2、異世界の街と異世界の串焼き-1
「うぉー!これが街の入口かー!すっげぇ外壁!」
石造りの強固な外壁に囲まれた街は、門の前にズラリと入場する為の列が出来ていた。街に入るのに身分証等の確認をされるようだ。
外壁はかなり高さのある壁で、少し離れているここからでも見上げるほどの高さだ。高層ビル並みに高いな……
観音開きの入場門もかなりの大きさで、帆馬車の3倍程の高さはありそうだ。
車はまだ無いのか、馬やロバが荷物を乗せた馬車を引いている。
へぇ、これが行商人ってやつかな?この人は戦闘職かな?冒険者みたいな職業とかもあるのかな?
門の前に並ぶ人を見ながら、門の方へ歩いていく。
馬車に乗った人、その護衛らしき人、冒険者らしき人、背負子を背負っている商人のような人等、色々な人がいるが、みんな西洋風な顔つきの人ばかりだ。髪色も様々で赤黄緑青グレー、茶色が多いようだがなかなか派手な髪色の人もいる。
おお!あれは獣人か!?頭から猫のようなピンと立った耳が生え、長い柔らかそうな毛の生えた尻尾が生えた人もいた。耳と尾がある以外は人と変わった所は無いようだ。
すげぇ、ファンタジーって感じだな!獣人かぁ!なら、エルフやドワーフなんかもいるのかな?会えるのが楽しみだ!
黒髪黒目の日本人みたいな人は居ないな……
そして列に並んでいるのは圧倒的に男性が多い。女性はあまり外壁の外へは出ないのだろうか?
そんな事を考えながら門を抜け街中へ入っていく。
仕方ないよな、俺は誰からも見えないみたいだし、門でチェックも受けられないからそのまま入るしかないよな。そう自分に言い訳して、「おじゃましまーす」と一声かけて、勝手に入らせてもらった。
「おお!」
外壁の中はとても綺麗な街並みだった。
道は石畳だが、きちんと整備されており、建物も石やレンガ造りの建物ばかりだ。
建物はそんなに高いものは無く、2階建てや3階建てが主流のようだ。
そんな中を沢山の人が行き交っており、とても活気がある。
道沿いに屋台も出ているようで、商人のおじさんやおばさんの声も響いている。
へぇ、活気があっていい街だな!地球では、海外旅行に行ってみたかったが行けなかったんだよなー……まさか海外通り越して異世界に来る事になるとは、人生何があるかわかんねぇな。
キョロキョロと当たりを見回しながら少し進んでいくと、街中に水路もあるようだ。
へぇ……ベルギーのブルージュとか、もし行けてたらこんな感じだったのかな?
すげぇ綺麗な風景だな……
幅が5~6m程の水路が街のあちこちに張り巡らせであるようで、それを渡る為の橋も沢山あるようだ。
そのどれもが石造りの橋で、水路の水も透き通っている。陽の光をキラキラと反射してとても綺麗だ。
それが周りに立ち並ぶ、煉瓦造りや石造りの建物と相まって、オシャレな海外の田舎の風景のようだった。
オシャレな街並みを眺めながら、橋をいくつか渡って行くと、広場のようになった場所に出た。
何に使う場所なんだ?
石畳が敷き詰められ整備されているが、木が植えられていたり花壇があったりはなく、ただただ広い場所だ。
噴水やベンチでもあれば、すげぇオシャレな広場って感じだな。
え?!あれって、もしかして……
ふと横をむくと、建物の上から城らしきものが見えた。
それが良く見えそうな方へ行ってみると、やっぱり城だ。日本のような城ではなく、西洋風な城だ。
確か、フランスにあるモンサンミッシェルがあんな感じの城じゃなかったかな……すげぇな……
城があるってことは、ここは王都か?
城の中には王様もいるんだろうか?
侵入してみたい気もするが、とりあえずアルナイルの事も、この国の事も、街のことも何にも分からない状態で、人に聞くことも出来ないので、街中をウロウロして人が話していることから情報収集する事にした。
◇◇◇◇
街に到着したのは昼前の時間帯だったようだ。
この国の人は、相当貧乏な人以外は朝昼晩と食事を取るようだ。
街中を歩いていると昼のかきいれ時、客引きの人があちこちで声をはりあげていた。
しかも店からはいい匂いがしてんだよ……なのに食べられないなんて……あーくっそぉぉぉ!
俺は日本にいた時には割と食う方だったし、美味い店があるって聞けば行ってみるくらいには食べるのが好きだった。
せっかく異世界に転生させられるなら異世界グルメに舌鼓ってのも有かなと思っていたが……それが出来るのもいつのことやら、はぁ……
霊体なだけあり、腹は減らないようだが、昼時に賑わう飲食店なんかに入ると、いい匂いはするし美味そうな飯をみんな食ってるし羨ましい事この上無かったな……そう、匂いはするんだよ!!
お供えとかして貰えたら食えるとか?……いや、墓もなければ仏壇もないわ……
食事の席では街の情報が聞けるかもとあちこちの店に入って見たが、美味そうな料理を前にお預けをくらった犬の気分だったぜ
飲食店を数軒回ったが、注文出来ないし、食べられない事にイライラして、街の人が話している事が頭に入ってこず、別の場所で情報収集するのに切り替えたほどだ。
あー、せめて死ぬ前にあの居酒屋の飯が食べれてたらな……
あの居酒屋とは死ぬ前に行こうとしていた店の事だ。
俺は一人暮らしで独身だったから自炊するのは休みの日くらいで、仕事帰りはだいたいどこかの飲食店に寄って帰っていたのだが、その中でもあの居酒屋は特にお気に入りの店だった。メニュー数がかなり多くて、そのどれを食べてもハズレがないのだ。ビール片手に食べたい物をその日の気分で食べられる、最高な店だった。
もう行けないと思うとかなり寂しいな
おっと、話が逸れたが、飲食店で情報収集があまり出来なかったので、他の所をあちこち回ってみたのだが、この世界にも冒険者ギルド、商業ギルド、薬師ギルド、錬金ギルド、鍛治ギルド、等と、沢山のギルドが存在するようだ。
主に仕事の斡旋は、それぞれのギルドに登録して依頼を貰うのが普通のようだ。
国の名前はサンマリア王国。ここはやはり王都でルトアナという首都だそうだ。国中から珍しい珍品やら高級品やら宝石やら、それから食べ物が集まり、年中活気があるようだ。
生活水準は中世ヨーロッパのような感じだった。ただ、魔法が存在する世界なだけあり魔法技術は発展している。
魔法技術とは、要は魔導具だ。
電話の代わりに、魔導通信装置というものがギルドには置いてあり、それで連絡を取りあったり、持ち主を登録しておけばその持ち主の所にメモを届けてくれる紙等という珍しいものがあった。
魔物を討伐する為の武器も、火が出たり、雷が出たりと、魔法が込められた武器などもあるようだ。銃のような物もあったが、鉛の玉を込めるのではなく魔力を玉のようにして飛ばすというもののようだった。
調理もコンロのような火の出る魔導具を使っていたり、冷蔵庫のような物もあった。さすがに電子レンジは無さそうだったがオーブンはあるようだ。
さらに嬉しいことにトイレは水洗だ。下水道施設も整っているようだ。その下水施設、なんでも賢者が研究して危険を取り除いたスライムが汚れた水を綺麗にして街中に張り巡らされている水路に流されるのだとか。確かに水路の水は綺麗そうだったが、まさか処理するのがスライムだなんて驚きだ。
上水道はある家と無い家があるようだ。城をはじめ貴族の家には繋がっているようだが、一般家庭では井戸の水で生活している人がほとんどのようだ。
だが明かりは魔導具のランタンを使っているのが普通なようで、ロウソクを使う人は稀なようだ。
魔導具の電源は電気ではなく魔力。その魔力は魔石と呼ばれる魔物の体内から見つかる石に入っている魔力を電池のように使っているようだ。
魔物には大きさやエネルギーの大小はあれど必ず魔石が心臓のそばにあるようだ。魔石が無いものは動物の部類に分けられるそうだ。
魔物を狩って生計を立てる人達の主な収入源の1つがこの魔石なのだそう。
魔石は小さい物でもなかなかいい値段で売れるそうだ。
魔石は魔導具のエネルギー源だけでなくその他にも色々な物に使われているようだ。
武器を作る為の金属に混ぜてあったり、魔法が付与されたアクセサリーに使われていたり、薬を作る材料に使われていたりもするらしい。
中世の時代のようであり、近代的な部分もあり、なんだかチグハグな印象を受ける。異世界であり魔法もある世界だからだろうか。なんだか不思議な感じだ。
やっぱ仕事するなら冒険者かな?レグルスが戦える能力もくれてるしな。けど、平和な日本でサラリーマンしてた俺が冒険者なんか出来るか?中学か高校の時に体育の授業で剣道と柔道はチョロっと習ったけど、実践できるほどじゃないしな……
薬師や錬金術師なんかの生産職もいいけど、身体が無い今は出来るか出来ないかを試してみることも出来ないんだよな……なんせ物に触れないからな。
とりあえず今できるのは魔法の練習くらいだから、魔法の練習でもして身体が届くのを待つしかないか。
あちこちの建物を見てまわり、情報収集をあらかた終えると、もう日が落ちかけの時間だった。
日が落ちる頃には外壁の外に出ていた者も帰ってくるようだ。門の前が入場待ちの人達でごった返している。
俺はワイワイと賑やかに騒ぎながら帰ってきた男4人組の冒険者に目が止まった。
今日の仕事も上手くいったと話しているので、何かの仕事を終えて帰ってきた所だろう。
今後冒険者をするかもしれない身としては、流れを確認しとくか!
俺はその4人の冒険者について行ってみることにした。
冒険者達はワイワイ騒ぎながら冒険者ギルドに入っていった。
依頼の受注が出来るのは確認していたが、報告もこちらでするようだ。
受付は、受注と報告の受付が一緒のようで、皆同じ場所に並んでいる。
数箇所受付はあるがみんな並ぶ場所が偏っているなと受付の人を見ると、綺麗な女性の受付の所には多くの人が並び、男性の受付の所にはあまり人が並んでないようだ。
どこの世界も男は男だな……と呆れていると、綺麗な受付嬢を依頼報告ついでに口説いている冒険者もいるようだ。
あれのせいで余計に時間がかかっているのかもしれないな。まぁあんな美人と話せる機会があるなら食事に誘いたくなるのもわかる気がするが。
報告の様子を見ると、受けた依頼の依頼書と一緒に冒険者カードだというプレートの着いたネックレスを受付に渡している。
そういえば冒険者カードでもあるネックレスに付いたプレートは魔物も食べたりしないことが多く、襲われて体が無くなっていてもプレートや武器は残っている事が多いとかって言ってたっけ。さすがの魔物も金属は消化できないんだろうな。
カード型だと無くしそうだしな、首から下げとけるなら無くす心配も少なそうだ。
依頼報告をすると、受付で確認され、報酬を受け取れるという仕組みのようだ。
日本の市役所、区役所のように特別な手続きとかで長々と時間を取られることはなさそうで安心だ。
先程の冒険者も報酬を受け取ったようでギルドを出ていく。
俺はそれについて行ってみることにした。
冒険者行きつけの居酒屋なんかがあるなら、身体を手に入れた暁にはぜひ行ってみたいと思ったからだ。