冒険者と異世界のキノコ-4
よ、よし次は、醤油を垂らして……
シュワシュワと水滴が浮かんで来た所へポタポタッと醤油を少しかける。
カサから溢れた水分と醤油が網にあたりジュッ、ジュワッといい音を響かせ、醤油の香ばしい香り、肉が焼けるような香りも辺りに広がった。
金に輝くオオトロキノコに、赤みのある褐色の醤油がかかり、ガーネットのようになんとも美しく光る。
その香りを嗅ぐと、口の中の唾液が口から零れ落ちそうなほどに溢れてくる。
いい匂いだけ辺りに撒き散らしまだ食べられないなんて、焼けるのが待ち遠しい。
ッ……ゴクリッ……も、もう良いかな……?
醤油をかけたオオトロキノコを皿に取り、熱々のキノコを冷ますためにフー、フーと息を吹きかけるが、その時間も惜しいほど、期待に胸が踊る。
塩だけでもあんなに美味しかったオオトロキノコ、醤油をかけたらどれ程の味に進化するのか……
大きな口を開け、ガブリッと齧る。
あぁ……ジュワッと溢れ出すオオトロキノコのエキス。キノコとは思えないほどのジューシーさだ。肉厚の身を噛むとオオトロキノコの肉かと見紛うほどの味と醤油の味が一体となり美味さだけを残して蕩けて行く。
「あー……幸せだ……」
こんな美味いキノコがあったなんて……
異世界のキノコ最高だな!
このオオトロキノコの濃い味ならバターやチーズも絶対合うな!
醤油を垂らし、上にチーズを乗せたもの、バターを乗せた物も焼いていく。
蕩けたチーズも、蕩けたバターも、オオトロキノコとマッチしていて顔がニヤけ、頬が緩むのが止められない程の美味さだった。
これなら無限に食べられそうだ。
おっと、網焼きだけじゃなく、違う物もしてみるか!
俺は網の端にスキレット鍋を置いた。そこへ刻んだニンニク、輪切りにした唐辛子、オリーブオイルをたっぷり入れ、にくにくの香りが立つのを待つ。
シュワシュワとニンニクが熱せられ、いい香りがしてくると、食べやすい大きさにカットしたオオトロキノコと、しめじの残り、以前買っていた新じゃがをたっぷり入れて、塩と胡椒を回しかける。
材料を入れると、スキレットの中はジュワァァァ、パチパチパチ、と耳に心地よい音が響いている。
あとは煮えるのを待つだけだ。
はぁ、美味そう……この音とニンニクの匂いだけでもやべぇな……
おっと、ぼんやりしてる場合じゃなかった!
コレコレ、コレがいるんだよ!
取り出したのはバゲットだ。
コレを1~2cmくらいの厚さに切って、網で両面カリッと焼いていく。
後であの美味いキノコの出汁が溶け込んだオリーブオイルに付けて食べるんだ!絶対美味いよな……想像しただけで……ジュルッ
ジュワァァァァァァッという音が、グツグツチリチリと小さい音になってきたら食べ頃だ。
「お、おい、ルーベン、それは……」
「これはアヒージョだ」
「アヒー……ジョ?」
「コレはこのまま食べれる、熱いから気をつけろよ」
「……ゴクリッ……おう……」
仲間の2人は、オリーブオイルがグツグツと煮えるスキレットにそぉーっと手を伸ばし、フォークでオオトロキノコをグサリと刺した。
ポタポタと滴るオリーブオイル、それを見て生唾を飲み込んでいる。
フー、フーッと息を吹きかけバクリッと口に頬張ると、あっふ!あっふ!とハフハフと口内に息を送り込み、少し冷めると目を見開いて動きが止まった。
「ッ………………!!!??」
「え……?大丈夫か?」
どうしたんだ?と心配になり声をかけるが動かない。
何かおかしな味付けになっていたか?
そういや、味見をしていない!
大変だ、と、俺もフォークでオオトロキノコを突き刺して、かなり熱そうなのでしっかりフーフーと冷ましてから口に入れた。
ふわっとニンニクの香りが口内に充満したかと思うとそれを追いかけてくるオリーブオイルの香り、さらに噛むとジュワッと溢れ出す大トロキノコのエキス。
「うっめぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
ヤベェ、適当に入れた塩と、ピリッと舌を刺激する唐辛子と胡椒の分量も最高だ。全てがオオトロキノコの味を最大限に引き立てている。
美味い、美味すぎる。アヒージョにして正解だったな……
って、こんなに美味いのに、あいつらどうしたんだ?と、見ると、やっと動き出した。
美味すぎて昇天しかけていたようだ。
美味い美味いと次をバクバクと食べ始めている。
凄い勢いだ!
無くなる前に俺も食べなければ!
あ、そうそう、こっちもいい感じに焼けてるからな……
両面をカリッと焼いたバゲットをオリーブオイルにトプンッと浸す。
半分が黄色に染まったバゲットを口へ運ぶ。
ザクッ
んー、いい音。
そのまま咀嚼すると、サクサクカリカリと心地よい音を響かせ、いい香りのオリーブオイルとバゲットが口内で混ざっていく。
「んっまぁぁぁぁぁあ!!!」
オオトロキノコから溶けだした肉のような風味、ニンニクと胡椒の刺激的な香り、唐辛子のピリッとした刺激、しめじの出汁、全てがそのままでも美味いオリーブオイルを更なる高みへ育て上げている。その全てを受け止めるバゲットの包容力……素晴らしい。
その様子を仲間の2人がガン見していた。
それも食わせてくれと目がギラギラしている。
「食べたいか?」
「食べたい!!!」
「なら、キノコを提供してくれ」
「……は?」
こいつらがバクバク食べたせいで、かなり沢山取って来ていた俺のしめじが無くなったのだ。
昼にも食べたから余計減るのが早かったのかもしれないがな。
じゃがいもとオオトロキノコはまだまだあるが、俺は色々な種類のキノコが入っているアヒージョが好きだ。
なので、そう伝えてみると、採取していた袋ごと渡された。
キノコの見分けがつかないから、手当り次第取ってきたようだ……
食べれるか食べれないか分かるなら使ってくれと渡された。
……マジかよ……
この2人が見分けがつかないなら、まさかルーベンもか?
3人の袋をひっくり返して食べれる物と食べられない物に分けていくが……
ぜんっぜん、食えるキノコが無いじゃねぇか!!!
ルーベンをはじめ、他の冒険者2人も採取しているのは毒キノコばかりだ。食べられるものはほんの少ししか無かった。
特にルーベンはキノコ頭のくせに全然キノコに詳しくねぇじゃねぇか!
頭をキノコにしてんだから、もっとキノコの勉強しとけよ!
全く、あてが外れたぜ……
食べられるのはベニタケとソラタケという初めて見るキノコのみだった。
赤いヒラタケのような形のキノコと、青いマイタケのような形のキノコだ。
とても食べられるとは信じられん見た目だが、鑑定で見るとどちらも食用と書いてある。
さすが異世界……オオトロキノコも金色だったしな……
全部使っていいから早く調理してくれと急かされ、全部使わせて貰うことにした。
ベニタケもソラタケも風味豊かでかなり美味かった。
あー!これであとエールがあったらなぁ……
この美味いキノコのアヒージョにキンキンに冷えたエールをゴクッゴクッゴクッ……いい、想像出来るぞ、絶対美味い!
だが、今いるのは山の中だからな、人の体だし、我慢我慢……
エールは飲めないが、美味いキノコのアヒージョを堪能し、無くなる前にルーベンに身体を返しておいた。
取れたのが毒キノコばかりでちょっと可哀想だったので、満腹になって休憩している時に、オオトロキノコも袋に入れて少し分けてあげておいた。
少しだったとはいえ、せっかく取ってたのも食っちまったしな!
あとは……ほっといても大丈夫か。
至福の時間の余韻に浸っている3人をちらりと見ると、俺は3人とは分かれて、追加でキノコを探す為にふわふわと歩いていくのだった。




