冒険者と異世界のキノコ-2
美味そうだったらちょっと体を借りて味見を……と、ゴソゴソと取り出している物を覗き見ると、冒険者の食事は質素だった。あの硬い黒パン、水、干し肉のみだ。
ま、マジか……こ、これで普通なの、か?
目の前にこんなに水の綺麗な湖もあるのに、魚を取って食ったりもしないのか……?
こ、こんな、こんな、昼飯……耐えられない……
俺の昼飯という訳では無いのに、ひもじい気持ちになり、悲しくなってきた。
ッ…………俺が代わりに昼飯を準備してやろう!ちょっと体を貸せ!
キノコ頭の冒険者の体を借りることにした。
……うん、上手く入れたな!
「よし!やるぞ!」
「は?どうしたんだ?ルーベン」
「ちょっと待ってろ!」
「へ?」
仲間の2人は急に立ち上がり気合を入れている俺、いや、仲間を見て心配と疑問が入り交じった表情を向けている。
そんな視線は気にすることも無く、俺は湖に近づいて行くと、そっと湖の水に手をつけた。
そのまま探知魔法を使い、美味そうな魚を探していく。
お!これなんか大きくて食いでがありそうだ!!
その魚のエラの根元に狙いを定めると水魔法を使った。
湖の水を操作して魚を締める。
グサッとエラの根元に水の刃が突き刺さると、魚はエラの辺りから血を流しながらプカーッと浮かんできた。
どうやら上手くいったようだ。浮いた魚を風魔法で岸に寄せると、よっしゃー魚ゲットー!
1m程はありそうな大きな鮭に似た魚だ。
美味そぉ……
鑑定すると名前は『オレンジトラウト』と表示されていた。
シルバーグレーの体にベージュやオレンジブラウンの斑点があるからだろうか?
血抜きをしている間に、近くにあった石を集めかまどを組むと、火の準備をして行く。
火の準備が出来ると、オレンジトラウトの身を捌いていく。
この体の持ち主のキノコ頭くん、名前をルーベンというようだ。
ルーベンがナイフを持っていたので、魚を捌くのにはそれを借りた。
鱗を取り、頭を落として内蔵を取ると、スっと身に刃を入れていく。
スーッ、スーッと骨から身を切り離し開いて行くと、中は綺麗なオレンジ色だった。赤に近いオレンジで、艶々と光る身はとても美しい。
すげぇ、名前の由来はこの身の色か?美味そうだな……
こんな大きな魚を捌くのは初めてだが……うん、こんなもんだな!
上手く3枚におろせたようだ。(※自己評価)
これを食べやすい大きさに切り分け、塩をかけて、アルミホイルは無いんだよな……そのまま焼いてもいいけど……
どうしようかと、ふと横を見ると近くに生えていた木の葉が目に入った。
かなりデカイな!アレでいいか!
1mもありそうな大きな葉を見つけたので、それで包んで焼くことにした。アルミホイルがあれば楽だったんだけど、無いので仕方ない。葉は鑑定で見るとナバの葉と表示されていた。毒などもないし大丈夫だろう!
ナバの葉に、食べやすい大きさの切り身にしたオレンジトラウトと先程採取したしめじと共に乗せて包む。
せっせと半身分を包んで、フライパンに乗せてかまどの端へ。蓋をして焦げ付かないように遠火でじっくり焼いていく。
今度は鍋の準備だ。
石を組んで作ったかまどの上に鉄鍋を乗せて、水を入れる。沸騰したら、そこにしめじと切り身にしたオレンジトラウト、アラも入れて、醤油、料理酒、みりんを入れて蓋をする。後は待つだけだ!
はぁ……楽しみだ!
ワクワクした気持ちで待っていると鍋の蓋の隙間から湯気と共にいい匂いが漂ってきた。
ん〜、醤油と少し甘い良い匂いがするなぁ……
フライパンの方へ並べた葉で包んだオレンジトラウトの方もいい香りがしてきた。遠火だがちゃんと火が通ってきているようだ。
仲間の冒険者の2人は鍋とフライパンを見て生唾を飲み込んでいる。
「お、おい、ルーベン、これは何なんだ?」
「見てなかったのか?魚だ!」
「違う!それは見ていた!こんな、こんな、いい匂いは初めて嗅ぐぞ!」
「匂いだけじゃないぞ!」
「え?」
「味も最高だ!」……多分……
「ッ……ゴクッ……」
「んー、そろそろ良いかな?」
まずはスープの方からと、そっと鍋の蓋を開けた……
ブワッと湯気が一気に辺りに広がり、いい香りを撒き散らした。
ふぉぉぉ!うっまそー!
深い皿とフォークを次元収納から取り出すと、魚としめじ、汁をよそう。
それを仲間の2人に渡した。
まずこちらが『オレンジトラウトとしめじの醤油汁』の完成だ。
それから、フライパンの方も、蓋を開け葉で包んでいた物も火が通っているか開いてみる。
葉に包まれ蒸された身は見るからに柔らかそうに艶めいている。
うん、火も通ってそうだな。
これで『オレンジトラウトとしめじのナバの葉包み焼き』も完成だ!
待ちきれないという2人に急かされ、早速いただきます!と食べ始める。
まずは汁から。熱々の汁に口を近づけ、逸る気持ちを抑え、フー、フーッと息を吹きかけ少し冷ます。冷ます間もいい匂いにヨダレが口内に溢れてくる。
そっと深皿に唇を触れさせ、ズズっと少し汁をすする。
いい香りと共に口内に流れ込んできた汁は一瞬で舌を、口内を包み込み、その香りと旨みが充満する。
飲み込むのがもったいないが、ゴクリと飲み込むと温かさが喉を通り胃に染み渡り、胃を刺激する。ほぅっ……と漏れる吐息……
「あぁ……うめぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
オレンジトラウトの身や骨から出た出汁それからしめじから出た出汁、なんて美味さだ……それと醤油の風味と塩気がマッチしており美味い。まだ汁しか飲んでいない。汁に溶けだした味だけでこの美味さ……
魚は、キノコは一体、どれ程の美味さだ?
そっとフォークで刺した魚の身はホロりと崩れてしまった。
柔らかい……ホロホロだ。
今度はそっと掬い上げる。
期待に胸を高鳴らせながら、口の中へそっと運ぶ。
「ふぉぉぉ!う、うまぁあぁぁぁぁぁぁい!!!」
舌に触れるとホロホロと崩れる身。その身から溢れ出す甘い脂と濃い旨み。なんて、なんて美味さだ。
脂がしっかり乗った身はとても甘く、旨味のなんと濃いことか、たまらん……
それからこのしめじ、こちらも素晴らしい。
肉厚でジューシーだ。キノコなのにジューシーという表現がピッタリなほどジューシーだ。コリコリとした歯触り、噛めば噛むほど旨みも中から溢れ出す。
これが異世界のしめじ……日本で食べていたぶなしめじよりデカいとは思っていたが、なんて美味さだ……あぁ、幸せだ。
つ、次は……葉で包み焼きにした物を……パクリッ。
「ハフハフッ、んー!!!うっまぁぁぁぁぁぁあああい!!!」
汁とはまた違う味わいだ。
ナバの葉に包まれ蒸されたことで、味がギュッと凝縮しているようだ。
脂乗りが良いため、身が柔らかく、ふっくらとしている。
塩しか振っていないのにこの美味さ、この甘さ……むふぉ、たまらん……
それからしめじも……あー、なんてクリーミィな……噛むとジュワッとキノコのスープが溢れ出す。その美味さといったら、とても甘くクリーミィだ。これがキノコなのか?俺が知っていたキノコとは一線を画す程だ……それにナバの葉の少し爽やかな風味がプラスされ、後を引く美味さだ……あぁ美味い、幸せだ。
仲間の冒険者2人もうっまぁ!なんだこれは!なんて美味さだ!エールが欲しいぜ!と、美味い美味いと大騒ぎでバクバクと頬張っている。
うっめぇ〜!と満面の笑みだ。
見ていて気持ちがいい程の食いっぷりだ。
おっと、こんなに美味いんだから、キノコ頭……いや、ルーベンにも食べさせてやらないとな!と、一通り食べると、体からすうっと抜け出した。
ハッと我に返ったルーベン。
目の前のいい匂いのするオレンジトラウトと、仲間の様子を見比べ、ゴクリと生唾を飲み込むと魚に手を伸ばす。
大きな口を開けると、口の端からヨダレが垂れた。
そんな事も気にせず、魚の身を口に運ぶ。
パクリッと大きな身を口いっぱいに頬張ると、恍惚の表情だ。
「ふぅんまぁぁぁぁぁぁい!!!」
もぐもぐ口を動かす度に、表情がどんどん蕩けていく。
なんて幸せそうな顔をするんだ。
見ているこちらもヨダレが垂れそうだ。
美味かったからなぁ……幾らでも食べられそうな程だったなぁ。
3人は作った料理を全て食べ終わると、午後からもキノコ採取を頑張るぞ!とやる気満々で行動を開始するのだった。




