ライリーとセクリアと激ウマ調味料-2
一応、院長先生の許可も貰い、食堂で材料を広げセクリアに作り方を伝えていく。
リリーという職員に文字の読み書きも教えて貰ったそうで、セクリアは何も言わなくても材料や作り方をメモしている。
日本にいた時、会社に新しく入ってきた新入社員に色々教えたりした事もあったが、何度も同じ事を聞いてくるし、メモを取れと言わないとメモは取らないし、メモのとり方が雑で、見返してもなんの事を書いてるか分からなくなったなんて言ってる呆れる奴もいたのに……セクリアはしっかりした子だ。
メモを取っているのは紙ではなく、羊皮紙ですらない。木を薄く削った物だそうだ。
板より随分薄いので、気をつけて扱わないとバキッと折れてしまうそうだ。
だが、コレが1番安価で手に入れやすいのだとか。
割れないように板に挟んで保管するらしい。
「一通り説明は終わったから、実際にやってみるか!」
「うん!話だけだと分かりにくい所あったよ」
それはそうだ。今までやったことの無い事なら、口頭で説明しただけでは分かりにくいのも仕方がない。
早速セクリアと2人で準備に取り掛かる。
まずは、陶器の入れ物を煮沸消毒する。今回は、大人の拳程のサイズの入れ物を大量に準備してきた。
煮沸消毒は80度以上の温度で10分以上煮沸する事を言う。だが、孤児院には時計がない。
10分がきっちり測れないので、少々前後するだろうが仕方ない。
入れ物をグツグツ煮ている間に、食材の準備をしていれば10分くらい経つだろうと、食材の準備を始めた。
まずはトマト。皮を剥きたいので、湯むきする為に、ヘタを取って、反対側へ十時の切れ込みを入れる。
大量のトマトだ。コレを全て処理するだけでも10分くらいかかりそうだが、ついでに玉ねぎやニンニクも先に切っておく。
材料の準備が終わると、陶器の入れ物をテーブルに広げた布巾の上に並べて乾かしておく。
よし、この容器を煮沸消毒したお湯をそのまま使おう!
コレにトマトをどんどん入れていき、10秒ほどで今度は冷たい水にいれる。
こうするとトマトの皮がつるんと剥けるのだ。
剥いたトマト、玉ねぎ、ニンニク、ローリエを鍋で潰しながらグツグツと煮ていく。ザルで漉して煮詰めて酢、砂糖、塩、胡椒で味を整えると完成だ。
そう、作っていたのはハンバーガーを作った時にも作った『トマトケチャップ』だ。
この世界には調味料という物が圧倒的に少ない。
肉や魚等の食材自体が美味しいせいで、殆どの物が塩のみの味付けだ。塩だけで充分美味いのだ。
だが、味覚は俺と変わらないようで、日本で食べていた味付けは街でもかなり評判だった。
それなら調味料を作れば必ず売れるだろうと考えたのだ。
火を使ったり、切ったりは孤児院の子供の中でも年が上の子でないと難しいかもしれないが、手伝える事はいくらでもある。
なので、困窮する孤児院の収入源に、子供達に調味料を作って売って貰う事を考えたのだ。
ケチャップの次は、焼肉のタレを作っていく。
先日スジ煮に使っていたすりおろしたりんごベースの物と、すりおろした玉ねぎベースの物だ。
しかも今回はダンジョンでドロップした醤油もある。
魚醤で代用した物とはまた美味さが違うだろう。
かなりの自信作だ。絶対売れるはずだ。
グツグツと鍋を火にかけ煮詰めていると、院長先生が入ってきた。
「ライリー、セクリア、商業ギルドのギルドマスターがお越しですよ」
なんでこんな人が訪ねてくるのだと、少し慌てた様子で声をかけられた。
おお、やっと来たか!
はーい!と元気よく返事をして、ギルドマスターのクラレンスを迎え入れる。
あ、そうそう、きちんと挨拶もしておかないとな!第一印象は大事だからな!
俺はライリーの名前で挨拶を交わすと、今日来てもらった理由を説明し始めた。
作るのは子供達でも作れるが、販売経路の確保は子供だけでは難しい。
なのでクラレンスにその辺の事を相談したかったのだ。可能なら任せてしまいたい。
陶器の入れ物は小さいとはいえ、子供達の力からするとかなり重いだろう。それを何十個も扱うのは大変だ。
しかも、日本にあった容器と違い、きっちり閉まるものが無いのだ。傾ければ液漏れする。
今回準備した容器も蓋は無い。笹のような大きな葉を乗せて、紐替わりに使われている植物のツタをぐるぐると括りつけて蓋をするのだ。
蓋付きの容器も売ってはいたが、結局傾ければ液は漏れるし、値段がビックリするほど違ったので、1番安価な容器と大きな葉と紐にした。
容器代でコストが上がってしまうのはいただけない。
クラレンスに容器に詰めたケチャップと焼肉のタレを渡し、販売価格や販売経路の相談をする。
味見もしてもらい、どのように使うか等も伝えていくと、その味に感動して驚きと感動の混ざったような表情をしていた。
「素晴らしい!素晴らしいですよ!ライリー君!!」
「ありがとうございます」
ケチャップも焼肉のタレも大層気に入った様子のクラレンスは、販路に関してだけでなく、必要な材料の入荷先やその値段交渉までしてくれるそうだ。
この人何気にすげぇよな……さすがギルドマスター。
あとは任せとけば大丈夫そうだ!
クラレンスとの話も終わったので、クラレンスとセクリアと一緒に院長先生や皆にも話を通すことにした。
大量に作るなら人手が欲しい。ライリーとセクリアだけでは限界があるからな。
院長先生は話を聞くと涙ぐんでいた。
そっと俺とセクリアを抱きしめて、「ごめんなさいね、あなた達にまで心配をかけてしまって……」と言っていた。
「院長先生、いつも私達のために頑張ってくれてありがとう。私も何か手伝いたかったの」そう、セクリアが言うと、抱きしめる力が強くなり、院長先生はたまらず涙を流していた。
良い先生だな……こんな良い先生には食料の調達に頭を悩ませるのではなく、もっと子供達の事を考えていて欲しいと思う。
話が終わり、落ち着くと、皆で実践だ。
俺とセクリアでやり方を見せ、その後皆にもやってもらう。一通りやり方を説明し終わると、コンロが4つしかないので、煮る人、切る人、皮をむく人、仕上がった物を容器に詰める人等、皆で手分けした。
やっぱり全員ですると早いわ!30人くらいいるからな。
どれくらい売れるか分からないが、クラレンスがかなり強気な値段設定で自信満々に売れると断言していたので、これで孤児院の運営は安泰なはずだ。
だが、スグには大金は入ってこない。今日作った調味料で何か作りやすそうな美味い料理を伝えて行きたい。
最近何か安価で沢山買える食材は無いかと尋ねると、じゃがいも、かぼちゃ、にんじん、トマト、ナスは今が取れる時期のようで手に入りやすいそうだ。他にも旬の物はあるが、安価なものとなるとこの辺らしい。
それなら、パンの代わりの主食にもなるし、じゃがいもから。
まずじゃがいもの皮を剥き、細切りにしていく。細い方が俺は好みだ。
それをボウルに入れ、小麦粉、塩、胡椒があれば胡椒、を入れて混ぜ合わせる。
フライパンにオリーブオイルを少し入れ、今混ぜ合わせたじゃがいもを入れていく。
ジュワァァァァァァァッ
ん〜!いい音!表面を少し平にならして……
チーズがあれば入れるとさらに美味いんだよな!ハムやベーコンも合うし……とアレンジも伝えておいた。
とりあえずシンプルなものからと、今回はノーマルにする。
片面が焼けたら、ひっくり返す。
おお!フライ返しあるじゃん!ナイスー!
では……ドキドキ……
左手でフライパンを持ち、右手でフライ返しを持つ。
じゃがいもの下にフライ返しを差し込むと、フライパンを前後に振るのに合わせてじゃがいもをフライ返しで持ち上げ、手前に返す。
「ほっ!!」
ジュワァァァァァァァッ
「おお〜!!!」
見学していた皆から拍手と感嘆の声が上がった。
ちょっとこそばゆい気分だが、上手くいって良かった!
上に来た焼いた面は、綺麗なキツネ色になっており、端の方はカリッとしているのが見て取れる。
美味そぉぉぉ
ゴクリと生唾を飲み込むと、後ろでも嚥下音が……
え?と振り返ると、皆ヨダレが垂れそうな顔をしている。
芋が焼ける香ばしい香りが辺りに漂っているのでそれも仕方の無いことだろう。
反対側が焼けたら完成なのでもう少し待っててな!
ジュワァァァという音から、チリチリ、パチパチと音が変わると真ん中にフォークを刺して中まで焼けたか確認する。
うん、良さそうだな!
皿に乗せて、食べやすい大きさに切る。
ザクッ、ザクッ、ザクッと切る時までいい音だ。
コレにケチャップを添えて『じゃがいものガレット』の完成だ。
コレならいっぺんに大量に作れるから、作るのもそんなに時間がかからないだろう。
試作なので小さく切って、ケチャップをつけて食べてみてもらう。
「うっまぁぁぁぁ!!」
「凄い、カリッとしてて美味しいいい」
「中はホクホクしてて、最っ高ぉぉ」
「それにケチャップが合うぅぅ」
「おいっしぃぃぃぃぃ」
皆幸せそうな顔で、1口だけじゃ物足りない様子だ。
もっと焼いてとねだってくる。
「ケチャップに合うのだけで良いのか?」
「え……」
「こっちの、焼肉のタレに合う物も食べたくないか?」
「……ゴクリッ」
お肉は無いか聞いたが、お肉は高級なようだ。痛むのが早いからかもしれない。
コレは何にでも合うんだよなー!
残った野菜を何でも良いので食べやすい大きさに切る。
それを炒めて、火が通ったら焼肉のタレを回しかける。
ジュワァァァァァァァッ
あ〜!コレ!コレ!この匂い!たまんねぇ!
今回はすりおろしたりんごを入れた方の焼肉のタレを使ったのだが、この甘辛い匂い、醤油の香ばしい匂い、ニンニクの食欲を掻き立てる匂い。
やべぇ、腹が鳴るわ!
「す、すごっ」
「い、いいにおい……」
「お腹空いてきた」
「……ジュルッ」
子供達も早く食べたいと、ソワソワしている。
全体にタレが絡まったら『野菜炒め』の完成だ。
皿に乗せて味見をしてもらう。
俺も1口……
ん〜!うっまぁぁぁぁ!!
ニンニクのパンチのある香り、醤油の香ばしい香り。それがしっかり炒められた優しい甘さの野菜と絡まって、噛めば噛む程一体となっていく。
美味い!
このリンゴの甘さもいいよな……あ〜最高だ!
ん?
美味いと言う声が聞こえないので、みんなの方を見ると、1口食べて、プルプル体を震わせ固まっている。
「え?!お、おい、大丈夫か……?」
「っ……」
「え?」
「……っ……い」
「だ、大丈夫なのかよ?」
「うっまぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!!!!!!」
「うおっ!!??」
「こんな美味いもの初めて食べた」
「残り物の野菜がこんな美味いものになるなんて」
「しゅごいぃぃぃぃ」
「幸せ、コレが幸せというものか……」
いや、大袈裟……
皆、美味しい!美味しい!と肉も入っていない野菜炒めを食べて涙を流している。
まぁ、とりあえず、喜んで貰えたようで良かった。
今日は肉も入ってない野菜炒めだったが、ケチャップやタレが沢山売れれば肉も買えるだろう。
こちらもアレンジなんかも伝えると、晩御飯の準備を始めるのだった。
晩御飯の時にはライリーに体を返したのだが、ライリーは皆に凄い!凄い!と褒められ、ヒーローのような扱いになっていた。
「コウヘーやりすぎ……」とボソッと言ったライリーのつぶやきが聞こえてしまったが、聞かなかった事にしておこう、うん……
晩御飯には先程見本を作ったじゃがいものガレットと野菜炒めが出ていたが、みんな味見だけでは足りなかったと、バクバク食べていた。
ライリーもセクリアも幸せそうな顔で頬張っていたので、今日は来てよかったと思う。




