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6.初めての冒険と告白

「おはよう。それじゃ、行こうか」


 翌日の午前7時。俺は約束通りエルマを迎えにきた。家の前にはすでに準備を終えたエルマが待っていた。

 気合い入っているね。


 冒険者ギルドについた俺たちは依頼の張り出されている掲示板を吟味することなく、あらかじめコレと決めていた依頼を取り受付へと移動した。

 俺たちの冒険者としてのキャリアでまず最初に討伐すると決めていた魔物は「飛竜ワイバーン」Cランクの魔物で、亜竜に分類される。空を飛び火のブレスを吐く。亜竜ではあるが竜種の一種なのでほぼ全身が素材として売却することができる。唯一売ることができないのが肉であり、その理由も不味くて食えないからだ。


 ワイバーンの生息地は街から離れた高台であることが多く、街を襲うことは基本的にない。ワイバーンの討伐依頼が出るのは人を襲うからではなく、人がその素材を求めるからだ。


 移動には魔動四輪を使う。ワイバーンはロック鳥と同じくらいの大きさなので好みの二輪ではなく前世でいうところのワンボックスカーに乗る。交互に運転するが今は俺だ。


「シエルは運転下手だね」


 エルマの下手くそ発言に思わず顔を顰める。

 いや、分かってるけどね。自分が車、魔動四輪の運転がうまくないってことは。でも、実習ではミスしたことないし、今までも無事故無違反なのでそこまで言われるほど下手だとは思わない。そりゃ、エルマと比べたら下手だけどね。


「これでも実習では満点だったんだけど。無事故無違反だし」


「そうなんだけどさ。なんというか、教科書通りでぎこちないんだよね。今走ってるところは道から外れていて人も車も他に無いんだから力抜いて楽に運転しなよ」


「だったら楽しい話をしてよ。静かなところで運転するのって変に緊張する」


「仕方ないな。話に夢中になって道間違えないでよ」


 それからは2時間おきに交代しながら暮れるまで走った。


 焚いた火を囲み、夕食を食べる。1日目なのでクーラーボックスに入れた肉を焼く。キャンピングカーでもなければ冷蔵庫を持ち運ぶことができないので1日目にしかできない贅沢だ。

 塩と胡椒のみの味付けと何も変わったことはしていないが、外ご飯効果でいつも食べている母の料理よりも美味しく感じる。肉汁が口の中いっぱいに広がっていく。


「うん、美味しい。シエルは料理上手だね。将来はいいお嫁さんになれるんじゃない?」


「お嫁さんとか、それはない。絶対にない。それに、美味しいのは外で食べてるからだよ。なんの変哲もない屋台の料理だって美味しく感じるでしょ。いつもと違う特別感が美味しく感じさせているだけだよ。この食事だって、冒険を続けていくうちに普通に感じられるようになるよ、きっと」


 男と結婚とか無理無理無理。俺は前世から変わらず性や恋愛の対象として見ているのは女性だ。これは異世界にきてから多くのことが変わった俺が変わらなかった数少ないものの一つ。女性と結婚したいとは思っても男性とは結婚したいとは思わない。


「なら、早くこれが普通のことになるようにたくさん冒険しないとね」


「そうだね。そうなるように頑張らないと。まずは、明日のワイバーンからだね」


 夕食を食べ終えた後は簡単に体を清めてくるまで眠りについた。



 翌朝、いつも通りの時間に起きた俺たちは軽く朝食をとり出発した。運転は俺。昼前には目的地にたどり着くので前衛で暴れる予定のエルマの体力を温存するためだ。


 そして3時間後の午前10時。俺たちは目的地であるリデルクの街から北東にある高台に到着した。魔動四輪を止め降りる。

 この高台には空を飛ぶ魔物が多く集まっており、見上げれば何かしら視界に入る。ワイバーンを見つけるのはたいして難しくない。


 目に入ったワイバーンに向けて氷矢<アイスアロー>を放つ。魔法が直撃したワイバーンは俺たちを敵認定し、下降してくる。炎のブレスを吐きながら突進してくるので土壁<アースウォール>で突進ごと防ぐ。

 ワイバーンが土壁にぶつかったタイミングで左から飛び出したエルマがワイバーンの翼を切り落とした。


 ワイバーンは飛べなくしてしまえば後は簡単だ。翼の内包の側面から尻尾による薙ぎ払いに気をつけて攻めればいい。魔法使いが常にワイバーンの正面にまわり牽制していれば、側面は安全だ。

 最も、ワイバーンは落とすまでが難しい。まず初めに、はるか上空を飛んでいるワイバーンに一定以上の威力の攻撃を当てて、こちらがワイバーンの脅威になると判らせなければいけない。これが意外と難易度が高く、魔力が低い人が魔素をケチるとまず寄ってこない。

 二つ目にして最大の難所がワイバーンの翼を切断することである。生きたワイバーンの体は硬く、その中でも飛行を支える翼は頭の次に硬い。だから普通のCランクパーティだと切断までに何度も飛ばれてしまう。そんな翼をあっさりと両断するエルマは、剣の威力に限ればリデルクの街にいる冒険者で1位に輝くのではないだろうか。


 翼を落としたワイバーンをあっさりと倒し、手早く解体する。必要な分を魔動四輪に乗せ、残った肉を餌とする。依頼はワイバーン1体だが、もう少し狩ることにする。

 ワイバーン1体の売価はおよそ23万エリス。このまま帰れば一人当たり11.5万エリス。2日かけたので1日あたりでは一人約6万エリス。Cランクパーティとしては十分すぎる稼ぎだが、もう少し稼いでおきたい。それに、俺たちが目指しているのはただの冒険者ではなく、もっと高みだ。お互い口には出していないが、Sランクが共通の目標であると認識している。


 ワイバーンの肉に他の魔物達が寄ってくる。それらをできるだけ綺麗な状態で倒していき、最終的にワイバーン2体、ロック鳥3体、ワイバーンの上位種で、Bランクの魔物である「氷飛竜フロストワイバーン」を1体倒すことができた。本当はもう少し獲物を狩りたかったが、時間も、魔動四輪の容量的にもこれが限界だった。


 街に帰ることができたのはその日の深夜だった。深夜でも窓口は空いているのでギルドの利用が可能だ。

 魔動四輪から2回に分けて受付に素材を運ぶ。いやー便利だわ猫車。前世では使う機会がなかったが、これがないと素材運びが倍以上かかる。魔法使い的には肉体労働が苦手なので非常に嬉しい。


「依頼の確認と、こちらの素材の買取をお願いします」


「はい。承りました。ええと、依頼の品が、ワイバーン1体で、その他買取がワイバーン1体とDランク魔物の魔石2つ、フロストワイバーン1体ですね。ロック鳥の肉は売却しないのですね」


「はい。普通にかったら高いので」


「確かにそうですね。はい、確認しました。全部で92万2千エリスです。全額現金でお渡ししますか」


「いえ、10万エリスだけ現金で渡してください。残りは預金でお願いします」


「分かりました。そのようにしておきます。それではカードを」


 俺たちがカードを渡すとそれを受け取った女性は機械に通して何かする。ピッという機械音が鳴ると操作が終わったのか、カードが返却される。カードには現在の預金額が前にた時よりも40万ほど増えていた。最近は冒険者として活動するための装備や魔動四輪など、かなりお金を使ったので額面自体は50万に届くかどうかといったところだ。


「ご確認していただけたでしょうか。それで、こちらが現金分の10万エリスです」


 10枚のお札が見えるように並べられる。俺はその半分を手に取り、エルマに手渡す。残りの5万エリスを財布に入れる。すっからかんだった財布に重みが復活し、ほんの少し気分が上がった。



「初めての依頼お疲れ様。第一歩としては最高の出来だったんじゃないかな」


 家に帰ってからは簡単な料理を作って普段は飲まないお酒を飲んでいる。あ、この世界の成人年齢は15歳からなので違反ではない。

 甘い果実のお酒は、この体になってから変わった俺の味覚にピッタリで、美味しい。アルコール度数も低いので飲みやすい。


「そうだね。これ以上ないスタートを切ることができたと思う。それもシエルが一緒だったからかな」


 エルマが頬を赤く染めて言う。酒に酔っているようにも見えるし、そうでないようにも見える。すごく可愛い。


「酔ってる?」


「酔ってない。本心だよ」


「…… 相変わらず、エルマは変わらないな。その気になるだろ」


「ごめん、最後なんて言った? 聞こえなかった」


「何も言ってないよ。さ、晩酌の続きをしよう」


 あぶなかった。聞かれなくてよかった。俺はエルマのことを恋愛対象に見ているが、エルマは違うだろう。この気持ちは隠し通すと決めている。だから、勘違いをしてしまうような言動はやめてほしい。手を出しかねない。


 初めての冒険の終わりでテンション上がっていたのかお互いに酔い潰れるまで飲んでしまった。こんなのは前世の経験も含めて初めてだ。酔っ払いが大嫌いだった自分が、まさか泥酔してしまうとは思ってもいなかった。


 何とかしてベッドまで移動するとエルマが覆いかぶさってきた。節約のために同じベッドで寝ているのでこういう事もあるとはたまにあるが、今日はなんというか、ダメだ。酔っていて感情の生業が効かないし、感情も昂っている。


「えるま〜、どいて〜」


 力一杯エルマを押すが、それ以上の力で押さえつけられているのか、支点を抑えられているのかどうか分からないがびくともしない。


「シエル〜」


 いつも以上にエルマが甘い声で俺の名前を呼ぶ。さっきまでよりも顔を赤くしているのでえろい。


「すき」


「んなっ」


 今の衝撃で酔いが一気に覚めた。エルマの顔を見上げると、どう言語化すればいいのだろうか、彼女は女が意中の相手を襲うときの顔をしていた。


「本気で言ってるの?」


 どういう意味でとかは聞かない。この顔を見て友達としてだとか酔って言ったとは思わない。


「嘘でこんなこと言わない。あたしは、シエルが好き。もう何年もこの気持ちは変わらないよ。今日言おうと思っていたんだ。好き」


 唇を奪われる。舌がねじ込まれる。いやらしく舌が絡められ意識が飛びそうになる。

 前世込みのファーストキスはほのかに果物の香りがするアルコール味がした。


「シエルはどう思っている? 私のこと好き?」


「好きだよ。出会ったときからずっと」


「なら、もう我慢しなくていいよね」









 明日が休みでよかった。



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