1、異世界の神と異世界アルナイル
読みに来て下さりありがとうございます!
「飯盛航平さぁぁぁん……本っ当に申し訳ありませんでしたあぁぁぁぁ!!」
「えっと……誰?」
俺は飯盛航平、34歳のしがないサラリーマンだ。
ハッと気がつくと雲の上?のような場所に立っていた。
って……え?雲の上って立てるわけないよな?でも……ふわっと柔らかく何処までも続く、雲が敷き詰められたような場所に立っていた……
俺……何してたんだ……?あ、そうそう、会社からの帰り道、飯でも食って帰ろうと居酒屋の扉を開こうとした時に、急に閃光弾かと見紛うような凄い光に包まれて……
それで……ここは何処だ?そう思いながら周りを見回そうとした時だった。
あの銀髪ロン毛のお兄さん?に初対面でいきなり土下座をされたのだ。中性的な美しい顔立ちの……たぶん、男性だ。こんな人、1度見たら絶対忘れないだろうと思うほど整った顔立ち、スラッと伸びた手足、宝石のような青い瞳、光を受けてキラキラとシルバーに光る髪、白く幻想的に見える衣装を纏っている。
いや、謝られている意味がわからないんだが?
しかもあんた誰よ?
あまりの驚きに、ポカンとなっていると、銀髪ロン毛のお兄さんが今の状況を説明をしてくれた。
この銀髪ロン毛のお兄さんは地球とは違う星を管理する神様だそうだ。
神様の名前はレグルス。
レグルスが管理をする星は、個人の能力はステータスで管理されレベルやスキルがあり、魔法があり、魔物も存在するような地球の言葉で言うとファンタジーな世界なのだそう。
星の名前はアルナイル。アルナイルは星全体が魔法の力の元である魔素が充満しているらしい。
魔素は消費されても時間が経てば消費された分増えるのだが、魔物やダンジョンが急に増えると魔素の消費量が急激に増えてしまい星のバランスが悪くなるので、魔素を使っていない地球から定期的に分けてもらっていたらしい。
なるほど……
「それで?」
「…………した……」
「……え?何て?」
「し、し、失敗しましたぁぁぁ!本っ当に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
「……は?」
なんと魔素を地球から、アルナイルに送るために星同士を魔法のパイプで繋ぎ魔素をパイプを使って吸引していた時に失敗して俺を一緒に吸い込んだんだそうだ……
いや、どんな巻き込み方よ……掃除機か!
急に眩しくなったのは、パイプに吸い込まれたからのようだ。魔素は大気中にあるくらいだと目に見えたりはしないが、圧縮していくと光って見えるそうだ。
それで俺はパイプで吸い込まれ、高濃度になっていた魔素の中にダイブし、高濃度の魔素のせいで中毒を起こし死んだらしい。
アルナイルに住む人なら高濃度の魔素の中に入っても平気なのだそうだが、地球の人はその魔素を人体に無害な物へ分解する力を持っていないからとか、なんとかかんとか説明をされた。
それにしても、死んだって実感は全くないけどな……
今は身体はなく魂の状態らしい。
……見た感じはスーツも着ているし、人型なんだけどな?言われてみたら確かに輪郭がボヤっとしてるかもしれないな?
「それで?俺はどうなるんですか?地球に戻れるんですか?」
なんだか異世界転生ものの小説の内容のようだ。よくある設定ではあるが、まさか自分が実体験する事になるなんて思わなかったな……
小説みたいなお決まりパターンだと……
「それなのですが、地球にお返しする事が難しくてですね……」
レグルスは半泣き顔で、申し訳なさそうにモジモジとしながら話してくる。
あー、やっぱり地球には戻れないパターンか……はぁ、今の仕事はやり甲斐あって割と気に入ってたんだけどな……それに、友達や家族にももっと会っとけば良かったな……
戻れないってなると結構アレやっときゃ良かったって事を思いつくもんなんだな。でも、地球での生活は悪くなかったと思う。
「じゃぁ、もしかして……転生……とか、させてくれるんですか?」
「おお!なんと話の早い!」
レグルスは、ぱぁっと顔を綻ばせた。
あー、そういうのやっぱあんのね、もしかしてファンタジー小説の設定は誰かの実体験からきてんのか?と余計なことを考えつつも、なんだかこの神がポンコツ過ぎて怒りより呆れの方が勝っている。
死んだのも、地球に戻れないのも、文句を言っても仕方ないみたいだし、はぁ〜、しゃぁないな、腹括るか!
「元々魔法も使われていない星から来ていただくので、私の管理する星で生きやすいようにはさせてもらいます」
「おお、ありがとうございます!」
「何かご希望はございますか?」
「そうですね───」
魔法がある星と言われても、どのような魔法があるのか分からないので、とりあえず思いつく限りの魔法や身体能力の希望を伝えてみた。
「なるほどなるほど……」
「できるんですか!?」
「こちら全て、というのは少々難しく、可能な限りでよろしいでしょうか?こちらがご迷惑をおかけした手前、出来れば全て詰め込みたいところなのですが……」
「はい、出来るだけで大丈夫です」
思いつくだけの事を伝えたので、やはり全部は無理なようだ。
地球の食べ物や道具を輸入するような能力も希望してみたが、それはさすがに出来ないようだ。
「ありがとうございます!ではまずはスキルや能力を魂に刻み、その後、身体を生成していきますね」
「はい」
銀髪ロン毛のお兄さん、もといレグルスが俺に触れスキルや能力をくれ、軽く使い方の説明をしてくれた。今度は身体を作ろうとした時だった。
急に空が真っ暗になり雷光がその真っ暗になった空を走り、雷鳴が響き渡った。
「ヒィ……こ、これは……」
その空を見てレグルスが真っ青な顔でガタガタ震え出した。
「え、なんだ?!」と、辺りの様子とレグルスの異常な怯え様に何事だ?と辺りを見回していると……
そのバチバチと光る雷光の下から現れたのは、黒髪ロングヘアーの鬼ババァ……ではなく、かなり怒り狂った女性のようだ。
こういうのを鬼の形相と言うのだろうか……?整った顔が台無しだ。
その女性は地球を管理する神様の内の1柱、アマテラス様だそうだ。
なんか神話で聞いた事ある名前なんですけど……と驚いていると、俺にレグルスの所業を謝罪したあと、レグルスへの説教が始まった。俺はどうやらアマテラス様が管轄する場所で生活していたようだ。魔素を持っていくのは問題ないが、まさか人を巻き込むなんてとかなりお怒りの様子だ。巻き込まれて死んでしまった俺自身よりも怒っている。以前にも人を巻き込みそうになったことがあったらしく、その時に魔素の吸引には細心の注意を払う様にとレグルスの耳にタコができるほど口酸っぱく言ったにもかかわらず、今回は完全に巻き込んでしまい、俺が死んでしまったので怒りが収まらないようだ。
俺にはとても優しい笑顔で話しかけてくれたが、レグルスに対しては……オニバb、いや、同じ人物とは思えないような形相だ。
アマテラス様にも1度死んだ人を生き返らすのは無理だそうだ。
また赤ちゃんから地球でやり直すか、レグルスの管理する星に身体を構築してもらい行くかの2択になるそうだ。
それならチートも貰えるみたいだし、レグルスの管理する星に行ってみますと伝えると、見惚れるほどの笑顔で了承してくれた。本当に綺麗だったな……今とは違い……今は、また鬼の形相で、説教中だ。レグルスは正座をさせられ縮こまって泣きべそをかきながら、話を聞いている。
それを呆然と眺めていると、地球の神、アマテラス様がグチグチと言いながら後ろを向いた隙に、レグルスが俺に話しかけてきた。
「アマテラス様の話はとっても、とーっても長いのです。一度お説教が始まると終わるまで数年かかった時もありました」
「は?!数年??」
人と神とでは時間の感覚が違うらしい。レグルスがアマテラス様に怒られるのは初めてではないが以前の比では無い程怒っているらしく、人の世界の数年に及ぶ時間説教されていたこともあるらしい……そして、今回も長くなりそうだとの事だ。
何やってんだよこの神……ポンコツか?
そして、長い長い説教をされている間、こちらで待って頂くのは忍びないので、先に星に行っていてくださいと言うでは無いか。
「え?身体は?」
「身体は出来上がり次第すぐに届けます」
「え、でも……」
「大丈夫です、航平が何処にいても私にはすぐに分かりますので」
「いや、そういう問題じゃない……」
身体が出来てからでいいと言おうとした時だった。
後ろを向いていた地球の神、アマテラス様がこちらを向いた。
コソコソ話しているのが見つかり、「聞いておったのか?」と目が更に釣り上がり、レグルスがさらにガミガミと怒られ具合がヒートアップしている。
これは確かに長くなりそうだ。そう思いながら苦笑いで見ていると、フッと足元の雲に穴が開き、俺は下に落下して行った。
「は?!……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「航平、数年以内には必ず身体をお届けしますので星の探索でもしていてください。あ、霊体ですので、魔物に襲われる心配はありませんので安心してくださいねー!!」
落下しながら頭の中にレグルスの声が響いた。
「は?いや、ちょっと待てぇぇ!安心できるかぁぁぁぁ!」
やばいやばいやばい!
落下の勢い、止まんねぇ!
霊体ってなんだ!飛べねぇのか?
地面にぶつかって死ぬとか……ひえぇぇ痛そう、そんなの嫌だぞ!
あ……いや、もう死んでんのか?……これ以上死ぬとか、あるのか?
そんな事を考えている間にも、地面はどんどん近づいて来る。
あぁ、どうしたら……ん?
お!アレが街か?
落下しながらも何とかしなければと辺りを見回していると、森ばかりが広がる一角に街らしきものがあるのが見て取れた。
へぇ!なかなか大きい街みたいだな……
って、のんびり見てる場合じゃなかったぁぁぁ!
泳いでみるか?
走ってみるか?
身体をバタバタと動かしてみるが、落下の勢いは止まらない。
くっそぉぉぉぉ、落下の勢い、全然止まんねぇぇぇ!
あぁ……もうダメだ……
ギュッと衝撃に備えて目を閉じた時だった。
ブワッと身体に感じていた風も、浮遊感も無くなり、落下している感じが止まった。
そぉーっと目を開けてみると、目の前に地面がある。
「うぉ?」
顔を上げると、森の中のようで、周りには木が沢山生えていた。
どうやら地面スレスレで落下が止まり、激突する事は無かったようだ。
「はぁ……助かった……」焦ったぜ……
にしても、魔物も食べれるって言うから、レグルスにチート能力を貰って、異世界で美味いもんを食い尽くすグルメ旅でもしようかと思っていたのに、俺の予定が全てパァだ……どうすんだよ、体も無しで……はぁ……
いつまでも座っていても仕方ないので、ふぅと息を吐き、そっと起き上がってみると、歩くことも出来るが、空中に浮く事もできるようだ。
おお!やべぇ、飛べるじゃん!……空中に浮くのって変な感じだな……
ふわふわと漂いつつ近くの木に近づいていき、そっと木に触ろうとするが、触ろうとした木を手がすり抜けてしまった。
地面にしか触れないのか?と地面に触れようとするがそれもすり抜けた。
どういう仕組みだ?
立っている所をよくよく見ると若干浮いているようだ。
あー、なるほど……
何故かは分からないが、地面から数センチ浮いた場所を歩けるようで、物には触れないようだ。
なるほど……
長かったら数年このままみたいな事言ってたし、とりあえず何が出来るかの検証でもするかな……はぁ……
なんかテレビで見た無重力空間が、こんな感じでふわふわ歩けてたな……
いや、あれよりは下に落ちるな?低重力って感じか……?
俺は落ちて来る時に空から見えた街がある方へふわふわと歩きながら、レグルスに頼んだ能力が使えるのかの検証をすることにした。
確か、街があった方向はこっちだったな……?
ふわふわと歩きながら、まずはステータスが見れると言っていたので、そちらを確認する。
ステータスが見られれば、何ができるのかも一目瞭然だろう。
「ステータスオープン」
レグルスに教えられていた、ゲームなどで定番のセリフを言うと、フッと目の前にA4程のサイズのガラス板のような物が現れた。
そのガラス板みたいな物には、名前やレベル、年齢や種族等、がズラリと書かれているようだ。
どれどれ……?
俺はそのステータスを順に見ていくが、名前は飯盛航平、レベルは1と表記されているが、年齢も種族も、その下の体力や魔力なんかの項目も全て不明となっている。
え……身体がないからか?まぁいいか……
さらにその下に目をやると、スキルの項目があった。
おっ、コレコレ!
スキルはアルナイル言語理解に始まり、各種魔法適正、各種生産スキル適正等と色々なスキル名が並んでいるようだ。
おお!ちょっとポンコツかと不安だったが、ちゃんと色々付けてくれてんじゃん!
ただ、身体強化系のスキルや生産系のスキルも1部は文字の色が薄くなっており、その下に状態異常:霊体 と書かれていた。
つまり……
身体が無いと身体能力系のスキルは使えねぇって事か!
……まぁ、そりゃそうだろうな、強化する身体が無いし、物も持てないもんな……
仕方ないなと気を取り直して、魔法の方を試してみることにした。
すげぇ!さすがスキル!使おうと思った物の使い方が分かる、まるで元から使えたかのようだな……
地球では存在しなかった魔法に心躍らせ、順に魔法を試して見るものの……
なんだよコレ……基礎的な魔法しか使えねぇじゃん!
魔法は基礎の魔法を練習して使いこなせるようにならないと威力の強い魔法が使えるようにはならないようだ。
どんな魔法も使えるようになる適正だけはあるみたいだけど……最初から威力の強い魔法が使えるようにしといてくれてもいいじゃねぇか!
心の中で悪態をつきながらも、魔法を試して見ていると、威力は弱いがイメージ次第で色々な事が出来そうだ。練習がてら適当に魔法をあちこちに放っていると、音に反応したのか生き物が寄ってきたようだ。
茂みがガサガサッと揺れ、現れたのは肌が緑色の人型。
ファンタジー小説では定番のゴブリンだ。
「うお?!マジか……ゴブリンなんかが本当に存在する星があったんだな……」
茂みから現れたゴブリンを見ていると、ゴブリンはこちらを凝視している。
……え、まさか俺の事見えてんのか?
ゴブリンの動きを観察していると、ゴブリンはギャッギャと汚い声を発しながら俺の方へ走ってきた。
え?!え?!嘘だろ?!ヤバっ……
咄嗟のことに反応しきれなかった俺は、頭を手で覆い、ギュッと目を閉じた。
その瞬間、バシャーンッと音が響いた。
…………ん?
……あれ?
すぐに、ぶつかる衝撃が来ると思って構えていたが、待てども待てども何ともない。
そろーっと目を開けてみると、ゴブリンは俺の腹に顔面が突き刺さっている。
……はあ?!
その光景に驚き、数歩下がり、自分の腹を確認してみるが何ともない。
……はぁ、ビビったァ……
ゴブリンは俺が魔法のテストで出していた水球に向かって突っ込んで来たようだ。
その衝撃で水球が割れた音が響いたようだが、そういや俺は霊体だったわ!
魔物に襲われる心配はないってこういうことか!
そりゃ触れねぇなら襲われることもないわな!
被害が無かったことに安堵し、改めて地面に落ちた水球の水を木の棒でつついているゴブリンを見る。
爬虫類のような目、大きな鼻、大きな口にはギザギザの歯が生えており、耳も大きく先が尖っている。
身長は俺の胸下くらいなので1m無いくらいだろうか、ぽっこり出た腹、浮き上がったあばら骨、細い手足、緑の肌……
改めて観察するが不思議な生き物だ。地球には存在しなかった。
これが魔物だろうか?
地球のファンタジー小説では魔物の部類になっていたが、アルナイルでも魔物だとは限らない。
魔法の実験台になってもらおうかと少し考えもしたが、もし討伐していい対象でなかった場合大変だ。
その辺の事もレグルスが教えてくれて送り出してくれるハズだったのだが、身体も貰える前に落っことされたから聞けなかったのだ。
仕方ないので、そのへんも街で調べてからにしようと、また突っ込んでこられても大変なので魔法のテストは中断して街に急ぐのだった。