
2人の幸せそうな顔を見ながら後片付けをするのだった。




