8、旅の僧侶と異世界のパン屋-1
ダンジョンに初めて潜ってから15日が過ぎた。
俺は今日も北にある、食料庫ダンジョンを探索している。
最初は街とダンジョンを行き来していたが、ここ数日は潜りっぱなしだ。随分下の階層まで降りてきた。
最初は休むために街に戻っていたのだが、精神的な休養が必要なだけで、疲れはしないし、腹も空かないし、眠くもならないのだ。それなら魔物に襲われることもない霊体なら街に戻ってもダンジョンの中で休んでも変わらないという事に気がついた。
人がいなければ体が借りられずご飯は食べられないけどな。それは仕方ないと割り切ることにした。
この世界の肉は美味い!それはもう、何も味付けをしなくてもそのままでかなり満足できるほどだ。魔物肉は旨みも強くしっかりとした肉の味を感じられる。それを塩で味付けするだけで、立派な料理。極上のひと品だと言ってもいいほどになるのだ。
だが、しかーし、俺は知っている。
様々な調味料で味付けされた数々の料理を……
知らなければ素材の味を生かした、塩味か、せいぜい数種の香辛料の味付けの料理で大満足だろうが、日本にはそれはもう数え切れないほどの美味い料理が存在した。
アレをまた食いたい!!!
ということで、味噌と醤油を探し中だ。
魚醤を代用品として使った時もあったが、やっぱ味が違うんだよな、醤油と魚醤じゃ……
調味料を色々混ぜる内の1つとして使うならいいのだが、醤油がメインの味付けの料理には使えない。
米もまだ見かけて無いし、日本食がこんなに恋しくなるなんてな……
海外旅行に行った人が、日本に帰って来たら日本食の店に駆け込むのも理解できたぜ!
俺は朝はパン派だったし、昼はハンバーガー食べて夜はパスタとかの日もあったから平気かと思ってたが、数日どころか何ヶ月もとなると恋しくなるもんなんだな。
そんなことを考えつつ、どんどん魔物を倒していく。
今探索しているのは9階層だ。
ジメッとした石造りの通路が続くダンジョンで、薄暗い。
辺りは黴のような臭いと、腐臭が漂う、かなり臭い空間だ。
その臭いの原因は十中八九、ポップする魔物のせいだろう。
この階層、ゾンビが徘徊しているのだ。
正直、調味料とはいえ口に入れる物がドロップするダンジョンに出る魔物が、ゾンビのような腐臭を放つ魔物なのはどうかと思う……
6階層から、ゾンビも出始め、あまりの臭さに、火魔法は諦め、浄化魔法で魔物だけでなく辺りの臭いも消しながら進んでいるほどだ。
ほんとうに臭い……
冒険者があまり行きたがらないのも納得だ。
4階層では冒険者を見かけたが、5階層以降、冒険者はまだ1人も見ていない。
6階層以降は、きっとみんなこの臭いのせいで近寄らないんだろうな……
ちなみに、9階層までのドロップ品はこんな感じだ。
1層-塩
2層-胡椒
3層-ワインビネガー
4層-魚醤
5層-水飴
6層-蜂蜜
7層-バター
8層-味醂
9層-オリーブオイル
街中の市場でもワインビネガー、魚醤、水飴、蜂蜜、バターを見つけたが、もしかしたらここで手に入れたものかもしれない。
もしそうだとしたら、俺がたまたま会わなかっただけで、下の階層まで来ている人も多くは無さそうだが、いるのかもしれないな。
そんな事を考えながらゾンビを次々と浄化していく。
スケルトンもゾンビも後にドロップ品しか残らないのはありがたいな。
倒した魔物の死体がどんどん積み上がっていったらと思うとゾッとする。
「おっ?!」
下へ行く階段を発見した!壁に穴が空いており、下へ降りれる階段がある。
5階層より下は迷路のような作りになっていて、かなり迷いながら進んでいたので、階段が無事見つかってよかった。
迷いまくったせいで大量のゾンビを浄化した俺は、やっと次の階層だ!と、テンション高く10階層へ降りていった。
の、だが……
「マジ、か、よ……」
もうため息しか出ない。
10階層へ降りたが、そこにいたのもゾンビだった。
まだ少しも浄化されていない空間は、かなりの腐臭が充満しており、嘔吐きそうなほどだ。
くっそぉー、アンデッドでもせめて臭いがしないやつならマシなのに……
10階層のゾンビは人型のものは少なく、魔物型のゾンビが多そうだ。
数は下層へ行くほど増え、動きも力も強くなる。
それに集団で襲われでもしたらひとたまりもないだろう。
こういう時は霊体で良かったなと思う!
階段へ近づいてきたゴリラのようなゾンビに向け、浄化魔法を放つ。
ゴリラのようなゾンビは、グガァァァァ……と、呻き声のような声を残し、浄化の光に包まれ消えていった。
さて、10階層でのドロップは何かな?
ゴリラのようなゾンビが消えた後に残されていた小さい皮袋の中を見る。
触ることは出来ないので、少し隙間の空いた皮袋の上から覗き込むように見た。
「こ、こ、これ、これ、これはぁ!!!」
皮袋の中を覗くと、薄い茶色の砂のような物が入っていた。
砂浜のサラリとした砂にそっくりだ。
俺はコレに見覚えがある。
だが、ソレだという確証は無い。
ちょ、鑑定!鑑定とかできないのか??
ステータス画面から鑑定スキルが無いかを探すと、使えるようだ。
震える手で、そっとソレに手をかざし鑑定魔法を使ってみる。
ドクン……ドクン……ドクン……
「き、キターーーー!!!」
鑑定の結果は、俺が予想していた通りのものだった。
ドロップした物は『ドライイースト』だった。
俺がまだ実家にいた頃に母親が家でパンを作るのに使っていたのを見たことがあった。なんで砂なんか入れてるんだ?と尋ねたらドライイーストだと教えてもらった。そっくりだと思ったが、まさか本物だとは!と、テンションが上がる。
これであのカッチカチの硬ったいパンとはおさらばだ!!
醤油や味噌では無かったが、良いものが出た!
沢山とって帰ろうと、俺は先程までの落ちた気分とは裏腹に、テンション高くゾンビを狩り始めるのだった。




