4.冒険者予備校
エルマとの出会いから8年後。
13歳となった俺は冒険者予備校に通うこととなった。
冒険者予備校とはその名の通り冒険者になるための予備校で、13歳から入学を許され、順当にいけば2年間通うことになる学校のことだ。
この様な予備校は冒険者予備校以外にも料理人予備校や細工師予備校、官僚予備校などさまざまな職業に対応したものが存在する。
予備校に入学するためには前世でいうところの大学入試のような試験に合格しなければいけない。一次試験には国語や数学などの業界に関わらず最低限必要な基礎知識を問う共通テストがあり、二次試験に各業界で必要な知識や技能を図る試験とそのまま過ぎて初めて聞いた時は笑ってしまった。
ちなみにだが、官僚と冒険者の予備校に入るためにはボーダーや定員が存在するが、その他の予備校にはその様なものは存在しないので浪人する様な人は少ない。ストレートで入卒できなければ出世に関わるのでどうしてもその職に就きたいという人以外は試験がダメだった場合は妥協して他のところに入るからだ。
そして俺は晴れて冒険者予備校に通うことが叶った。それも主席で。ギリギリだったけど。次席だと言っていたエルマとの差は、剣と魔法で分野は違うが実技ではなく、配点の少ない共通テストだった。
大学入試と似た様な形式とは言ったが、所詮は13歳の子供が受ける試験。前世の基準で言えば中学3年までの内容しかない。前世ではボーダーフリー一歩手前のとはいえ一応4年生の大学生だったのだ。大学4年間勉強らしい勉強はしてこなかったので数学の公式なんかは忘れてしまっていたが、一度覚えていたものを覚え直すのは簡単で、すぐに元の学力以上のものを手に入れた。
使われている言葉や数式などが前世と同じだったことも大きかった。前世で学んだことがすぐに活用できるからね。
主席で合格したからといって特に何かあるわけではない。入学式での挨拶も、学費の免除もない。せいぜい教師陣に少し注目されることくらいだろうか。
クラス分けは成績順なので俺とエルマは同じクラスとなった。仲の良い人が同じクラスだと何年経っても安心する。
そう、あの日以降俺はエルマと関わるつもりはなかったがエルマの方から押しかけてきてそのまま仲良くなったのだ。まあ、教えていないはずなのに翌日家にやってきた時は恐怖でしかなかったけど。
「あー、オレはこのCクラスの担任のハンスだ。よろしく頼む。んじゃ、とりあえず自己紹介から頼む」
40代後半のおじさん教師が教壇に立ち慣れた様子でホームルームを始める。適当に生徒を指名し、自己紹介を始めさせる。
「ラルフです。武器は剣。よろしく」
最初に自己紹介をしたのはラルフという名前の男で、赤い髪が痛々しい。
「ボリス。武器は槍。よろしく頼む」
次は青い髪の槍使いボリス。寡黙なタイプなのかもしれない。ガタイはいい。
「ぼくの名前はハイコです。土魔法が得意です。よろしくお願いします」
3人目は緑髪の魔法使い。前二人と比べてヒョロくて小さい。身長はエルマくらいかな。
「あたしはエルマ。剣士」
4人目は友人のエルマ。出会ったあの日から鍛えているので細身ながら鍛えられている。容姿も、俺が予想していた通りイケメンになっていっている。前の男3人よりもイケメンだ。
「シエルです。魔法使いで、エルマとは幼馴染です。どの魔法も満遍なく使えますが、特に回復魔法が得意です」
最後は俺だ。エルマの自己紹介が短かったので少し長めに自己紹介をする。母譲りの容姿はクラスの男の視線を釘付けにしてしまう。気持ちは分からないではないが、中身は男なのであまり嬉しくない。
「…… 入試の結果、今年のCクラスは5人となった。なお、成績が落ちればDやEクラスに落ちるから慢心するなよ。それじゃ、今日は終わりだ。明日は朝8時からだから遅れるなよ」
自己紹介が終わると簡単にクラスの仕組みを紹介し、解散となる。席を立とうと荷物を手に取ったところで男3人に塞がれる。
「シエルさん、俺たちとパーティ組まない。よければエルマさんも」
赤が代表してパーティに誘ってくる。それにしても、もう3人は組んだのか。早いな。
ついでのようにエルマを誘ったことをみるに、3人は純粋に俺の回復魔法が目当てなのだろうが、ワンチャン俺とどうにかしたいという欲望を隠しきれていない。
はっきり言って生理的に受け付けない。これは中身が男とか関係ない。例え俺の中身が女性だったとしても無理だっただろう。
断るのは確定だが、2年間同じクラスであることを考えるとできる限り穏便に断りたい。
どう断るのが正解か悩んでいると腕を引かれた。驚いて見上げるとエルマがいつもに増してカッコいい表情で俺を見下ろしていた。
「悪いけどシエルはあたしのだから」
顔が熱くなっていくのが分かる。もう何度目かも忘れたがときどきエルマはこの体の女の部分を引き出してくる。元々好みの顔なので何度も落ちそうになった。いやまあ、エルマのことは普通に好きなので落ちても問題ないんだけどね。でも、なんていうか、エルマに対しては落としたいという感情の方が強い。その感情だけでまだ耐えていられる。
エルマに引かれる形で帰宅した。
連れ去られる俺をみる男たちの表情は愉快だった。
冒険者予備校に通うようになって2ヶ月が経った。
冒険者予備校の授業は週に5日。今までの授業内容は武器や魔法の実技、国内で生息しているメジャーな魔物生息域や特徴に加えて、頻度は少ないが基礎教養や簡単な礼儀作法。学外に出て実際に魔物を討伐する演習はまだない。
それも今日までだ。今日は街の外に出てEランクの魔物を討伐する実技演習がある。
「今日のメインターゲットはトードだ。知っての通りトードは最弱と呼ばれる魔物で、10歳にもなれば誰だって倒すことができる。魔石はクズ同然で売っても端金にしかならないが、コイツは常に討伐対象に入っている。なぜだか分かるか?」
青空教室のもと、トードを片手に持ったハンスが俺たちに問うた。当然最初の授業で習ったことなので覚えている。トードは4月から7月にかけて大量発生し、ピークを過ぎた8月以降も数は半数以下に落ちるが他の魔物と比べれば大量に生まれてくるからだ。倒しても倒しても絶滅せず国に肉を安定供給してくれる。鶏に似た味で普通に美味しいし。
「はい。トードは常に大量発生しているからです。また、トードは味も鶏に似て美味しいので食肉の供給にも一役買っています」
「その通りだラルフ。特にこの雨の多い季節は通常よりも多く発生する。心して狩るように。開始。あ、解体はまとめて行うからその場でするなよ。討伐数によって加点されるからな、どんどん狩れ」
「行こうか、シエル」
「ええ」
シエルを先頭にその一歩後ろに陣取りトードの居そうな茂みに向かって走り出した。
今回の演習は実践も兼ねているので暫定ではあるがパーティでの行動になる。採点も個人単位ではなくパーティでの討伐数で決まる。
俺はエルマとパーティを組んでいて暫定Cランクパーティという扱いになる。同じクラスの3人も3人でパーティを組んでいて同じ暫定Cランクだ。
冒険者のランクはCランクが一般的なランクで、下にD,Eが、上にB ,A,Sがある。Sランクの冒険者は片手で数えられるほどしかいないので実質Aランクが最上位の冒険者となる。両親はAに近いBランクの冒険者なのでかなりの実力者になる。そんな父が単独だったとはいえ殉職するような任務とはいったい。
まあ、今回の演習は街のすぐ近くで雑魚魔物のトードを狩るだけだし、講師のハンスは歳を取って引退したとはいえ元Bランクの冒険者なので大抵のことはなんとかしてくれる。危険はない。
「やっぱりザコだな」
10匹目のトードの脳天を刺したエルマが呟いた。確かに雑魚だ。子犬ほどの大きさとはいえ魔石を持っているだけのただのカエルで、大きさだけなら前世でも同程度の大きさの個体はいたので、その見た目の気持ち悪さ我慢すればただの動く的だ。簡単に倒すことができる。
「そうだけどさ、倒した魔物は自分達のものだし、成績にも関わってくるからもう少し頑張ろうよ。ほら、また来た。氷矢<アイスアロー>」
氷の矢がトードの頭に突き刺さる。一瞬の痙攣ののち絶命する。頭に突き刺さった氷を消し去りトードを袋の中に入れる。
その後もトードを狩り続けること2時間、俺たちは100のトードと5羽の角ウサギ、ホーンラビットを討伐することができた。
ホーンラビットは名前の通りツノの生えたウサギの魔物でトードよりは強いが弱い魔物で、Eランクに位置する。弱いがツノが生えているので注意はしなければいけない。下手すると腹に穴が開く。
今日の成果だとだいたい50,000エリスくらい。Eランクの魔物相手だと考えると上場ではないだろうか。トード100匹が意外といい仕事している。1匹あたり350エリスにしかならないが、100匹も狩ればかなりの金額になる。
「今日の第一の演習は終了だ。皆、よくやった。次は解体に移る。数が多いのでオレも手伝うが基本的には自分達で行うように」
討伐演習が終われば次は解体演習が始まる。俺たちが討伐した100匹のトードに加えて原色トリオの50匹が並ぶとものすごい光景だ。決していい光景とはいえないけど。
魔物を狩ることは得意だが解体の方はあまり得意ではない。特にエルマ。彼女は一見なんでもできるイケメン女子に見える。実際大抵のことは器用にこなすが、料理と解体が下手だ。俺も下手ではないが決して得意とはいえない。ギリギリ平均くらいの腕前と言ったところだろうか。
そのため、解体は俺がメインで行う。
約2時間後、元ベテラン冒険者のハンスの手伝いもあって何とか予定されていた時間内に全て解体することができた。俺も数えるのが嫌になるほどトードを解体したので、自分でも分かるくらい解体が上達した。
教師に魔物の解体を手伝ってもらったが数が数だったので大幅な減点はないようだ。手を借りたことは事実なので満点ではないが朗報だった。まあ、冒険者にとって特別重要な項目ではないからなのだろうが。最悪ギルドで手数料を払えば解決する問題だからな。できれば色々と便利くらいの感覚でいいと思う。
解体した素材を冒険者ギルドで換金し解散した。家に帰るまでが演習だぞとどこかで聞いたことのあるようなセリフを言ったのは少し可笑しかった。
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