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5.卒業して



 入学から2年が経ち俺たちは冒険者予備校を卒業し晴れてCランク冒険者になることができた。

 卒業の成績は俺が2位でエルマが1位。学力勝負ではない単純な力による基準では魔法の中でも回復魔法が得意な俺では火力で劣るのだ。

 同じクラスだった原色トリオたちは卒業試験で少し点数が足りずCクラスから落ちDクラスでの卒業となった。彼らは卒業後も原色トリオとしてパーティを組むのだとか。個人的な意見ではあるが、彼らのパーティはバランスは悪くないが、魔法使いである緑の回復能力が低めなので、新たに回復職を仲間にするか緑の回復能力が上がればすぐにでもCランク冒険者として活動することができるだろう。現実的なのは前者かな。筋肉がすぐにつかないのと同じで魔法技能も一朝一夕で身につくものではないのだ。


 予備校では多くのことを学ぶことができた。冒険者として活動するために必要なことは一通り学んだのではないだろうか。

 初めに行った討伐演習から護衛演習、ダンジョン演習に採取演習、果てには前世のバイクや自動車に似た乗り物である魔動二輪や魔動四輪の免許取得まで幅広い実技が行われた。


 どれもいい思い出ではあるが、個人的にはダンジョン演習が最も印象に残っている。ダンジョンは世界中に点在するある種の天然資源で、常識の範囲外の存在である。一番わかりやすいのはダンジョンで討伐された魔物は死体を残さないことだ。ダンジョンの魔物は死んだ後は霧のように姿を消し、魔物としての象徴である魔石だけを残す。ごく稀に魔石以外の部位も落とすが。

 魔石だけしか残さないので魔物1匹あたりの売価は下がるが、解体の手間や解体をしない場合は持ち運べる量が違うので時間あたりの稼ぎはダンジョンの魔物の方が多くなる傾向がある。

 どちらが良いかは人それぞれだが、ダンジョンは冒険者なら一度は攻略してみたいと思うもので、各地のダンジョンは人が絶える事はない。ダンジョン探索専門の冒険者がいるくらいだしね。


 そして俺たちは卒業したその足で冒険者ギルドを訪れた。もちろん、予備校の卒業証明書を持って。これがないと冒険者にはなれるけど最低ランクであるEランクからのスタートになってしまう。卒業証明書には何クラスで卒業したかまで書かれているのだ。ただ卒業したことを証明する紙切れではない。まあ、予備校を卒業できた時点でDランク確定なんだけどね。Eランクは予備校に通わずに冒険者になった初心者のためのランクだから。


 本日行うの冒険者ギルドへの本登録。予備校入学時に仮登録はしていたので、今日する事は簡単だ。写真を撮って名前を書いて魔素の登録をするだけで終わる。冒険者とは云々は予備校で聞かされているし、そもそも仮登録の時点で説明を受けている。


「はい。これでお二人の登録が完了しました。Cランク冒険者として頑張ってください。期待していますよ。こちらがギルドの会員証です。紛失等した場合再発行は可能ですが、その際に2,500エリス必要になりますので、できる限り無くさないようにしてください」


 前世の運転免許証のような顔写真入りのカードが渡される。

 このカード、本登録では説明されなかったがただの身分証明書ではない。クレジットカードのような役割もあるのだ。

 ランクによって月に使用できる上限が決まっている。Cランクだとだいたい50万エリスくらいからだろうか。俺たちはまだ冒険者一年目なので同じCランクでは上限は一番低い。

 前世でクレジットカードを使ったことがない現金人間なのでクレジットカードの仕組みについてはあまり詳しくないが、仕組み自体はあまり差はないと思う。こちらにはリボや分割払いなどはなく、一括のみというのが一番の違いだと思う。


「それじゃあ帰ろうか。母さんが卒業祝いに美味しいもの作ってくれるって」


「そうなんだ。おばさんの料理美味しいから楽しみだな」


「…… 母さんの前で間違ってもおばさんって言わないでね。まだ35で、見た目だけでいえば20代前半で通じるのに気にしているんだから」


「分かってるよ。おばさんの前ではお義母さんと呼ばせてもらっているから大丈夫」


「(俺の)お母さんって呼んでいるなら大丈夫か」


 家に帰ると母が料理を作って待っていた。とても3人で食べ切ることができない量の料理に俺は思わず一歩後ずさってしまった。


「お帰りなさい。準備できてるわよ。手洗ってきなさい」


 手を洗い食卓に座る。すぐに手をつけたくなるところをグッと堪え、手を合わせて食前の祈りを捧げる。特別な時以外は省略するが、今日は全文言う。


「すべての恵みに感謝してこの食事をいただきます」


 とりあえず目の前にある唐揚げに手を伸ばす。唐揚げは異世界者では定番の料理ではあるが、俺が母に伝えたわけではない。生まれた時からある。少なくとも5歳の時には既にあった。

 がぶりと齧り付くと鶏とは違う鳥の旨みがが口の中に広がる。この味はロック鳥だろう。ロック鳥はDランクの魔物で、巨大な鳥が魔石を持っているようなものだ。大きくて空を飛ぶので厄介ではあるがそれだけで、最低限魔法使いと呼べる存在の魔法なら簡単に倒すことができる。

 ニンニクを効かせていないので少しパンチが足りないが、今日はエルマがいるのでそれでよかったと思う。


 いつもより少し高価な食材を使った料理を満足いくまで食べた俺たちは部屋でくつろいでいた。


「明日からわたしたちも冒険者だね。準備はできてる?」


「一緒にしてきたんだから出来てるのは知ってるでしょう」


「そうじゃなくて、上に上がる準備はできている?」


 俺の言葉にニヤリと笑みを浮かべたエルマはゆっくりと立ち上がって俺の目の前に移動する。座っている俺の膝の上に腰を落として鼻先が触れ合うまで顔を近づける。

 見慣れているはずなのに見惚れてしまいそうなほど綺麗な顔が眼前いっぱいに広がり、俺の心臓を加速させる。


「そんなの、あの日からできている」


「知ってる。確認しただけ」


 それからしばらく沈黙が続いた。でもそれは、嫌な沈黙ではなく、どこか心地よいものだった。


 沈黙を破ったのはエルマだった。


「もう帰るよ。あたし達の家に。シエルは今日はこの家で過ごすんだよね」


「うん。明日から家を出るからね。今日くらいは、ね。明日は7時に迎えにいくから準備しといてよ」


「分かってるって。シエルってたまにお母さんみたいなこと言うよね」


「なに、わたしのこと老けてるって言いたいの?」


 流石の俺も母と同じような年齢に見られるのは困る。前世ではある程度のことは全く気にならなかったのに、この体になってからはこんな些細なことですら気になってしまう。


「違うよ。なんて言うか、同い年というよりも少し年上に感じる時があるんだよね。なんとなくだけど」


 エルマの言葉に少しドキッとする。中身は生前の22歳から成長した気がしないが、一応は40年近く生きているので歳をとっているという意味では正しいいと思う。それでも心は少年のままのつもりなので、年齢以上に見られるのは変な感じがする。


「この話はやめよう。楽しくない」


「分かったよ。シエルがそこまで言うならこれで終わるよ。それじゃ、また」


「うん、また」


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