12、逃げる大根と異世界の秋刀魚-1
今日は王都の東の森を抜けた高台に来ている。
ライリーとセクリアも一緒だ。
「すっげぇ見晴らし、最高だなー!」
「お城も見えるよ!」
「本当だ!綺麗な景色ー!」
「森を見下ろすなんて初めてだ!」
「私もー!なんかふわふわしてるように見えるね!」
ライリーもセクリアも外門の外へ出るのは初めてのようで、見るもの全てに興味津々な様子で楽しそうだ。
なぜこんな所にいるかと言うと……
昨日商業ギルドにふらっと立ち寄ると、見つけてしまったのだ、秋の味覚、秋刀魚を!
この世界の秋刀魚、成長すると色が変わり、捕るのも大変になるようだ。
秋刀魚は最初は青黒く光る体が、成長すると共に青黒い色から、青が鮮やかになっていき、青から銀に、銀から白金に変わるそうだ。
その色によって段々と脂のノリが良くなるらしい。
魚が捕れる王都の南にある食料庫ダンジョンに四季の間と呼ばれる広間があるそうで、そこにある海や川、湖で、外の四季に合わせた魚が取れるそうだ。広間と言っても、外のような景色で海や森や川があるかなりの広さの空間らしい。
マジでダンジョンすげぇな、どうなってんだろうな……
今は秋が旬の秋刀魚がよく取れるそうなのだが、さすが異世界の魚。魔魚と呼ばれる魔物と生存域が同じなだけありかなり強い。
秋刀魚もヒレが刃物のように凶器な上、下顎がピックのように尖っていて、突き刺して来るそうだ……怖ぇな……これでも魔石が無いので普通の魚なのだそうだ。
商業ギルドで売ってたのはもう締められて生きてはなかったので危険は無い。
商業ギルドにはどの種類の秋刀魚も入荷していた。結構な数だったが、美味そう過ぎて、ついつい買い占めてしまった。
秋刀魚と言えば、塩焼きにして大根おろしとすだちと醤油をかけるのが最高なんだよな!と、大根とすだちもあるか聞いたのだが、すだちはあったが、大根は入ってきているのは辛い大根のみのようだ。
……辛い大根?
どういうことかとギルドスタッフに尋ねると、この世界の大根、なんと走るらしいのだ。
大根が走る……とか、全く想像がつかないんだけど……と、詳しく話を聞くと。
大根には魔石は無いので魔物では無いのだが、根を動かして動き回る植物は普通に存在するようだ……さすが異世界……俺の常識がことごとく覆されていくぜ……
大根が地面に植わっている所に近づくと、スポンと地面から飛び出し逃げるそうだ。
そして、大根は走れば走るほど辛くなる。
飛び出す前か、飛び出してすぐなら甘い大根が食べれるらしい。
商業ギルドにあった大根は冒険者にかなり追いかけ回され、走りまくって唐辛子並みに辛くなった大根のみだそうだ。
Oh……
辛みのある大根も好きだが、唐辛子並みに辛いとなると辛すぎだ……それはもう大根の域を超えている。
仕方ないので、大根は明日取りに行こうと詳しい場所を聞いて、あるだけ全て買い占めた秋刀魚をおすそ分けする為にライリーとセクリアに会いにいったら、一緒に大根をとりにいくと言いだしたのだ。
「大根おろし乗せて醤油垂らしたのが美味いなら、それが食べたい!」との事だ。
それなら、明日一緒に行こうと言うことになり、今日の朝から王都を出発して、先程、王都の東の高台に到着した所だ。
森の中は魔物も出るようだが、弱い魔物しか出ないって話だし、俺は結界も張れるしなんとかなるだろうとずんずん進んで来たが、出てきた魔物はホーンラビットやゴブリン、ブラウンクック、あとコボルトも出てきたか、まぁそれくらいで、特に問題はなかった。
さてさて、大根は……
「あ!あれじゃない?」
「ホントだ!あの葉っぱ見たことあるよ!」
ライリーとセクリアが早速大根を発見したようだ。
かなり離れた場所に植わっているのに、2人とも目がいいな。
「コウヘー、どうするの?」
そうライリーに尋ねられたので、セクリアの体を借りて返事をする。
「俺が葉を切り落としてくるから、待っててくれるか?」
「うん!」
「葉を切り落としたら、大根の根を掘り出すのを手伝ってくれ」
「わかった!セクリアにも言っとくな」
「おう、ありがとうな!」
と、会話はどちらかの体を借りながらしている。
第三者の体を借りるのもややこしいからだ。
今の所はこれで困ってはいない。
3人で話せないのだけが玉に瑕だな。
ライリーがセクリアにも伝えておいてくれると言うので、俺はセクリアの体から抜け出すと、大根の方へとふわふわ歩いていく。
この大根、走り回る時には葉から太陽光を吸収してそれをエネルギーとして走るらしい。天気の悪い日や寒い日は動きが鈍いそうだ。
なので、葉と根の境目を切り離すと大根は走り回ったりしないのだそうだ。
だが、近づくとあっという間に逃げるので、身体能力の高い冒険者でも上手く切るのは難しいそうだ。
葉や茎が残ってしまうと走れないまでも、歩いたり動き回ったりしても辛味が増していくらしい。逆に下を切りすぎると根の部分が傷つき、その場合も大根が驚いて暴れ、普通に逃げたり走るより激辛になるそうだ。切り落としてしまえば暴れることはないようだが、葉の根元まで土に埋まっているので境目は見えにくいし、狙いをつけるのが難しそうだ。変な所で切り落としてしまうと販売価値も下がってしまう。
その点、俺の場合は全く問題ない。なんせ俺は体が無いからな!足音なんか立ちようがないのだ!
ふわふわと歩いていくと、超至近距離で風魔法で、根と葉の境目をスパスパと切り落としていく。
楽勝だ!
大根は1年を通して取れるそうだ。だが、暑いと動きが活発で寒くなると動きが鈍くなる。
なので涼しくなってくる秋から冬なんかは甘い大根が取れやすい。
なので大根の旬は秋から冬なのだそうだ。
今はまだ秋の初めでそんなに寒くないので、甘い大根が取れやすくなるのはもう少し先のようだ。
大根の葉は青々と茂っており、太陽光もしっかり吸収していそうだ。
確かに太陽光エネルギーで動くなら、よく走り回りそうだな。走っている所はまだ見た事は無いけれど……
少し多めにと、50本程の大根の葉を根から切り離すと、切り落とした葉を拾ってから、ライリーとセクリアを呼びに行った。
「コウヘーすげぇな!」
「大根が走ること無くスパスパーって、葉っぱ落ちてってたよ!」
2人とも凄い!凄い!と褒めてくれ、なんだかこそばゆい気持ちになった。
葉を切り落とした所まで、歩いて行くと、ライリーとセクリアの足音に反応したのか、少し離れている場所に埋まっていた大根がのそりと土から出てきた。
え……!!?
もそもそ動きながら土から出た大根は、太い大根の根の先が二股に分かれている。
マジで土から勝手に出てきた……
それを見て動きを止めるライリーとセクリア。
「えっと……あいつは走って行っても良いんだよな……?」
そうライリーが言うと、声に反応したのか、大根は二股に分かれた根を上手く動かしてヨタヨタと遠ざかっていく。
おお……ああやって歩くのか!!
「あー、行っちゃった……」
「葉を落としてくれてる大根いっぱいあるし、大丈夫だよ!早く掘ろ?」
「うん、そうだな!」
ヨタヨタ歩く大根を見送ると、2人は葉を落とした大根の方へまた歩き始めた。
すると、再び歩き始めた2人の足音に反応して、次から次から大根が出るわ出るわ、土の中からもそもそ、バタバタ飛び出して、ヨタヨタ、ワタワタと急いで離れていく。
凄い反応だな……結構距離あるのに……
まだ30mは離れているのではないかと言う距離なのにも関わらず、大根の逃げる反応はとても早い。
足が遅いのを自覚しているからか、それともまた別の理由かは分からないが、この距離でバタバタと逃げられては、走らさずに根と葉を切り離すのは至難の業だな。
根だけになった大根を引っこ抜くのは手伝えない俺は、逃げ惑う大根をぼんやりと眺め、そんな余計な事を考えるのだった。




