旅の僧侶と異世界のパン屋-2
まっぶしい〜!!今日も暑くなりそうだな……
時間の感覚が無かったが、ダンジョンを出るとどうやら朝日が登ってきたところのようだ。
王都の外門はいつも日の出と共に開く。なので今頃、沢山の人が門前に並んでいる頃だろう。
俺にはあんまり関係ないけどな!なんせ誰にも見えないし、なんなら外壁もすり抜けられる。
そういえば、壁はすり抜けられる俺でもダンジョンの階層はすり抜けて下に行くことは出来なかったんだよ。ダンジョン内も壁は大丈夫なんだがな。
不思議だよな、ダンジョンって一体どういう仕組みになってるんだか……?階層を移動するには必ずあの階段を利用するしかない。魔法のある世界だからな、魔法で制限でもかけられてるんだろうか?
そんな事を考えながら歩いていると、門の前に並ぶ人の列が見えてきた。
中に入るために並んでいる人、中から出て来て森の中へ入っていく人、街道を進んでいく人、沢山の人が行き交っている。
最近俺は、商人と冒険者は少しだけ見分けが着くようになってきた。職種が同じだと、服装が同系統の装備の事が多いようだ。中には吟遊詩人だったり薬師だったり錬金術師だったりただの旅人だったりと似てる服装なのに違う職種の人も混ざっていたりするのだが、最初に見た時よりは判断しやすくなってきた。
中に入るために並んでいる人を横目に見ながら、横をふわふわと歩いていると、門の前で何が揉めているような声が聞こえてきた。
どうしたんだ?
近づいて見ると、門番の兵と大きな声で話しているのは、僧侶のような男だった。
揉めている訳ではなく、僧侶のような男の声がデカいだけのようだ。
んー?ふむふむ、旅の僧侶か……なんだか弁慶のような感じの服装だな……武器は持って無いんだが、服装が弁慶のような感じだ。
どうやらこの僧侶、修行の為にあちこちの国や街を回っているようだ。
厳しい旅の目的は回復魔法や浄化魔法を覚えることらしい。
使えないのか……?
こっそり僧侶を鑑定すると、回復魔法の適性はあるようだ。
適性があるなら使えそうなものだが……話の感じでは、魔法の属性によって覚えやすい覚えにくいという物があるようだ。
火や水等、目に見えて、どのような物か想像しやすい物は発動しやすく、回復魔法や浄化魔法のように想像し難い物は使えるようになるまでにかなり時間がかかるようだ。
へぇ……なるほどな、て事は、俺が比較的早く回復魔法や浄化魔法を使えるようになったのは前世の記憶があるからか?
日本では医療に携わっていなくとも、身体の体内の構造を見たり聞いたりする機会は多い。理科室には人体模型なんかもあったしな。
医者のような知識までは無いが、ある程度の知識でも回復魔法を使う助けになっていたのだろう。
それで、騒いでいる原因は街に入る為の身分証もなく金も払えないからのようだ。
小さな村や町では、修行中の僧侶だと話すと入れてもらえる所も多かったようだが、王都に入るのはそのへんがシビアなようだ。
何とか入れて貰えないかと頼み込んでいる。
街へ入る為の確認をしている兵は僧侶を対応している人だけでは無いとはいえ、1つ塞がると確認効率は下がる。
日の出から時間も経ち、気温も随分上がって来ているので、後ろで待つ人達も大変だな……
どうするのか気になって見ていると、並んでいる人達の叫び声が上がった。
何事だ?とそちらを見ると、暑さにやられて誰かが倒れたようだ。
僧侶はそれを聞き付け、兵と話していたのも中断し駆けつける。
回復魔法を使おうとしているようだが、修行中だと言っていた通りまだ軽い切り傷を治す程度しか使えないようだ。全く使えないわけではなかったが、怪我で倒れたのでは無いので、効果を発揮していないようだ。
倒れていたのは20代くらいの女性のようだ。商団の1人のようで仲間に囲まれている。
顔が赤く、はぁはぁと息が荒い。
熱中症か、熱射病かな……?
オロオロと大丈夫か?しっかりしろと声をかける商団の仲間達。
だが、オロオロと心配そうな顔で声をかけるだけで対応出来ていない。
上手く対応出来ていなさそうなので、ちょっと手伝うか……
俺は誰にしようか悩んだ結果、僧侶の体を借りることにした。
……うん、上手く入れたな!
動かしますねと声をかけると、女性を馬車の日陰に移動させた。水魔法で濡らしたタオルを凍るギリギリまで冷やして、首や脇の下、太ももの付け根を冷やす。
たしか、太い血管の所を冷やしたらいいんだったよな……?
次に次元収納から以前購入していた鍋を取り出し、ドリンクを作っていく。
倒れる程という事は脱水症状にもなっていそうだ。あまりに酷い場合、水を飲ませても体内に吸収されず、逆に水中毒になってしまうと聞いたことがある。
この女性はそこまでかどうかは分からないが……
ということで、鍋に水、塩、砂糖が無いので代わりに水飴を入れて温め溶かしていく。そこにレモンの汁を絞り、今度は冷却していく。
コンロも冷蔵庫も無くても、すぐに温めたり冷やしたりできる魔法は本当に便利だ!
冷やし終われば『スポーツドリンク』の完成だ。
ペロリと味見をしてみると、「うっまっ!」なかなか良い出来だ!
蜂蜜を混ぜたり、ミントを混ぜたりしても美味いが、今日はコレでいいや!
コップに移すと倒れた女性に飲ませる。
頭を支え起こし、そっと口元に流し込み、コクコクッと少し飲ますと、女性はガバッと起き上がり、「お、お、おいっしいぃぃぃぃー!!!」と、恍惚の表情だ。ギラッとした目でこちらを見ると、コップをガッと掴み取り、一気に飲み始めた。
び、ビックリしたぁ……ドキドキドキ……
体を冷やして、ドリンクを飲むと、女性は随分回復したようだ。
急に起き上がり、コップを奪い取られた事に驚いたが、重症ではなかったようで、よかった。
少し目眩がして、体に力が入らなくなったそうだ。もう立てそうだと言っていたが、しっかり回復するまでゆっくり休む事を勧めておいた。
同じ商団の仲間は良い人達の様なので、後は任せておけば大丈夫だろう。
残りのスポーツドリンクは並んでいる人達で分けてもらうよう、門番の兵に渡しておいた。また、先程の女性のように暑さにやられて倒れてしまう人が出た時の為に、スポーツドリンクの作り方も伝え、少し材料を渡しておいた。
そんな事をしていると、女性が所属していた商団の人が、俺の……いや、僧侶の入場料を代わりに払ってくれるという。
女性を介抱してくれたお礼だと言っていた。
俺はありがたく申し出を受けることにした。
中に入れたし、ついでにもうちょっと僧侶の体を貸してもらおう!
街に入ると俺は軽い足取りで、パン屋に直行ー!ではなく、商業ギルドに向かった。
ドライイーストを使ったパンを作ってくれそうなパン屋を紹介してもらう為だ。
商業ギルドの受付で話すと、ギルドマスターの所へ連れていかれた。
自己紹介してくれたギルドマスターの名前はクラレンス・ムーア。ファミリーネームを持つのは貴族だけだが、ムーア家は商才で成り上がった貴族のようだ。クラレンスの祖父の代にファミリーネームをもらい、クラレンスもクラレンスの父もかなりやり手の商人だったようだ。
クラレンス以前はバリバリと現場で働いていたが、父から継いだ店は兄弟に任せ、自らは商業ギルドのギルドマスターに勧誘され王都のギルドを任されているようだ。
ギルドマスターの話では、北のパントリーダンジョンの10階層まで行った人はまだ居なかったらしい。
出てきた魔物やドロップした物について詳しく聞かれる事になった。
「やはり、10階層もゾンビですか……」
「めちゃくちゃ臭くて大変でした……」
「そうですよね、皆そのせいで行きたがらず、攻略が進んでいないのです……」
予想通り、臭いのせいで皆寄り付かないようだ。
塩と胡椒は結構見かけるなと思っていたが、スケルトンが出る階層なので、ゾンビの出る6層以降よりは行ってくれる人も多いのだとか。
それより下の階は出てくる調味料も使ったことが無い人ばかりなので使い方が分からず購入者があまりいない。欲しい人がいなければその売値は下がり、金にならないのに危険を犯して深くまで潜る人もいないそうだ。
バターやチーズ、蜂蜜が市場で売られていたのは牛の乳から作ったり、養蜂をしている村があるそうで、ダンジョン産では無いだろうとの事だった。
一通りダンジョンの事を話終わると、ドライイーストの使い方を伝え、これを使ってパンを作ってくれるパン屋を紹介して貰えないかと尋ねてみた。
ギルドマスターはドライイーストの使い方に目を丸くし驚いていたのも一瞬で、これは商機と目をギラつかせながら、早く行きましょう!と、テンション高く外へ引っ張りだされるのだった。




