10、ライリーとセクリアと激ウマ調味料-1
今日は朝から商業ギルドに来ている。午後からはライリーとセクリアが待つ孤児院に行く約束をしているので、用事は全て午前中に終わらせなければならない。
まずは、先日会った商業ギルドのギルドマスターである、クラレンス・ムーアに会いに来た。
道行く人の体を少しだけ借りて、商業ギルドマスターに会えないかと尋ねると、ギルド内は沢山の商人もいて忙しそうなのにも関わらず、あっさり会うことが出来た。
さらに、今日の午後、北門から近い場所にある孤児院に来て貰えないかと頼むと、理由も聞かれずすぐに了承された。
「え、そんな簡単に……良いんですか?」
「ええ、今日の午後は予定も空いていますし、問題ありませんよ!」
「そうですか!ありがとうございます!」
これで相談相手の準備は完了だ!
それにしてもこんなにトントン拍子に話が進むなんて……後からなにか変なことが起きたりしないだろうな……?いやいや、縁起でもない事は、考えないでおこう!
あとは材料を買いに行かないとな!
市場には今日も、それはもう沢山の人がいるだろう。体は現地調達したら良いな!と、今借りていた体は返して、俺は霊体のままふわふわと市場に向かうのだった。
市場は予想通り今日も大盛況だ。
俺は野菜や果物を売っている区画の方へとふわふわ歩いていく。
朝の市場はダンジョン産ではなく、畑で取れた作物が並ぶことが多い。王都の周りの村や町から朝採れたてを運んできているようだ。ダンジョンで取れたものが並んでいる場合は前日に持って帰って来た物の事がほとんどだ。
取れたての、いや、ドロップしたての作物を手に入れたければ夕方に市場に行く方が朝から探索に行った冒険者が持って帰って来たものを売っている事が多いようだ。
俺は目的の物を探して市場の中を歩き回る。
失敗しても良いように多めに買いたかったのだ。
必要な物はトマト、りんご、ニンニク、玉ねぎ、生姜、ゴマ、長ネギ、ローリエの葉。
んー……孤児院にあるか分からないから鍋やザル、ボウルやヘラ、すりおろし器なんかも買っていくか!
あ、そうそう、肝心の瓶……瓶、って、あるのか?ガラス製品をあまり見ないから、陶器の入れ物になるのかな?それか木製か……?
まぁいいや、入れ物は沢山いるからな。少しくらい大きさや形がバラバラでも良いだろう!
広い市場中を、時間ギリギリまで必要な物を探してウロウロするのだった。
◇◇◇
ライリーとセクリアは何処かな……?
孤児院に着いたが、子供達の声もせず、建物の外は静かだった。
まだ昼ごはんを食べてるんだろうか?
外をぐるりと見て回るが誰もいないので、建物の中に勝手に入らせて貰うことにした。
「おじゃましまーす」と、玄関の扉をすり抜け、中に入ると、廊下の奥の方からキャッキャと楽しそうな声が響いている。
お?あっちかな?
声のする方へふわふわ歩いていくと、広い食堂があった。
まだ食事中だったようで、みんな食堂で昼食を食べているようだ。
それ俺のー!私おかわりするー!これうまぁ!!と、かなり賑やかだ。
今日の昼飯は何かな?と見ると、昨日ライリーとセクリアと孤児院までの道すがら買って来たものだった。
あぁ!まだ食べきってなかったのか!
3人で抱えれるだけしか買っていないので、子供達が30人くらいは居そうなこの孤児院では食べ切るのもスグだと思っていたのだが、野菜クズしか入っていない薄い色のスープやカチコチの硬い黒パンと一緒に少しずつ出していたようだ。
……子供達が美味い物をお腹いっぱい食べられないなんて……こんな辛いことは無いな……
俺が子供の頃は親だけでなく祖父母も一緒の家で生活していた。朝昼晩はしっかり食べていたし、両親は共働きで学校から帰ってもまだ帰ってきていない時もあったが、じいちゃんもばあちゃんもいたから、おやつも色々準備してくれていた。なので腹減って死にそうなのに満足に食べられないなんて事は無かったのだ。
母親も料理は上手で、いつも腹いっぱい美味いもんを食べさせてくれていた。
なので孤児院のこんな寂しい食事を見ると涙が出そうだ……
そういや俺が料理をするようになったのは母親のせいだ。
母親は仕事から帰るとスグに晩御飯の準備に取り掛かる。それを毎日手伝わされていたのだ。
アレして!コレして!と指示が飛ぶ。
今日宿題多いんだけど……と逃げようとしても、そんなの後でしたら良いから先に手伝って!と言われて逃げられないでいた。小学生の頃からこの調子だった。今思えば小学生に言うセリフか?と思わなくもないな……
まぁ、一人暮らしするようになってからは鍛えられてて良かったと思ったけどな。
室内をキョロキョロと見回し、ライリーとセクリアを見つけると、そちらにふわふわ歩いていく。
2人並んで眉間に皺を寄せて硬い黒パンに齧り付いていた。
ライリーはそのまま体を使っていいと言っていたが……一応声掛けてから借りるかな。
一旦セクリアの体を借りる。
……うん、上手く入れたな。
「ライリー!ライリー!」
「ん?どうした?」
「俺、俺、航平!来るのがちょっと早かったかな?」
「え?……え、コウヘー?」
「うん、そうそう!まだ飯食ってたから、声掛けてからの方がいいかと思ってな!セクリアの体を先に少し借りたんだ」
「ふわぁ!マジで!?すげぇ!!」
昨日は別のおじさんの体を借りて話していたので、他の体に憑依した俺と話すのは初めてだ。
できると聞いていたが、実際に見ると改めて驚いたようだ。
「ちょ、しー!しー!静かに!!」
「おっと、悪ぃ悪ぃ!」
「昼飯食べ終わってからの方がいいか?」
「どっちでもいいよ、もうこの不味いパンしか残ってないし……はぁ……」
ライリーは硬いパンをヒラヒラと振り、それをしかめっ面で見た。
「あー……そのパン硬いよな……」
硬くて齧れなかった経験のある俺は、苦笑いで返す。
「うん、こんな不味いもんじゃなくて、昨日のラーメンが食いたいよ……」
アレは美味かったなぁ……と思い出したのか恍惚の表情だ。
「あー……あ!そうだ、ライリー、甘いもんは好きか?」
「へ?甘、い……もの……?」
周りを見渡すとみんな漏れなく硬いパンは残っているようだ。
「ちょっと改良してやるよ!」
「え……こ、の、パン、を?」
「おう!任せとけ!みんなのパンも集めてきて!」
「ん……わかった」
こんなモンが美味くなる訳ないだろうと、顔にデカデカと書かれているが、言われた通りパンは集めてくれるようだ。
俺はセクリアとライリーのパンを持って厨房の方へと向かった。
あぁ、もちろん院長先生の許可は取ってきたぞ!
さて、用意するものは、牛乳、水飴、卵、バターだ。蜂蜜でも良かったが小さい子供もいる。赤ん坊には蜂蜜を食べさせたらダメだと聞いたことがあるが、何歳までダメだったか記憶が曖昧だ。危険をわざわざ犯す必要は無いだろう。ということで、水飴を使うことにした。
硬い黒パンを食べやすい大きさにガリガリとノコギリのような包丁で切っていく。
これ絶対硬い黒パン切る用だろ!というようなパン切り包丁よりノコギリに近いような包丁があったので使わせてもらった。
いや、コレマジでノコギリ包丁で切っても硬ったいわ!!よくみんな歯が欠けたりしないな……
さて、硬い黒パンを切り終わると、牛乳、卵、水飴を混ぜた液にしっかりと浸す。
しっかり液が中まで浸透するように少し押さえながら浸す。かなり中も密度のあるパンなので、ちゃんと液を吸ってくれるか少し心配だったが、パサパサなのもあり凄い吸収力だ。まるでスポンジ……だが、コレだけ吸えば柔らかくなりそうだな!
もうそろそろいいかな……?と思っていると、ライリーが、持ってきたぞ!と、みんなの食べかけのパンを持ってきてくれた。
それ切っといて!と、包丁は使えるというライリーにパンを食べやすいサイズにカットしてもらっている間に、液につけたパンを焼いていく。
フライパンにバターをたっぷり溶かし、液に浸していたパンをそこへ乗せていく。
ジュワァァァァァァァッ
パンをフライパンに乗せると、いい音を響かせながら、同時にバターの香りと甘い良い匂いも辺りにふわっと香っていく。
「ちょ、コウヘー!な、なに、何の匂いだ!!??」
ヨダレを垂れそうな顔でライリーが近寄ってきた。
「まぁまぁ、出来上がってのお楽しみだ!それよりパンは切れたのか?」
「うぐっ、ま、まだ……」
「切れたらコレに入れておいてくれ!」
そう言って、牛乳、卵、水飴を混ぜた液が入ったボウルを渡した。
なんだ?この薄い黄色の……と不思議そうな顔をしていたが、言われたことはちゃんとやってくれるようだ。
切ったパンから順にボウルにポイポイと入れてくれている。
こっちもいい感じだ!
チリチリパチパチと油が弾ける音を響かせているパンは、表面はカリッときつね色の綺麗な焼き目がついている。
ん〜!美味そう〜!
よっ、と、皿に乗せて、『フレンチトースト』の完成だ。
あー……卵とバターのいい香り、それに香ばしい香りとあまーい香りも相まって、口内に唾液が溢れてくる。
それは他の子供達も同じだったようで、いい匂いに釣られて厨房を覗いていた。
出来たて熱々が美味いからな!出来たものから食べて貰おう。
セクリア何作ったの?いい匂いー!と顔をのぞかせている子供達にフレンチトースト第1号を渡した。
全員分あるから、喧嘩せずに食べるように伝えると、子供達は目を輝かせてフレンチトーストの乗った皿を食堂の方へ持って行った。
ちょ、あの子……ヨダレめっちゃ垂れてる……フレンチトーストに上からシロップをかけるようにヨダレをかけそうな勢いだが……まぁ俺が食べるんじゃないし、死にはしないし、見なかったことにしよう、うん。
よし、どんどん焼くか!
ライリーが液につけてくれていたパンをまたバターをたっぷり溶かしたフライパンに入れて焼いていく。
これをどんどん繰り返し、全て焼き終わると、ライリーにセクリアの体を一旦返すから、セクリアにも食べさせてやってと伝えておいた。
俺は焼いてる時に1切れ味見したからな!食べ過ぎて腹いっぱいになったら、自分で味わえないとセクリアに怒られそうだ。
フレンチトーストは外はカリッカリに焼けており、歯を立てるとサクッといい音がするほどだった。だが、しっかり液を吸ったパンは中はフワッフワのトロトロになっていた。
いや、我ながら最高の出来だったぜ!
席について食べ始めたライリーとセクリアも目をまん丸に見開いて、「おいっしぃぃぃぃぃ!!!」「うっめぇぇぇええ!!!」と叫んでいた。
そうだろ!そうだろ!かなりいい出来だったからな!
院長先生や職員の人もフレンチトーストを食べたようで「美味しぃぃぃぃいい!!!」と、かなり驚いていた。セクリアの体を借りて作ったせいでセクリアは院長先生達にかなり質問攻めにあっていた。これはどうしたのか?なんでこんな物の作り方を知っていたのか?材料は何処から持ってきたのか?等と疑問を次から次から投げかけられていたが、セクリアは内緒だといい笑顔で誤魔化してくれていた。
フレンチトーストを食べ終わり、片付けが終わると、今度はライリーの体を借りるのだった。




