旅の僧侶と異世界のパン屋-4
食パンにはコレ、バゲットにはコレ、バターロールにはコレ!と、せっせと作っていると、石窯から香ばしいいい香りが漂ってきた。
はぁ……いい匂いだ……
フワッと甘い香りの中に香ばしい香りと小麦の香りが混ざっており、お腹が刺激される。
まだかな?と近寄っていくと、そろそろ良さそうですね!とカールトンもヨダレを垂れそうな顔で石窯の中を覗いていた。
よし!と取り出されたのは、食パンだ。
丸い鉄鍋に入っており、蓋が閉まっているのでまだ中は見えない。
ドンと机に置かれた鉄鍋の蓋をカールトンが「いきますぞ!」と、緊張した面持ちでそっと開けた。
ブワッと湯気が辺りに一気に広がると、湯気と共にいい香りも広がってくる。
うぉぉぉぉぉぉ!!!うっまそぉぉぉ!!!
蓋を取った表面の焼き色は最高だった。
蓋の形に盛り上がった表面は、綺麗に焼き目のついたきつね色で、カリッと焼けておりかなり美味しそうだ。
これは味も期待できるな!
他所で作業をしていたパン職人も匂いに釣られて集まってきた。なんだ?何の匂いだ?凄くいい匂いがする。と、ガヤガヤザワザワしている。
熱いうちに型から取り出し、切るのは粗熱を取ってからにして欲しいと伝えると、カールトンとクラレンスはこの世の終わりのような顔でこちらを見た。
わ、分かる、分かるぞ、この美味そうな匂いを前に、粗熱が取れるまでお預けなんてというその気持ち!だが、粗熱を取る前に切ってしまうと必要な水分まで一気に抜けてしまう。
これは美味い食パンを食べる為に必要なんだと心を鬼にして、待て!を宣告した。
みんなで食パンを眺めている間に、バゲットもバターロールも焼けたようだ。
バゲットのクープは綺麗に入っており、カリッと焼けた焼き目がそれはもう、美味しそうだ。
バターロールも表面に塗った卵がツヤツヤと照りを出しており、甘いいい香りを辺りにこれでもかと言うほど撒き散らしている。
皆、目が釘ずけになっており、3種類のパンは垂涎の的だ。
出来上がりはどうかと、触ってみると、フワッと柔らかい!
それはもう、フワッフワだ!
ギュッと押さえるとフワッと沈むのに、離すと元の形に跳ね返り戻るこの弾力、素晴らしい出来だ!完璧だ!
焼きは任せておけと言っていたが、さすがはパン職人だ!
バゲットもバターロールも出来たて熱々も美味いよなー!!
ギャラリーが多いが、まずは3人で試食をする。
いただきます!と、ぱくりと齧る。
「うっまぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!な、なんて柔らかさだ!これが、パ、パン、だ、と?し、信じられん……」
「あぁ、なんて美味いんだ!天にも登る心地だ。こんな美味いもの食べた事が無い!甘く柔らかく口の中に広がる香りが……たまらん!幾らでも食べられる!」
「んー!うっまぁぁいぃ!!あぁ、コレだコレ!コレ!これが食べたかったんだよ!!最高だっ!!!」
バターロールを試食し、次にバゲットを、どちらも食感も味も違うが、どちらも美味いと大好評だ。
周りで見ていた人達の中には、ポタッ、ポタッ、と口が空きっぱなしでヨダレが垂れている人もいる。
それを見て、引き攣りそうになる顔を何とか制御して、食パンも切って見てもらったが、こちらもいい感じだった。
うん、こっちもいい感じだな!最高の仕上がりに、満足気な顔で食パンの状態を見ていると、カールトンに話しかけられた。
「なにやら作っていただろう?」
「え?……まぁ」
「何を作っていたんだ?」
期待の籠った目で見つめられ、作り方の説明をしながらパンのアレンジをしていく事になった。
準備していたのは、食パン用に厚焼き玉子、ハーブ塩で焼いたホロホロ鳥、りんごジャム。
バゲット用にガーリックとバター。
ロールパン用に、羊の腸に詰められたソーセージとケチャップだ。今日のソーセージは羊の腸詰めなので細い。日本で食べていた物位だった。
薄くスライスした食パンにホワイトクロウの卵、塩、水飴で作った甘めの厚焼き玉子とケチャップを挟んだ物、ハーブ塩でカリッと焼いたホロホロ鳥とレタスとトマトのような野菜を挟んだ物。そう、『サンドイッチ』だ。
それから鉄板で片面をカリッと焼いた食パンにバターを塗り、トロッと蕩けてきたところにりんごのジャムをつけて、『りんごジャムパン』も完成だ。
それを見て歓声が上がる。そのままでも美味しそうな食パンがさらにさらに美味しそうになっている。
それを見てみんな息もはぁはぁと乱れているようだ。
次にバゲットを適当な厚さにスライスして、オリーブオイルで香りが立つまで炒めたみじん切りにしたニンニクに、バターを加えて溶かした鉄鍋の上に、先程スライスしたバゲットを乗せる。
バゲットにガーリックバターを染み込ませ、両面カリッと焼いたら『ガーリックバタートースト』の完成だ。
ガーリックのいい香りに、さらに食欲を刺激され、みんな目が血走っている。
ちょ、怖ぇんだけど……
後はバターロールだ。
上に切込みを入れ、切れ目にバターを軽く塗る。そこに千切りキャベツとあの美味かったレッドボアで作られたソーセージを挟み、上からケチャップをかけたら『ホットドッグ』の完成だ。
うん、完璧だ!やりきった感満載で仕上げたパンを眺めていると、もう待ちきれないとカールトンから声がかかった。
え?とそちらを見ると、試食用に切り分ける前に卵のサンドイッチに齧り付いていた。
「うっまぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!な、何だこれは!美味すぎる!挟んであるのは焼いた卵か?塩気と甘さのバランスがちょうどいい優しい味付けの卵に、この赤いソースがまた素晴らしく合う!最高だ!こんな美味いものがあったとは……」
「な?!……おい!!!」と、俺はその様子を見て驚愕した後、カールトンにジト目を向けた。
「ハッ!!……す、すみません、つ、つい……」と、俺の声で我に返るとかなり気まずそうな顔をしていた。
他のパンは切り分けると、できるだけ多くの人に試食してもらった。ヨダレを垂れながら、腹の虫もグゥ〜グゥ〜と鳴らしていたからな。
食べた人は皆、美味い!美味い!の大合唱だ。
ヨダレをポタポタ垂らしていた人も試食にありつけ涙を流して喜んでいた。
そうだろ!そうだろ!あの石のようなパンと比べると、泣くほど美味いだろ!!うんうん、分かるぞ!俺は石みたいでそのままじゃ食べられなかったからな……
そんな事を考えつつ俺もホロホロ鳥のサンドイッチをパクリと1口。
「うっめぇぇぇえええ!!!」
ふわっふわのパン、パリッカリッと香ばしいホロホロ鳥の皮、弾力はあるのに柔らかい肉は噛んだ断面からピュッと溢れ出る肉汁が口いっぱいに広がってくる。一緒に挟んだトマトとレタスが肉の旨み、肉の脂と合わさり、濃い肉の脂をさっぱりさせ、次のもう一口へ誘っていく。
ん〜!最高だっ!無限に食べられそうなほど美味い。
……みんなで分けたからもう無くなってしまった……
次はガーリックバタートーストを、パクリっ!
ガリガリッカリッ!
「むほぉ!うっまぁぁぁぁい!」
ガリガリザクザクに焼かれたバゲットの噛んだ時の小気味よい音。その後を追いかけてくるニンニクの食欲をそそる風味、それを包むバターの風味。さらに、このオリーブオイルの香りも、極上だ。ニンニクの風味にもバターの風味にも負けていない。だが、喧嘩することなく上手く調和している。さすがダンジョン産!
三位一体となり、バゲットを最高の状態に引き上げている。
噛めば噛む程、バゲットから小麦の風味や甘さが溢れ、さらに美味くなる。幾らでも食べられそうだ!
……あぁ、もう無くなってしまった……
次はホットドッグを、パクっ!
「んふぉうまぁぁい!!!」
うんうんうんうん!!持った時から分かっていたこの柔らかさ!期待通り、いや、期待以上だ。その柔らかいパンの間からパリッと割れ肉汁を弾けさせるソーセージ。ソーセージの肉汁を受け止めるシャキシャキのキャベツ。全ての味を纏めあげるケチャップの甘さと酸味。さらにそれを受け止めて離さないバターロール。噛んだ瞬間にもう美味い!だが、真骨頂はここからだ。噛めば噛むほど、口の中で全てが合わさり完成されていく。はぁ……幸せだ。
……これも、もう無くなってしまった……
次は卵サンドだ。ただの卵サンドではない。ホワイトクロウの卵サンドだ!それを塩と水飴で甘く味付けしてある。こちらもパクリッ!
「ん〜!!!え?!うっまぁぁぁぁっ!!!?」
この卵すげぇ!黄身だけでなく白身も全て混ぜ合わせて焼いたのに、この卵の味の濃さ!!濃厚でいて少しもしつこく無い卵の旨みを甘じょっぱい味付けが最大限に引き上げている。そこにケチャップの甘みと酸味が加わり、それを全て受け止める食パン!しっとりふわっふわの卵と、しっとり柔らかいパン……もう、最高だ!最高しかない!
……あぁ、これも食べきってしまった……
最後にりんごジャムパン。
デザート代わりにと最後に残していたが、甘くいい香りだ。
りんごは細かく格子状に切った物と、すりおろした物を混ぜてある。それを水飴と蜂蜜、少しレモンの汁を入れてトロッとするまで煮詰めた物だ。
さてさて早速パクリと1口。
「んふっあっまぁぁぁぁい!」
サクッと焼き上げた食パンの表面の食感。その後に来るりんごのいい香り、ジャムの甘さとバターの風味。それを噛めば噛むほど、格子切りにしておいたりんごのシャクシャクという食感が口内を楽しませてくれる。良い……。最高だ!
あぁ、全て食べきってしまった……幸せな時間というのはあっという間だな……だが、大満足だった!
とりあえず、コレで最初は怪訝な顔をされていたがドライイーストの使い方は信じて貰えただろう。
満足気にみんなの様子を眺めていると、クラレンスから早速商談の話を持ちかけられた。
内容はドライイーストをどれだけ持っているのか?どのくらいの値段で売ってもらえるのか?定期的にドライイーストを持ってきて貰うことは可能か?というものだった。
だが、定期的にこの体で持ってくるのは不可能だ。
この体の持ち主は、旅の僧侶だ。何時まで王都にいるのかは分からない。
俺はまだパントリーダンジョンで醤油や味噌を探したいので、可能だ。なので、定期的に持ってくるのは、別の人が持ってきても良いのかと尋ねてみた。
へ?別の人が??!と、少し驚かれたが、大丈夫だそうだ。
それなら、持ってきた時に美味しいパンを大量購入させて貰うのを条件にパン屋側の希望の金額で売ることに決めた。
商業ギルドマスターが間に入ってくれたので、あまり安くない金額に落ち着いた。その額は結構な額だったが、俺が取ってきていたドライイーストは全て買い取ってくれるようだ。
試食が終わると、今からみんなで追加のパンを焼いてくれるそうで、しばらく待っていてくれと言われ、上機嫌にパン生地を捏ねるパン職人達を眺め、大量のパンを受け取ってから僧侶に体を返すのだった。
僧侶にもパンは少し持たせておいたし、宿に1週間くらい泊まれる程のお金も持たせておいた。
無一文で旅をしていたようなので、これくらいあればしばらく大丈夫だろう!
体を返してから、ここはどこだ?と混乱している僧侶に、パン職人達が質問を浴びせ続けていたが、もう中身は俺じゃないから戸惑うばかりで答えられていない。
えーっと……まぁ大丈夫だろ!ハハハ……
何処か宿まで行って体を返した方が良かったか?と考えつつも、もうだいぶ辺りも暗くなってきていたので休む場所を探してふわふわと街の中へ歩いていくのだった。




