新人冒険者と異世界のソーセージ-3
街に着くと、腹減ったー!とすぐに晩御飯を食べに向かうようだ。
今日取ってきた塩は冒険者ギルドで買い取って貰うようだが、この時間は冒険者ギルドは混雑している。
外門は日が落ちる頃には閉まるのだが、ギルドの酒屋は朝まで開いているし、ギルドの受付もかなり遅くまで開いているらしく、ご飯を食べてから向かうようだ。
何を食べに行くのかと話を聞いているといつも行っている行きつけの店があるようだ。
量が多く、安いので、新人の冒険者に人気の店だそうだ。
「ちわっす!」
「いらっしゃいー!」
声をかけ入っていくと、元気な店員の女の子の声が返ってきた。
どこの店も店員は女の子ばかりだな……看板娘ってやつか?そんな事を考えながら、後を着いていく。
店の名前はソーセージの店『腸詰め屋』。
この店は外まで匂いが漂って来てはいなかったが、店内にはもう既に結構な数の客が入っており、賑やかだった。
店員に案内され席に着くと、メニューは伝えられず何人前かだけ聞かれた。
ここの店はメニューは1種類しかないようだ。
そんな話を聞きながら、俺はカレンと呼ばれていた女の子の体をかりた。
……よし、上手く入れたな!
店員が向こうへ行くと、今日の反省会が始まった。
あの時はこうした方が良かった、ああした方が良かったと今日の反省を言い合っている。
カレンはどう思った?と俺にも話を振られ、やべぇ……なんて答えようかと冷や汗を流していると、お待たせしましたー!と料理が届いた。
いいタイミング!
俺は先に食べようと提案し、2人は賛成してくれ、食べ始めた。
さてさて、うぉおおお!でっけぇー!
目の前に置かれたお盆の上には、黒いパン、大きな腸詰め、茹でたさつまいも、トマト、色の薄いスープが置かれていた。飲み物は薄めたワインだ。
こういう安い食堂で出されるソーセージは魔物の腸に詰められているそうだ。
羊や牛、豚の腸に詰められたソーセージと比べ、少し皮が固くてかなり太い。
その太さは屈強な冒険者の手首程はありそうだ。
小柄なこの体の持ち主の女の子で言うと二の腕くらいだろうか?
中の肉は色々な種類の肉の切れ端を混ぜてタタキ詰められているそうだ。
熱々だと知らしめるように湯気がいい匂いと共に立ち上る。
その匂いをすうーっと吸い込むと、鼻腔をスパイスの匂いが刺激する。
はぁ、たまらん……
では早速と、いただきます!と、大きな大きなソーセージを1口。
ソーセージに歯を立てると、パリッと皮の弾けるいい音が響き、肉汁が弾け飛んだ。
齧った断面からも肉汁が溢れ、皿に流れ出しキラキラと輝いている。
口の中では、口いっぱいにソーセージの肉の旨み、甘い脂、塩味やスパイスの香りが広がって、舌を包み込んでいる。
それを噛めば噛むほど色々な肉の味が合わさり、さらに旨みが高みへ押し上げられる様だ。いくつもの種類の肉が合わさることで、肉の旨みが強い!
「ん〜!!!うっまぁぁぁぁぁい!!!」
大きな声で言ったその言葉に、男の子2人は目を丸くして俺を見ている。
いや、俺をというより女の子をだな。
いつも物静かで大きな声を出す事など無いようだ。
聞いたこともないような大声に、2人はどうしたんだ?大丈夫か?と心配してくれている。
いや、セリフ聞いてたか?と、若干呆れ顔になるが、美味しくてつい……とお上品に言っておいた。
値段の割には、しっかりスパイスも効いていて、肉汁も溢れるとても美味しいソーセージだ。
皮は確かに多少固めだが、固いと言っても薄いので大して気になるほどではなかった。
付け合せについていたトマトも新鮮で美味い!酸味と甘みが絶妙だ。
コッテリジューシーなソーセージを食べた後にトマトを齧ると、脂っぽくなっていた口内がサッパリとリセットされ、また1口目のソーセージの美味さが感じられる。いい付け合せだ。
拳2個分程もある大きなさつまいもは、中はホクホクとしているが、甘くは無い。
味はじゃがいもに近いような味だった。
素材のままでは物足りなくて、今日ドロップしたハーブソルトをかけてみると、激うまに変わった。
うんうん、最高だ!
バターも一緒に乗せたいが、今日の体の持ち主には連れがいる。
そんな物どこに持っていたんだ?と言われたら大変だ。
「お、カレン、それ美味そうだな!」
「俺もかけてみようかな!」
俺がハーブソルトをかけていることに気づいた2人は、塩を取り出してかけようとしているので、ちょっと待ってと、静止し、ハーブソルトを渡した。
なんか違うのか?と不思議そうにしている2人の芋にハーブソルトをかけると、どうぞと、食べるように促す。
「うっまっ!!!?」
「何だこれ!うめぇ!!」
今かけたのは、ローズマリーが塩にミックスされたハーブソルトだ。
ローズマリーはスーッとした清涼感にふんわりとした甘みのある香りのハーブで、芋との相性も抜群だ。
コッテリしたソーセージを食べて重たい芋……よりは、少しスーッとした清涼感を加えることで食べやすくなる。
どうやら2人も気に入ってくれたようだ。
芋はあんまり好きじゃなかったけど、これをかけると美味い!とバクバクと食べている。
そうだろ!そうだろ!
さて、問題は、この味の薄いスープと硬いパンだ。
1口食べたがあまり食べる気にならない……
ソーセージがめちゃくちゃ美味いだけに残念だ。どうしようか……
チラッと厨房の方を見ると、今はあまり忙しく無さそうだ。
よし!
俺はお盆を持って厨房に向かって歩いて行った。
「嬢ちゃん、どうかしたか?」
厨房にいたガタイの良いおじさんが話しかけてきた。
俺は、ちょっと頼みがあるのだと話しかけた。
パンが固くて食べられないのと、スープが薄味であまり食欲がそそられないのだと話すと、おじさんは困った顔をしていた。
ソーセージを作るのは得意だが、スープは苦手なのだとか。
さらにパンはパン屋が作っている物がこれしかないそうでどうしようもないと言っていた。
そこで、少しアレンジさせて貰えませんか?と相談してみる。
おじさんは少し驚いた顔をしていたが、何かいい方法があるなら見てみたいと了承してくれた。
厨房を覗くと、大きな鍋も、小さな鍋も鉄板もある。
トマトはまだ沢山あるのか尋ねると、大きな木箱いっぱいにあるそうだ。
それならと、大人から子供まで大好きなアレを作ってもらうことにした。
まずはトマトの湯むきから。お湯を沸かし、お湯が沸くまでにトマトの上に十字の切れ込みを入れ、ヘタを取っておいて貰う。
おお!この店ボウルもある!と、ボウルに水を入れ、そこに氷をガラガラと魔法で出して入れていく。
お湯が沸いたら、切れ目を入れたトマトをお湯の中へ。10秒ほどで取り出し、氷水の中へ。
すると、あら不思議。トマトの皮がつるんっと綺麗に剥けるのだ。
次にミキサー……は無いので、トマト、玉ねぎ、ニンニクを細かく切って潰しながら火にかける。
玉ねぎもニンニクも蕩けて来たら、それを網で漉して、塩、胡椒、酢の代わりにワインビネガー、砂糖、市場で見つけたローリエの葉を入れて、トロッとするまで煮詰めていけば、みんな大好き『ケチャップ』の出来上がりだ!
では、次は硬いパンを上下にスライスしてもらい、鉄板にタップリのバターを乗せ、溶けてきたら切った面を下にして鉄板に乗せる。パンの周りに水をかけるとジュワーといい音を響かせて水蒸気が上がる。それをステーキカバーと呼ばれる蓋で閉じ込めておく。
焼けるのを待っている間に、茹でて添えられていた甘くないさつまいもを皮を剥きマッシュしハーブソルトで味付けする。
大きなソーセージは好きな厚さに、厚めにスライスして、これも鉄板で断面を焼いて貰う。
ステーキカバーの下から、チリチリとパンの正面が焼けるいい音がしてきた。
蓋を外してもらうと、香ばしい香りと、バターのいい香りが辺り一面に広がった。
わぁ、最っ高っ!
パンは周りにかけた水が水蒸気になり、その水蒸気を吸ってフワッと柔らかくなっている。さらに焼いた面はカリカリだ。
焼き面を見せてもらうとキツネ色に焼けていて美味しそう、いい感じだ。
よし!それじゃぁ、材料を合体だ!!
そのしっかり焼けた面に追いバターを塗ってもらい、先程作ったケチャップをたっぷり塗る。
ケチャップを塗ったパンの上に厚めにスライスして両面香ばしく焼き上げたソーセージを乗せ、サッと次元収納から取り出したチーズを薄くスライスして乗せて、マッシュしハーブソルトで味をつけたさつまいもを乗せてパンの片割れで蓋をしたら『ハンバーガー』の完成だ。
うへぇ!うっまそぉぉぉぉぉ!!!
あ〜この匂い、最高だわ!!!
早くくれと手を伸ばすが、おっさんがヨダレを垂らしながらハンバーガーにかぶりついた。
「う、うっめぇぇぇぇぇぇええええ!!!何だこれは!美味い!美味すぎる!!同じ材料で作ったとは思えん美味さだ!!」と大きな声を張り上げ驚いている。
「なぁーーー?!ちょ、おいーー!!!」
と、横取りされた俺は怒り顔だ。
「ハッ!!……す、すまん……」
「スマンじゃねぇよ、この責任どうとるつもりだ?」
「あ、あはは……ど、どうしましょうか……」おじさんは気まずそうな顔で、敬語になっていた。
おじさんはお詫びにと、店でこのメニューを出せて貰えるなら、俺たちのパーティ、つまりこの女の子とあの男の子2人はいつ来ても無料で飯を食べさせてくれる事を約束してくれた。
まぁ、それならいいか……
それで納得した俺は、早く俺の分も作ってくれと、おじさんを急かすのだった。
俺の分と、仲間の男の子の分も完成すると、早速いただきますとかぶりつく。
カッチカチに硬かったパンは表面はしっかりした歯ごたえを残しつつも中はフワッと柔らかくなっており歯切れよく歯が難なく突き刺さっていく。芋も肉も熱で蕩けたチーズも大口を開けて一気に口の中へ。
齧っただけで、もう美味い。それを咀嚼すると、肉とチーズと芋をケチャップとバターが優しく包み込み、調和させていく。
それをパンが味が濃くなりすぎないように調整しつつ、小麦のいい香りを足していく。
「うっまぁぁぁぁぁぁああい!!!」
これは有り合わせで作ったが、大成功だな!
満足気に食べている横で、男の子2人も、「うっめぇぇ!何だこれ!めっちゃうめぇ!!」「うん、めちゃくちゃ美味い!こんな美味いもの初めて食べた!」と大絶賛だ。
よかったよかった!
満足そうに2人の様子を眺めていると、おじさんから、スープの方も何とかなるのか?と声をかけられた。
ああ!すっかり忘れてたわ!
店でも出すのかと尋ねると、俺がいいならそうしたいそうだ。
俺は料理人じゃないんだけどな……と思いつつも、あの味のうっすい不味いスープよりはマシにできるだろうと思い、どうしようかと考える。
店で出すなら、あんまり材料が増えるのは良くないよな……材料が増えたらコストもかかるし……と、厨房内を見回していく。
そういえば、ソーセージはボイルするよな?
おじさんに尋ねてみると、ボイルして、表面を軽く焼いて提供しているようだ。
ボイルしたゆで汁はどうしてるのかと尋ねると全て捨てているようだ。
ならそれを使おう!
ソーセージをいっぱい茹でたゆで汁から、アクを綺麗に取り除き、具は元々入っていなかったのだが、コストが大丈夫ならトマト、玉ねぎ、キャベツ、人参等がオススメだと伝え、ケチャップとダンジョンでゲットしたガーリックソルトで味をつけて、なんちゃってミネストローネの完成だ。
本来のミネストローネはもっと具材も色々入っているので、野菜から出た甘みがプラスされてもっと美味いが、材料がないから仕方ないよな!ソーセージからいい出汁が出てたから多少はコンソメの代わりになってるだろ!まぁ、味見してもらったら美味い美味いと凄い勢いで飲んでいるので、大丈夫そうだな!ハハハッ
俺も飲んでみたが、美味いソーセージを茹で、ソーセージの出汁が染み出した汁がかなり美味い。ソーセージに使われている肉やスパイスも溶けだしているようだ。なので、ガーリックソルトだけでも美味そうだったが、ケチャップが目の前にあったから入れてみたんだが、めっちゃいい感じだ!
そんな事をしていると、カウンターに客の頭が並んでいる。
おお?!ビックリしたァ……
どうやら匂いに釣られて、厨房の中が気になり覗き込んで見ていたようだ。
おじさんも驚きながら、どうしたんだ?と尋ねると、俺もそれが食べたいと、口を揃えてハンバーガーを食べさせろと大合唱だ。
おじさんはとりあえず今日は同じ値段で提供する事にしたようで、少し待ってろ!すぐ作ってやるからな!と元気よく答えていた。
俺も女の子の分のハンバーガーを1つ貰うと、席に戻り、体を女の子に返して、休む場所を探して街中に消えていくのだった。




