商業ギルドと異世界のシチュー -3
店主はじゃがいもの事を知っていたようで、かなり驚かれた。
そして、腹が痛くなるかもしれない事も伝えられた。
「それなら大丈夫ですよ」
俺は笑顔で返すと、じゃがいもの芽や緑になった部分を食べなければ大丈夫なことを説明した。
その説明に店主は驚いていたが、すぐに分かったよ!とじゃがいもを調理してくれることになった。
茹で上がるまでには少し時間がかかる。
ついでとばかりに、俺は硬くて食べれなかったパンも調理し直していいかと店主に尋ねた。
この世界では、パンが主食だ。王族や貴族でもなければ、この黒く硬いパンを食べるのが一般的なようで食べられない人などいないのだとか。
店主は、まさか……?!と驚いた顔をしていたが、俺は王族でもなければ貴族でもない普通の硬いパンが苦手なだけの一般人なことを懇切丁寧に説明した。
食べられるようにする方法があるならと、厨房の使用許可が貰えたので、少しシチューももらって、まずはホワイトシチューを作り始めた。
まずはフライパンにバターを入れ熱で溶かし、そこへ小麦粉を入れる。小麦粉とバターが上手く合わさりモッタリとなったら、そこへ牛乳を少しずつ加え混ぜ合わせていく。上手く合わさったら塩と胡椒をパラりと入れて、そのままでもかなり美味かったホーンラビットのシチューとドッキングだ!
ルンルンした様子で調理していると、ギョッとした顔で店主がこちらを見ていた。
びっ、ビックリしたぁ……
「え?!ど、どうか、しましたか?」
「それは一体何をしているの?」
どうやらこの世界にもミルクの入ったシチューはあるようなのだが、調理方法が違うようであまり美味しくないのだそうだ。
それを小麦粉を炒めるなんて見たこともない調理方法を取っているので、怪訝な顔をされたのだ。
んー……味見して貰う方が早いか……?
ホーンラビットのシチューとドッキングして完成したクリームシチューを味見しますか?と差し出すと、顔を顰めた後、恐る恐るといった様子で口に入れた店主。
クリームシチューを口に入れると、カッと目を見開き驚いた顔で叫んだ。
「な?!お、美味しいぃぃぃ!!!美味しいわ!!なんて美味しさなの??!ミルクの、ミルクのスープが?!こんなに美味しいなんて、信じられないわ!!」
うんうん、そうでしょ!そうでしょ!クリームシチューは嫌いな人はいないほど人気のシチューだからな!
店主の反応に満足気に頷いていると、店員の女の子も味見したいと言うので味見分を少し分けてあげた。
店員の女の子も驚愕と恍惚とした表情が入り交じった顔で美味しい!美味しい!と叫んでいた。
ふっふっふ!そうだろ!そうだろ!だが、これで終わりじゃないんだよな!!
俺は硬くて食べられず残っていたパンをシチューのスープに浸して柔らかくしていたのだ。
それを皿に移すと、その上にクリームシチューをたっぷりとかけ、その上にチーズを散らした。
それを見て、店主も店員もまた驚いた顔をしている。
オーブンを借りて、チーズが蕩け、表面に焼き色がつくくらい焼いて完成だ。
その頃には、茹でてくれていたじゃがいもも、茹で上がったようだ。
じゃがいもにもクリームシチューをたっぷりかけて、チーズを散らし、オーブンへ入れた。
さて、食べてみますかね!……って、おい!!
じゃがいもにクリームシチューとチーズをかけてをオーブンへ入れている間に、俺のパングラタンは勝手に試食されていた。
そして、美味しい!なんて美味しいの……と恍惚とした表情で天を仰いでいる2人……
まぁいいけどさ、全部食い尽くされてはないみたいだし……
よし、俺も……と、パクリと熱々のパングラタンを頬張ると……
「うっめぇぇぇぇええ!」
あぁ、最っ高だぁぁ!
美味いシチューの汁を吸って柔らかくなったパン、それをクリームシチューが包み込んで歯も要らない程トロットロに仕上がっている。
そこに香ばしい焼き目のついたチーズが合わさり、最高だ。
元があの硬ったいパンだとは思えない美味さだな!
クリームシチューも最高の出来だ!シチュー自体が美味かったからな、余計だろうが、バターの風味と小麦粉のとろみ、牛乳の優しい味が加わりさらに美味く仕上がっているな!
おっと!そろそろ次のも焼けるかな?
オーブンを覗くと、先程入れたじゃがいものグラタンもチーズに美味そうな焼き目がついていた。
おお!いい感じだ!
さてさて……と食べようとしていると、すごい視線を感じる。
「えっと……食べ、ますか?」
「食べます!!!」
それは、店主と店員の女の子からの視線だった。
ヨダレを垂らしそうな顔で、期待の籠った目を向けられていたので、食べるかと聞くしか無かったのだ。
まぁいい、全部食われることは無いだろう。
熱いから気をつけてと、皿に取り分け渡すと、ふぅーふぅーと息をかけて冷ましながらも、待ちきれなさそうな顔でじゃがいもグラタンを見ている。
じゃがいもは塩コショウとマヨネーズかけてチーズかけてオーブンで焼くだけでも美味いんだけどな!
今日はマヨネーズは無いし、シチューがあったから、シチューをかけたんだけど仕上がりはどうかな?
大きな口を開けて食べようとした時だった。
「おいっしいぃぃぃぃぃ!!!!!」
うぉっ?!
び、ビックリしたァ!!2人がでかい声で叫ぶからじゃがいもグラタンを落としそうになったぜ。ドキドキ……
だが、そうだろ!そうだろ!クリームシチューにじゃがいもが合わないわけが無いからな!!
2人が幸せそうにじゃがいもグラタンを頬張るのを見ながら、俺もパクッと1口。
うんうん!コレコレ!やっぱクリームシチューにはホックホクのじゃがいもは外せないよな!
かろうじて形を維持していたじゃがいもは噛めば力をかけなくともふにゃりと形を潰し、ほくほくとした食感とじゃがいもの風味を口いっぱいに溢れさせる。
それが美味いクリームシチューと合わさり、噛む毎に、見事なまでに調和されていく。
これよ!これこれ、これが食べたかったんだよ!
はぁ、美味いなぁ……
冬には体も温まり最高のクリームシチューだが、夏に食べても美味い!
ふと気がつくと、まだ残っていた客が、店主と店員の叫び声を聞いて厨房を覗いている。
その顔は、一体何を食べているんだと不思議そうな顔ではあるが、美味いものなのは間違いないと、ヨダレを垂れそうでもある。
俺は店主に頼まれて、今いる客にもクリームシチューを作ることになるのだった。
店主にもクリームシチューの作り方を教え終わると、今日食べた分は店主の奢りで、更に酒を冷やしたバイト代までくれるというでは無いか!なんと太っ腹な!
それならばと、追加でシチュー2種類とクリームシチューを頼み、エールも冷やしてテーブルに置くと、支払いは済ませて、席につき、男に体を返した。要は、体から抜け出しただけだ。
この男も食べたそうにしてたからな!
腹はだいぶいっぱいだったがまだまだ食べられるだろう!
男はハッと気がつくと、店主や店員に囲まれ、お礼を言われている状況に困惑気味だ。
さらに目の前には美味そうなシチューが並び、キンキンに冷えたエールまで、それを見てゴクリと喉を鳴らし、誘惑に負け、美味い!美味い!とパクパクとシチューとエールを堪能するのだった。
その後、この店ではクリームシチューやパングラタン、じゃがいもグラタンを店で出すなり、客が詰めかける大人気店になり、じゃがいもの安全な食べ方を店主がみんなに伝え、知られるとあちこちで食べられるようになるのだが、それは航平はまだ知らない、未来のお話。




