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7.Bランクと異世界人

 エルマと恋人になってから数ヶ月、俺たちは冒険者としても恋人としても順調だ。

 今日も依頼を終えてギルドへ足を向けたところだ。


「合計で130万エリスです。全額預金でよろしいですか?


「はい。お願いします」


「あ、それからお二人に朗報があります」


 俺たちにギルドカードを返却した受付嬢が満面の笑みを受けべる。


「おめでとうございます。今日からお二人はBランクの冒険者パーティですよ」


 受付嬢の言葉にテンションが上がる。狙っていたとは言えこんなにも早くランクが上がるとは思ってもいなかった。少なくとも一年はかかると思って活動を続けていたので嬉しい。


 冒険者のランクは前世でよく読んでいた小説に出てくるような、ランクアップに必要な依頼数や依頼ポイントを貯めてランクアップ試験に合格し、晴れてランクアップというような分かりやすいものではない。この世界の冒険者は同ランクの魔物に、パーティ単位で勝てるだけの実力がなければならない。そして、当たり前のことだが、冒険者ギルドはできるだけ死人が出ないようにしなければならない。そのため、ランクアップ試験のようなものは存在しない。ランクはギルドがそのパーティが上位のランクでも問題なくやっていけると判断された時にのみ上がるのだ。


 まあ、何はともあれ、俺たちはBランクに上がった。Bランクといえば冒険者全体で見ても上位の存在だ。リデルクでは最高ランクになる。


「ありがとうございます。これからも頑張っていきます」


 俺は、できるだけ冷静に返す。

 今日はいい物を買っていつもより豪華な食事にしよう。高いお酒を飲むのもいいかもしれない。

 浮かれた気持ちを隠しながら冒険者ギルドを後にした。ちらりとエルマを見ると、相変わらず無表情に見えるが僅かに口角が上がっていることを俺は見逃さなかった。


 「紅牛クリムゾンカウ」のステーキは最高に美味かった。


 ランクアップから3日後、俺たちはBランクになってから初めて冒険者ギルドを訪れた。本当は昨日来る予定だったが、エルマに足腰立たなくされてしまったので一日予定をずらすことになった。あの日のエルマは激しかった。思い出すと今でも疼きそうになる。ダメだ。変な癖がつきかけている。


 冒険者ギルドはいつもと変わらない賑わいを見せていた。それは、俺たちが入った後も変わらず続いている。


「アンナさん、わたし達ダンジョン都市に行こうと思っているんです。今日はその報告と、何か近くの街まで依頼でもあれば紹介してもらいたくて」


「そうなんですね。分かりました。それでは、帰ってきたときには報告してください。それで、依頼ですか。申し訳ありません、今のところご希望の依頼はありません」


「そうですか。ありがとうございました。それじゃ、行ってきます」


「はい、頑張ってください」


 移動には魔動四輪を使う。移動だけなので二輪でも問題ないが、駐車場代の関係で四輪の方が都合がいいからだ。


 魔動四輪を走らせること3時間、エルマの運転で順調に進んでいたところに人影が現れた。四輪にも二輪にも乗らず徒歩での移動は珍しいので嫌なほどに視界に入った。


 エルマは人影に気にすることなく魔動四輪を進めていくとこちらに気が付いた人影が振り向いて飛び出してきた。

 エルマは慌ててブレーキを踏みスピードを落とす。

 人影、男の前に魔動四輪を止め車から降りる。もちろん武器を持って。一見丸腰に見えるが魔法使いの可能性もある。周りは見渡せる範囲ではあるが他に人は居ないのでこちらを油断させる囮というわけではなさそうだが、この目の前の男一人での盗賊かもしれない。


「おい、急に飛び出してきて危ないだろう」


 俺が代表して男に話しかける。

 この男、よく見ると前世の日本人のように見える。15年以上この世界で暮らしていたから今まで気がつかなかった。それに、冒険者や兵士の装備以外は前世と似たようなデザインなのでぱっと見では分かりずらかったのもある。


 この世界の言語は地球のものと同じだ。そして、俺たちが暮らすデトール王国はありがたい事に日本語が共通語として使われている。まあ、俺たち冒険者は国を跨いで活動することがあるので予備校時代は多国語を死ぬほど勉強させられたが。

 俺の使用した言葉に男はホッと息を吐く。まあ、見た目日本人じゃないし、そもそも異世界なので言葉は不安に思うよな。俺も母の言葉がはっきりと聞こえるようになるまでは不安だったし。


「ごめん、人に会えたからつい。それで、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 俺は目の前の男が戦う力を持たない普通の日本人だと認識しつつも、一応は意識を向けつつエルマに視線を送る。俺の視線にエルマは頷く。それを肯定と受け取り男の話を聞くことにする。いざという時はエルマが斬ってくれるから問題ないだろう。


「いいけど、わたし達も先を急いでいるから手短にお願い」


「分かったよ。それで、聞きたいことていうのはここが何処か教えて欲しいんだ。ちょっと迷子みたいで」


 普通ならあり得ない質問だ。この国の街は碁盤目のように点在しているので普通に街から街に移動するだけでは迷うことはない。実際は世界単位の迷子だが、そんなことは俺や目の前の男のように異世界の存在を知っていないと分からない。

 だから俺も、何も知らない人を演じる。


「道に迷うって、おかしなことを言うね。まあいいよ。ここはデトール王国、リデルク市からミモザ市につながる街道のおよそ中間だよ。これでいい?」


「ありがとう。一応確認なんだが、このまま道なりに行くとミモザ市に着くんだよな?」


「そうだよ。もう質問がないならわたし達行くね」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 俺が別れを告げようとすると男は必死になって止める。分からなくもない。知らないところに転移させられてようやく会えた言葉の通じる人間。現在地が分かっているとはいえいつ街にたどり着くのか分からない中一人にはなりたくないだろう。

 気持ちはわかるが、俺もエルマも二人きりの状況を壊してまで見知らぬ男と共に行動したくない。


「何かな」


 男は必死になって言葉を探す。


「ええと、できれば俺も乗せていってもらえると嬉しいんだけど」


「え、嫌だけど」


 男は驚いた表情をする。まさか、断られるとは思ってもいなかったのだろうか。まあ、異世界系では最初に出会った現地人と友好を深めるのはテッパンだからね。でも、普通に考えて欲しい。女ふたり旅に男を同伴させますか。それも、カップルのふたり旅だ。同伴させるわけないだろう。しかも名前すら知らない他人を。


「驚いた顔してるけど、わたし何もおかしなこと言ってないと思うよ。知っている人ならともかく、素性の分からない人を乗せるほどお人好しじゃないよ」


「…… 確かにそうだけど。頼む、荷台でもいいんだ。あ、俺の名前は安男。頼む」


 男あらため安男は頭を下げて必死に頼み込む。助けてやりたい気持ちがないわけではないが、彼に言ったこと以外にも受けない理由が多々ある。代表例を挙げるとするならば報酬だ。メリットが無い人助けを求めるのは少年誌の主人公だけにしてくれ。


「悪いけど、他を当たって。水だけ少し分けてあげるから」


「おかしいだろ、人がこんなに頼んでいるのに助けないなんて」


「おかしく無いよ。無償で人助けができるのは聖人かバカだけだから。わたし達はどちらでも無いから。エルマ、行こう。ヤスオ、だっけ? 危ないからどいてね」


 俺を睨みつけながらブツブツと何か呟く男を無視して魔動四輪に乗り込んだ。クーラーボックスから水筒を取り出し約束通り男に投げ渡して走らせた。


 途中で妨害に遭ってしまったが夕方にはミモザ市に着くことができた。

 ミモザ市は街の規模としてはリデルクとほとんど変わらない。ただ、すぐ北にダンジョン都市があるため、冒険者の数はやや少ない。

 北の門に近い宿に泊まった。明日にはダンジョン都市に着くことができるだろう。


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